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BUSINESS | 2025/12/28

印刷はより“個”の時代へ
テクノロジーとともに進化する印刷技術
“オンデマンド印刷“という新しい選択

「Paper Knowledge -デジタル時代の“紙のみかた”-」
“令和の紙の申し子”吉川聡一と紙について考える。

吉川 聡一
吉川紙商事株式会社 常務取締役執行役員

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吉川 聡一 (よしかわ そういち)

吉川紙商事株式会社 常務取締役執行役員

1987年東京生まれ。学習院大学卒業後、飛び込み営業を含む営業職の期間を2年半経て、現在の吉川紙商事に入社。現社長・吉川正悟が掲げる「人と紙が出合い、人と人が出会う」を実現するため、同社にて平成25年より取締役を務める。2017年にはオリジナルブランドの「NEUE GRAY」を、2020年には和紙のオリジナルブランド「#wakami」をプロデュースし、紙、ステーショナリーの双方を発売。現在はそれらを国内外にて販売するという形で活躍を続ける。

さて今回は、前回から続いております「印刷」についての2回目。前回は、「紙」=「印刷物」に世間の認識がなっていること、「印刷」は「情報のメディア」から「表現のメディア」に変化をしていること、そして、「表現のメディア」を実現するには「用途や目的、予算、なによりも『表現者がどのような表現がしたいか?』」によって、様々な印刷の手法を選ぶことを記載した上で、オフセット印刷とビジネスフォーム印刷を紹介させて頂きました。今回はその続きとして、様々な印刷の技法を伝えるとともに、近年、どのように印刷が変わってきているのかについて記載したいと思います。

前回の記事はこちら
紙の未来を支える“印刷”の行方 「情報メディア」 から 「表現メディアへ」

3. グラビア印刷

「グラビア」と聞くと、水着を着ている女性の姿を思い浮かべる男性も多いのではないかと思いますが、ここで使われております「グラビア」という言葉は、元々、印刷の技法から来ている言葉でもあります。

「グラビアアイドル」が週刊誌などで流行り始めた時代、水着の女性をきれいに撮った写真を、1番きれいに再現するためには「グラビア印刷」が必要でした。現在では、前回のコラムで紹介させていただいた「オフセット印刷」が主流ではありますが、ある時期まではオフセット印刷は「グラビア印刷」に比べ再現性が劣っていたため、きちんと紙の上に再現することができるこの印刷方式が採用されていました。この印刷の特徴は、インクを「盛る」ことができることが最大の特徴であり「凹版印刷」とも言われております。現在では、飲料水のペットボトルのラベルなど大量にフィルムに印刷する印刷方式としてよく使われており、意外と皆さんの生活の身近にある印刷とも言えることでしょう。

グラビア印刷で印刷したペットボトルラベル。皆さんの身近なところにもあると思うが、あまり「印刷」については、意識をされていないのが現状。本記事を機に、こういうところにも目を向けてもらればと思う。

4. 活版印刷

上記の「凹版印刷」に対し「凸版印刷」にあたるのが活版印刷。18世紀、フランスの産業革命において、グーテンベルクが発明した印刷方式こそ、この「活版方式」でした。「活字」と呼ばれる鉛の先端を文字型に溶かし、それを木枠にはめ込み、その文字盤にインクをつけて、紙に転写する方式であるこの活版印刷は、主に西洋において経典や新聞の印刷とともに拡がっていくことになりました。日本にもこの「活版印刷」は流れてきましたが、大文字小文字26文字ずつの英語と比べ、平仮名にカタカナ、さらには音読みも訓読みもある漢字が存在する、世界の中で極めて複雑な日本語をこれで表現するには、とんでもない量の活字の製作と保管が必要で大変なことでした。昭和の時代の中において「オフセット印刷」が出現してからと言うもの、あっという間にこの活版印刷はオフセット印刷へと変わっていくこととなりました。近年までは和紙に印刷できる方式として知られていましたが、今度は亜鉛から活字を鋳造する所がかなり少なくなってしまったこともあり、今では希少価値になってきている印刷方式と言えると思います

