CULTURE | 2021/09/09

ゲーム内アイテムを売って生計を立てる?接近するNFTとゲーム文化【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(8)

『Axie Infinity』より
深夜、灯りもついていないリビングで、幼い勇者は魔界であてどないハンティングに繰り出...

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『Axie Infinity』より

深夜、灯りもついていないリビングで、幼い勇者は魔界であてどないハンティングに繰り出していた。狙いは、右手に曲刀を握り、左腕をまるごとクロスボウにし、たった一つの目でギラリと睨む、鋼鉄ボディの最高にイカしたあいつ。そう、キラーマシンだ。

RPG『ドラゴンクエストV』では、倒したモンスターを低確率で仲間に勧誘できる。わたしはどうしても、たった一つの目玉をゴォ、と光らせる無骨なアイツと友達になりたくて、親の目を盗んではキラーマシンとの密会を重ねていたのである。しかし、ことごとく振られてしまう。というのも、キラーマシンが仲間になる確率はたった256分の1。当時この数字を知っていたら、早々に諦めてしまっただろう。

しかし来る日も来る日もキラーマシンの屍を築いていると、性根尽き果てたロボットはわたしの軍門に下った。その時、わたしが「ロビン」と名付けたキラーマシンは、今も実家にあるメモリーカードの奥底で永遠の眠りについているけれど、ロビンと旅をしたほんの僅かな期間の記憶は……ぶっちゃけ嫁(フローラ)とのものより今も色濃く残ってる。

かように、ゲームをプレイした者は、一つは何か大業を成し遂げられる。それは「逆鱗を剝ぎ取った」「SSRの美少女・美少年を引き当てた」「1mmも隙間がない弾幕をかいくぐって世界を救った」など諸々あるだろうが、その大業は中々他者に理解されなかった。つまり親から「いつまでそんな無駄なことをしているの」と怒鳴られ、経済的な利益に直結しやすい勉学を奨励されるのである。

しかし、これからのゲームはもう「無駄」と呼ばせないかもしれない。つまり、あの日手に入れたキラーマシンに1万円の値段がついていたら?そのキラーマシンを使って他のモンスターを狩ってさらに5万円稼いだら?ゲームを遊んだ実績に応じてお金を稼げる、そんな時代が実際にやってくるかもしれないという話を、今日はしたい。

Jini

ゲームジャーナリスト

はてなブログ「ゲーマー日日新聞」やnote「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。

今注目を浴びるNFT x ゲームの事例

ゲームを遊んでお金を稼ぐ、そんな仕組みを実現するのが、近年注目されつつある新しい文化、NFTだ。

NFT(Non-Fungible Token)とは非代替性トークンと訳され、代替が不可能なブロックチェーン上で発行された唯一無二のデータのことを指す。本来、デジタル上のデータは無数に複製可能なものである。それに対し、NFTは仮想通貨などで用いられるブロックチェーン技術を応用し、実在の芸術品に鑑定書を付与しその真贋を担保するように、そのデータのオリジナリティを担保することができる。

このNFT、2017年には既に広まりつつあった概念だったが、注目を浴びたのは2021年。Twitter創業者のジャック・ドーシーの初ツイートが約3億円で落札されたり、テスラのイーロン・マスクによる音楽作品が約1億円で落札されたことが、国際的なメディアに取り上げられてからだろう。そのうえ近年の仮想通貨の高騰と伴い、同じブロックチェーン技術を用いたNFTにもまた、投機目的での注目が集まるようになった。

そんなNFTとゲームの関わりはかなり古くから存在する。その一つが、2017年にカナダ・アメリカからリリースされたゲーム『CryptoKitties』だ。

『CryptoKitties』より

ゲームは非常にシンプルで、デジタル猫を飼い、育て、繁殖する、『たまごっち』のような内容だ。しかしこの猫一匹一匹が全て固有のデータであり、イーサリアムブロックチェーンを通じてユーザー間で取引ができるNFTだったため、世界中の投資家が注目。元々は1000円にも満たなかった電子猫たちは、2018年には最高2000万円を越える価格で取引されたことで、テレビや新聞にも掲載された。

しかし現在、この『CryptoKitties』をも超える新たなNFTゲームが大きな注目を浴びている。それが、ベトナムのスタートアップSKY MAVISが開発する『Axie Infinity』だ。リリースは2018年とやや古株だが、2021年から突然ユーザーを集め、8月にはアクティブユーザー100万人を突破。そのユーザーの内訳は、55%がフィリピン、次いでベネズエラと、コロナ禍と相まって政情不安に陥った国々で一気に加熱した経緯がある。

