誰も住めなかった「広すぎる屋敷」の再生ストーリー
瀬戸内海に浮かぶ小豆島で、10年にわたり空き家となっていた名家の邸宅が、新たなかたちで再出発を果たした。敷地面積は約3000平米。昭和6年築の母屋に明治時代の蔵を備え、かつては醤油産業で栄えた家系の象徴でもあったが、不動産業者からは 「広すぎて住居としては売れない」 とされ、長らく活用の道が見いだせずにいたという。
再生を手がけたのは、小豆島リトリーツ株式会社の代表取締役 加藤直樹氏。神奈川での勤務やアメリカ駐在を経て、妻と3人の娘とともに島へ移住した。継承者不在のまま残されていたこの屋敷に可能性を見出し、総額約9,200万円を投じて一棟貸し宿 「お屋敷ステイ幸」 として再生。半露天風呂やサウナ、日本庭園、そして明治の蔵を活用したBARスペースを備えた滞在空間へと生まれ変わらせた。
玄関アプローチには、醤油製造時代に使われていた重石が今も並ぶ。単なる意匠ではなく、産業遺産としての記憶を体験に組み込むための意図的な保存だという。「この佇まい自体が、この土地の歴史を語っている」。加藤夫妻はそう語り、建物を残すことと同時に、物語を次世代へ手渡すことを重視した。
この宿は お屋敷ステイ 幸 と名付けられ、1日1組限定、最大9名まで宿泊可能な高付加価値型の滞在施設として運営されている。港からの送迎やプライベートシェフの手配、敷地内での農業体験など、島の人々と連携したサービスも用意され、「泊まる」 を超えた滞在型観光の拠点となりつつある。
高齢化と若者の島外流出が進む小豆島では、空き家率の上昇が課題となっている。とりわけ、規模が大きく維持費もかさむ名家の邸宅は、住居としても事業用としても扱いづらい存在だった。その象徴ともいえる屋敷を、「泊まれる地域資産」 として転換した点に、この取り組みの意義がある。
現在は公式サイトに加え、楽天トラベルや一休.comなどの宿泊予約サイト、さらにはふるさと納税の返礼品としても展開。2世帯・3世帯でのゆったりとした旅行需要を取り込みながら、島に滞在する時間そのものの価値を高めている。
「お屋敷ステイ幸」 は、最大9名まで宿泊可能で、半露天風呂やサウナ、日本庭園、蔵を活用したBARスペースを備える。
今後は、「子どもがまた戻りたくなる島」 を目指し、滞在観光の推進役としての展開を強めていくという。空き家問題の現場から生まれたこの挑戦は、地方の住まいと観光の新たな可能性を示すものになるかもしれない。
お屋敷ステイ 幸
公式サイト
https://oyashiki-stay.com