5. フレキソ印刷・シール印刷

イメージとしては「ハンコ印刷」であるこの方式。フレキソ印刷・シール印刷の双方共に活版印刷同様、「凸版印刷」の種類として分類されています。裏側にアルミ素材が貼り合わされている食品などの包材への印刷やショップバックなどへの印刷には、多くの場合、フレキソ印刷が用いられております。また、シール印刷はその名の通りシールに印刷する方式であり、グラビア印刷で刷るよりも少ない量のラベルを印刷しているのが現状です。

6. シルクスクリーン印刷

水以外には何にでも印刷できる…と言われる印刷方式です。

印刷部分のみ穴の空いている型を作り、その型を素材の上から乗せ、型の上にインクを流し込みインクを伸ばすことで印刷する方式です。現在の10代や20代の人たちはもしかするとご存知ないかもしれませんが、昔、理想科学工業社さんより商品化されていた「プリントゴッコ」はまさにこの方式を家庭用にしたものです。あらゆる素材を印刷できることもあり、現在では紙への印刷も行いますが、それ以上にエアコン機器等の中にある説明書のシールの印刷や、自転車の反射板などの印刷に用いられている印刷方法です。

鹿児島の芋焼酎メーカーである小牧醸造株式会社と、一般社団法人C.W.ニコル・アファンの森財団が共同開発して作られた「Ito 糸 GIN」。ラベルにはインパクトのあるオレンジの紙にロゴを印刷するだけでなく、シルクスクリーンを使って、文字を浮かび上がらせる仕掛けが施されている。海外のデザインコンペでもこのラベルを、是非、お酒と共に楽しんでもらいたいと思う。
  (写真提供 : 小牧醸造株式会社 https://komaki.official.ec/ )  

と、ここまで色々と印刷方式を簡単にご紹介してきました。「印刷」と一言で言っても、皆様が思い浮かべるようなチラシや書籍を印刷するような印刷もありましたが、ここでご紹介している内容については、意外と皆様にとっては「知っているけれど、普段意識しない印刷物」が多かったのではないでしょうか?

私は以前よりこのコラム内にて、「ペーパーレス」と言う際の「ペーパー」は多くの場合、「印刷物」を指すと記載してきました。しかしながら、実際には「印刷物」と一言で言っても「ペーパーレス化の波に晒されている印刷物」「ペーパーレス化の波には晒されていない印刷物」があることをご理解頂けたのではないかと思っております。あまりにも生活に密着しすぎてメディアにはほとんど載ることのない情報ではありますが、一言で「ペーパー=紙」といっても、これだけ多くのジャンルがあること、そして、私たちの身の回りに溢れている「紙」にもこれを機に目を向けてもらえるようになれば、とても嬉しく思います。

さて、ここまで6種類の印刷の方式をご紹介してきましたが、実はこれらすべての印刷方式は昭和の時代から存在し、今現在も引き続き「版面上の文字や絵などを紙や布などに刷り写すこと」を行っているものになります。

これらを行える機械を所有し、毎日、この「印刷」という仕事を専門的に行うのが「印刷会社」と呼ばれる会社になるわけなのですが…。

なにせ現在は「風の時代」と呼ばれる令和の時代。

ペットボトルはもとより、フィルムの原料となる石油素材は環境の面から見直しを迫られ、素材自体を再生可能な原料であるパルプ(木材繊維)である紙に少しずつ変更がなされている次第です。

また、環境配慮の観点から、ショッピングバッグの有料化がなされている現在では、昔に比べショッピングバッグを作らないようになってきているのも事実です。

また、近年では、「ミニマリスト」という言葉が浸透するほど「1つのもの」を大切にすることに価値が置かれる時代になりました。大量生産大量消費に価値が見出され、「同じモノを有すること」に価値を持った時代に開発されたこれらの印刷方式は昭和時代の全盛期に比べ、圧倒的に数量を減らしているという現実も無視できません。同時に、これらの機械を有し、これらの機械がお金を生み出すことで商売を行っている印刷会社の経営も当時ほど良いものになっていない・・というのが現実ではないかと思います。

では、そうした時代において、今後、印刷はどうなっていくのか?