内容は『CryptoKitties』と同じく、「Axie」というゆるキャラのようなマスコットを育て、繁殖させていくゲームである。ただ電子猫と異なり、AxieたちはHEALTH、SPEED、SKILL、MORALEとそれぞれStats(性能)が割り振られており、数値的に優劣が視覚化されている。そのうえ、『Axie Infinity』には、一人用の「Adventure」「Land」に加え、同じユーザー同士で対戦しランキングを競い合う「Arena(PvP)」など、それぞれAxieの優劣を競う要素が大々的に導入されている点が、まさに「NFT x ゲーム」の可能性に踏み込んでいる。

その上「Adventure」モードを進めたり、「Arena」で他人に勝利すれば報酬が手に入る。「Arena」ではランキング上位にいくほど報酬も増えていく仕組みだ。そしてこの報酬、「SLP」「AXS」と銘打ったインゲームマネーは仮想通貨でもあり、もちろん換金できるため、ゲームに勝利してお金を稼ぐ→稼いだお金でより強いAxieを購入→より勝利する→(以下ループ)と、まさに資本主義の本質がそのままゲームになっている。またスカラーシップと呼ばれる制度によって、他プレイヤーへ「Axie」の貸し出しをすることができ、貸し出した「Axie」が獲得する報酬の一部を親が受け取れる仕組みもまさに資本主義的と言える。

そのため、ある程度の初期投資ができれば、他のプレイヤーから強い「Axie」を買い取っていきなり対人戦に参入することもできるし、最低限の初期投資や、スカラーシップによって貸し出しを受けた「Axie」を使い、「Adventure」等でコツコツ稼ぐこともできる。勝敗という明確な指標がリアルマネーと結びつく、いよいよ、「Play-to-Earn」の原理が根付くゲームが本格的に誕生している。

猫を育てる『Cryptokitties』など、2017年頃からNFT文化がゲーム的な性質から発展し、明確にNFTを介して人間同士の競争を実現した『Axie Infinity』に至る中で、いよいよNFTゲームがゲーム文化、そしてブロックチェーンの可能性を発揮しつつあると言えるだろう。

ゲームアイテムを現金で売る文化は成功したのか

ここまで「ゲームらしさ」に接近するNFTの事例をいくつか紹介したが、そもそも、NFTは何故「ゲームらしさ」に接近しているのだろうか。実は、ビデオゲームと相性が良いと考えられる共通の要素がある。

まず、ビデオゲームは主にデジタル上から産まれ、デジタル上での価値を創造した文化だ。ハイスコアやレアアイテム、それこそ『DQ5』の「ロビン」は、本来なら単なる数字に過ぎないはずだが、プレイヤーの心理や感情(イェスパー・ユールの言う「結果に対するプレイヤーのこだわり」)によって特別な価値を持つ。データに価値を紐づける点において、ゲームは仮想通貨やNFTのはるか先輩とも言えるだろう。

さらに、その特別な価値は、国家や社会、あるいはゲームそのものにさえ裏打ちされた価値ではない。2020年に香川県で「ネット・ゲーム依存症対策条例」が施行され、今年8月30日には中国で18歳未満を対象にオンラインゲーム利用を1週間で計3時間に制限するルールが導入されたように、むしろ国家権力は概ねゲームと相容れず、往々にして家庭においてゲームは子供にとって未だ有害なものとして扱われる傾向にある。

しかしだからこそ、ゲーマー個人の体験、またゲーマー同士の競争は当事者によって価値が認められ、ひいてはesports文化などその価値観は国境さえ越えている。これは中央銀行や政府に代わり、ブロックチェーンを用いてユーザーの間で価値を創造しようと試みた仮想通貨やNFTと部分的に共通する文化だと思う。

さてここまでいわばバズワードの推進力でもって一気に「NFT」とゲームの可能性を鑑みてきたが、過去にもゲームに金銭の価値を紐づける試みはゲーム業界にもあった。

例えば、2012年にアメリカ・Blizzardから発売されたオンラインゲーム『Diablo III』には「リアルマネー・オークションハウス」が存在した。これは、ユーザー同士が作中における消耗品、武器、その他レアアイテムを出品し、これをリアルマネーで取引できるシステムである。実際にこのシステムを利用し、1年で約10万ユーロ(約1300万円)を稼いだプレイヤーまで現れるなど、まさに「Play-to-Earn」を先んじて実現していた。

またアメリカ・Valve社の提供するPCゲーム最大手のプラットフォーム「Steam」では、同社のゲームアイテムをユーザー間で取引するオークション機能、「Steam Community Market」が存在する。中でも1日100万人がプレイするFPS『Counter Strike: Global Offensive』における銃の塗装(Skin)とナイフは取引量が特に多く、2021年には「Titan | Katowice 2014」ステッカーを4枚張り付けた「Ak-47 Case Hardened」を15万ドル(約1600万円)で売ったことを報告するユーザーが現れた。

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