第2回/壁面グラフィックの「3つのデザイン方針」(全7回)
販促空間における壁面グラフィックの手法。第2回目となる今回は、実際にデザインの検討をはじめる際に、どのような方針でデザインを考えればいいのかを解説してみよう。
常日頃、展示会ブースの壁面グラフィックを考える際には、場所(小間位置)や接客方法によって記載内容・方法を変えるようにしている。単に壁面と言っても、来場者がどの方向から近づいてくるか、どのくらいの距離から読むか、どんな状況下で読むのかなど、環境によって、壁面に記載する内容との接し方が変わるからだ。
展示会は、開催されるわずか3日間で集客の結果を出さなければいけない場所であり、その場所に設置される展示ブースには、そのための機能が求められる。このことから、ブースの壁面に記載すべき内容は常に戦略的に考え、意味を持たせてデザインすることになる。この展示ブースを本稿では「販促空間」と捉え、単に展示会の領域だけでなく、様々な商空間に応用できる可能性を探っていきたい。
これまでの壁面グラフィックの作成手法の課題
壁面のグラフィックを検討する一般的な流れは、設置する商品やサービスを優先度・説明順に応じてブース内に配置していき、その内容に沿った文言等を書き込むこととなる。それぞれの壁面にどのような内容を書き込むか。社内で検討が行われ、決まった枠内に書き込めるだけのものの優先順位を決めて書き込むことになるだろう。しかし、この手順で作成されたブース(壁面グラフィック)が大きな集客の成果を生むか言えば、私は「これだけでは難しい」と感じている。
これまで当たり前のように行われている壁面グラフィックの作成手順がなぜよくないのか。
それは、この手順だと、来場者が読んでくれるとは限らず、さらに、書き込み過ぎて文字が小さかった場合などは大きな確率で来場者が通り過ぎてしまう可能性があるからだ。展示会の経験値が高い方であれば共感してくるかと思うが、広い展示会場では、来場者はA1パネルを含む壁面グラフィック類は長くは読んでくれない。では、どうするか。壁面の決められた枠の中にただ書き込むのではなく、小間位置と来場者の流れ、ブースのレイアウトや形状、そして「あまり長くは読んでくれない」「目の前を足早に通り過ぎる」などといった現実的な条件を加味した上で壁面グラフィックを構成していくことが重要となる。このように、単に商品やサービスをただ並べるのではなく、来場者の状況を精緻に反映して初めて結果の出るブース(=販促空間)が出来上がる。
「隙間なく書き込む」が本当に正しいのか
では、実際にどの壁面にどんな内容を書き込んでいくのか、具体的に検討を進めよう。ここで注意してもらいたいのが、「余白があれば、全て書き込まなければいけない」という固定観念だ。「ここに余白が残っているので、何か書き込んでほしい・・」という要望は展示会出展者には驚くほどに多い。しかし、この考えは慎重に考えた方がよい、と思っている。想像してほしいのだが、ブースの壁面に隙間なくありとあらゆることを書き込んだとして、本当に読んでくれるだろうか。無論、気になったところだけに気づいてくれればいい、という考え方もあるだろう。しかし、一方で所狭しと書き込んだブースが離れた場所からどのように見えるだろうか。よほど腕のよいグラフィックデザイナーに任せない限り、単に自己主張の激しい良く分からないブースとして興味を持ってくれさえしない、となる可能性が高い。「余白全てに書き込みたい」は、お客様目線を失った、自分目線の賜物、と言うことができる。
壁面グラフィックの「3つのデザイン方針」
さて、それではこれから実際に壁面グラフィックを検討する上での3つの方針を説明しよう。
TYPE-A/来場者に「読んでもらう」壁面
まず1つ目は、「読んでもらう」ためにデザインをする、という方針だ。これは、これまで多くの出展者が一般的に考えてきた手法だろう。ただし、先述したように、来場者は長い時間その場にとどまって読んでくれることはほとんどない、と言っていい。では、このような「読んでもらう」デザイン方針をどんな時に活用するべきだろうか。私は日頃、このような「読んでもらう」目的の壁面は、ブースの背面や人通りの少ない通路面などに設置するようにしている。そして、出展者の方には、敢えて「この場所に立つのはやめましょう」「敢えて無人にしてしっかりと読んでもらうようにしましょう」と話している。つまり、来場者が読んでくれないのは、出展者がいるからであり、「つかまってしまうと長くなってしまう」という心理があるからだ。そこで、来場者が心置きなく読むことが出来る環境を作り上げることで、このデザイン方針が活きることになる。人通りの少ない場所に敢えて無人の場を設け、じっくりと自社の情報を読んでもらい、その次のアクションとして興味を持ってブース内に入って来てもらう。このような手法を取っている。