答えは色々あると思いますが、1つの答えとして「オンデマンド印刷」へ移行していくのではないかと思います。では、この7種類目の印刷方式である「オンデマンド印刷」とは一体どういうものなのか?

7. オンデマンド印刷

「オンデマンド」という言葉は「必要な時に、必要な数だけ」を持つことを指します。「必要な時に、必要な数だけ」印刷をすることを可能とする印刷機。身近なところで言えば、オフィスにある複合機もオンデマンド印刷機の1種類にあたります。印刷できる最大サイズが限られている・・という制限もありますが、現在、世の中に出ている印刷物の約65%以上はA3サイズ(420mm×297mm)で収まってしまうことを考えると、こちらが今後主役になってくるのは当然のことと言えると思います。ただし、この印刷機は「必要な時に、必要な数だけ」しか印刷を行わないというメリットを持っている反面、これまでの主流であったオフセット印刷機よりも量を刷らないので、単価は高くなる(これまでの主流であったオフセット印刷機よりも量を刷らないので・・)というデメリットを持ち合わせています。数年前までは、オフセット印刷よりも「色の再現性」が落ちるという指摘もありましたが、近年では機械の発展も著しいので、その辺りはだいぶ遜色なくなってきた・・と言えると同時に、様々な用途に合わせて印刷も可能になってきた「現在、進化中」とも言える印刷方式なのではないかと思います。

東京大学、コマニ食堂のポスターの写真。過去には大量に刷られ、街中に貼られていたこのようなポスターも今や必要な分のみしか刷らない存在に。逆に、「3周年」や「新年」など、季節やイベントごとに刷れるようになったことは時代の変化と無関係ではないと思う。今後、こういった「オンデマンド印刷」がどう変化してくるのかに注目。(素材提供 : 食堂コマニ https://shokudo-komani.com/ )

ここまで2回を通して、「印刷」というものの種類、印刷目的、利便性、そして現実・・をお伝えさせて頂きました。総じて言えることは、大量生産・大量消費という時代の背景に後押しされ、「昭和」という特別な時代に一気に伸びた「印刷」というものが、平成を経て現在の「令和」という時代において、大きな分岐点を迎えているのだと思います。しっかりと我々の生活に密着し定着したものもあれば、「デジタル化」により「ペーパーレス」の波に巻き込まれているものもある・・。そして、この先、様々なテクノロジーの進化によって進化していくことになるだろうこの「印刷」というジャンル。今後さらに、「印刷会社」という大量に「印刷物」を製作する会社が「印刷物」を作るのではなく、「個人」に近しい単位で「印刷」というものが行われてくる時代が、すぐそこまで来ているような気がします。今回はそんな時代を見据えて、皆様に「目的や価格を踏まえて印刷を選ぶ」という選択肢がこれから必要となることをお伝えすると同時に、少しでも本文を通して、印刷や紙への興味関心を持って頂き、この先、「印刷」をする際の補助にこの文面がなることができれば幸いに思います。

次回は、「印刷」と切っても切り離すことのできない「加工」について、記載させて頂ければ幸いです。

本年も大変お世話になり、誠にありがとうございました。
良いお年をお迎えください。


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連載:「Paper Knowledge -デジタル時代の“紙のみかた”-」
“令和の紙の申し子”吉川聡一と紙について考える。
https://finders.me/series/kqJTU8QI-runTUncm-A/

吉川紙商事株式会社
https://www.yoshikawa.co.jp/