来場者が出展者に邪魔されず、じっくりと読むことができる壁面。文章が多めとなる。
TYPE-B/出展者が「説明をする」壁面
次は、壁面には敢えて読ませる文章は多く書き込まず、「出展者自身が、説明に使いやすい図や写真、キーワードのみを掲示しておく」という手法を説明しよう。これはブース内に常に出展者(説明員)がいることを前提としている。説明員がいる状況では、来場者は記載内容をじっくりと読むことはできない。説明員がいるのであればむしろ説明に使いやすい図や写真を壁面にあらかじめ掲示しておく方が便利なはずだ。頻繁に使用する画像や図などを壁面に掲示しておき、「あれがですね・・」などと説明時に活用すれば、説明がしやすくなるはずだ。ここには、多くの文章を必要とせず、画像や図の他にキーワードを書き込んでおくのもいいだろう。
以上のような、TYPE-AとTYPE-Bの壁面を私は「解説系」壁面グラフィックと呼んでいる。このことについては、第5回で詳しく解説を行おう。
出展社(説明社)が近くにいる前提の壁面。出展社が扱いやすい図や画像を書き入れておく。
TYPE-C/「デザイン要素」を入れる壁面
さて、3つ目は、具体的な何らかの解説を行う機能持たず、シンプルにデザイン的な要素として設ける場合だ。つまりは「ただのデザイン」として壁面にデザインを施す、という手法となる。意外に思われる方もいるかもしれない。しかし、これも立派な壁面構成手法の1つとなる。ただし、この場合、「デザイン性」の意味をしっかりと考える必要がある。ブースのデザイン、特に外観イメージは、その企業の「信頼感」や「ブランディング」の観点からとても重要な要素と言える。どんなに秀逸な商品・サービスを展示していても、印象が悪ければ集客に悪影響を及ぼす可能性が高まる。先ほども記載したことだが、ブース全面に隙間なく様々なことを書き込んでいたら、多くのことを書き込んだことで出展者自身には自己満足があるかもしれないが、実際に会場でブースをみると、ごちゃごちゃとしていて印象が悪く見えてしまうこともある。そして、結果として集客ができない、自社商品の価値を低く見られてしまうことも大いにあり得る。ブース全体の印象を作るために、敢えて余白を設け、絵的に物足りない箇所に何らかのデザインを施しておくことは、立派な壁面グラフィックの戦略と言える。この観点から、例えば真っ白でシンプルな壁面にホームページアドレスを1点だけ小さく記載する、ということも、「意味のない」ことではなく、ブースの印象をつくる上での考えであれば重要なデザイン要素となる。
説明としてはあまり意味がなく、ブースの全体的な印象をつくるためのデザイン要素。
以上が3つのデザイン方針となる。では、これらをどのような観点から使い分ければいいのだろうか。TYPE-Aの「読んでもらう」壁面については、先に説明した通り、人通りの少ない通路面など、来場者が取りつきやすい場所に敢えて読ませる場所として設けることが望ましい。またTYPE-Bの「説明をする」壁面は、ブースの内部など、基本的に出展者が常にいる場所に設置すると機能的な活用が可能だ。そして、TYPE-Cの「デザイン要素」に関しては、ブースのレイアウトや他の壁面との関係性、来場者の視点によって変わってくることだろう。
以上、今回は壁面グラフィックを考える上でのデザイン方針を解説してきた。出展担当者やデザイナーの方々の中には、壁面をデザインしたものの、その内容を周囲に対して説得するのに苦労をした、という経験を持つ人も少なくないだろう。是非本稿の考え方で説明をしてみてほしい。私などは、「この部分の意味は何ですか?」と聞かれた際に、「単なるデザインです」と堂々と説明することも多々ある。しかし、その後に本稿のような説明をすると、ほとんどの場合納得してもらえている。
次回は、これら3つのデザイン方針を踏まえつつ、実際にどのようにデザインを考えるのか、高さや距離の関係など、詳細のデザイン手法の解説を行いたい。
※本記事は月刊 「Signs&Displays」 で2025年2月号から8月号までに掲載された記事から転載しております。
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