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ハーバード卒の現役アーティストが「アートのデジタル化」「新大久保のアートスペース」事業を開始する意味。アマトリウム株式会社・丹原健翔インタビュー【ビジネスとアート、アートのビジネス(3)】
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  • 2020.12.16
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ハーバード卒の現役アーティストが「アートのデジタル化」「新大久保のアートスペース」事業を開始する意味。アマトリウム株式会社・丹原健翔インタビュー【ビジネスとアート、アートのビジネス(3)】

「アート思考で鑑賞」するより、自分で作った方が何倍も解像度が上がる

ーー 今回のテーマは「ビジネスとアート、アートのビジネス」なのですが、コロナ禍も含め「予測不可能な出来事が次々起こる時代には、アート制作のような柔軟な思考がビジネスパーソンにも求められる」的なことが度々言われます。ただ、単に作品を鑑賞するようになったからといって教養が増える以上のことはすぐには起こりづらいですし、もう少し「ここが本質的な重要ポイントだ」ということがありそうです。

丹原:アートと一口に言っても「鑑賞する側」と「形にする側」と2つのレイヤーがありますよね。「形にする側」の視点についてはビジネスパーソンなら学びが多いと思い、経営者用のプログラムができないかとまさに考えているところです。

「形にすること」の何がビジネスパーソンの役に立つかというと「自分のあらゆる判断やアウトプットに責任を持ち、理由付けができるようになる」ということです。今年の頭に佐野一機さんという経営者の方と共にインスタレーション作品をつくるプロジェクトをやりました。

展示の模様

彼の学生時代を振り返るようなアーカイブ的な作品を共に製作したのですが、製作するにあたって佐野さんの実家に行って昔のモノを選んで、展示空間で組み合わせていきました。極端なことを言えば、美術の製作って「特定の空間をどう扱って感覚や思いを伝えるか」ということなので、もちろん伝えたいこと自体を考えないといけないですし、多くの場合言語化できないようなものを美術で伝えようとするわけですから細部までこだわり抜かないとうまくいかないです。

例えば空間にボールを置くとしたら、そのボールは赤色なのか、青色なのか、柔らかい素材なのか、硬いのか、新品なのか使い古されているのか。どんな選択をしてもボールはボールですし、なにが正解・不正解かという話でもないですが、その選択は作品においてすべて意味を持ちえます。どっちでもいい、と思っていてもそれを選んだ時点でそれは絶対に作者の意図になるんですよね。そこには決断した事実、そしてそれを決断したという責任が存在するんです。そういう目線を持てることって、日常生活のあらゆる物事にもいい影響があると思うんです。

自分が主観的に決断をする以上、絶対に好き嫌いが出ざるを得ないところがあるわけですよね。そういう側面があるのだ、ということに気付けるかどうかというか。世の中の自動化が進んでどんどん受動的でOKな社会になっていきますけど、一つ一つの言動や考えがどういった意味を持つかということに意識的になれるのは、例えば気づかないで差別的な発言をしてしまったということに対して、「こう言うとこんな意味合いも持ってしまうのか」ということに気づけばもっと社会に対して優しくなれるみたいなことが絶対あると思うんです。

自分が主体の展示をすることで、他者の表現にも「この作家はここにこだわりがあるんだ」ということがより多く気付けるようになります。他人からするとどうでもいいことかもしれないですけど、自分が展示する側にまわったらやっぱりすごく気になるんですよね。

ある空間をどう扱ったら自分の伝えたいメッセージが伝わるか。すべてが何でもアリ、映像を映してもいいし絵も彫刻も置けるし踊ることもできる。細部の細部まですべてが意味を持たなきゃいけないということを知るというのは、ある意味でミクロなレベルでビジネスパーソンがやっていることに近いんじゃないかと思っています。

ビジネスパーソンがまずやるべきは「好き嫌いの表明」

ーー 先ほどおっしゃっていた「鑑賞」についてはいかがでしょうか。

丹原:「アート思考」というワードが定期的に流行しますが、実際どれだけビジネスに役立つのか、おそらく誰も定量化していませんよね。僕は正直アート思考に関しては疑心暗鬼な立場です。ただ、同じように定量化できていない話ですが、僕は「自分の好き嫌いを言う経験を増やすことが、日本のビジネスの弱点をカバーできるのではないか」と思っており、それは美術鑑賞で培うスキルなのではないかと思います。

自分が言うのも恐れ多いところがありますが、ビジネスにおいて、一つ一つの行動や言動にはっきりとした「正しい・正しくない」がまるで存在しているかのように、説明や責任が問われる気がすることに違和感を覚えることが結構あります。でも一方で「みんなに反対されながらやりきる」という美談が存在するように、そこから突破できる人をみんな憧れて探し求めているんですよね。ある意味で、体系化できることはみんなも同じようにできることを意味していると思うのです。好き嫌いってそこが曖昧で、個性が許されるから強いと思うんですよ。

誰しも好きな音楽や映画は答えられますよね。じゃあその人たちはみんな映画や音楽の専門家かと言えば、決してそうじゃない。でも、なぜかアートは専門家でないと好き嫌いを言ってはいけない空気がある。アートはもっともな理由をつけないと好きであってはならないという、変な傾向がある気がするんですよ。「よく知らないけどこれが好きなんだ」と言えるような環境になればいいんじゃないでしょうか。

もちろん、作品を多く観たり教養のある人のほうが作品を観たときに得る情報やレファレンスが圧倒的に多いですし、それでより正確な批評が可能になりますが、美術品の好き嫌い自体は正しい・正しくないが存在しない会話なんですよ。その結果、自分の趣向やセンスにプライドを持つことは、ビジネス的にもメリットになるはず。これはわかりやすいネクストステップなんじゃないでしょうか。

初めて美術館に行く人によく言うのは、「100億円くらい持ってるつもりで何でも買えるよと言われたら、どの作品を買う?」ですね。その目線で見てもらうと、バスキア展だろうと塩田千春展だろうと、「全部よかった。全部素晴らしい。わからないけどアートすごい」じゃなくて、「私はこの作品が好きで買いたくなった」「この作品は別に欲しくないな」と解像度が上がった感想になりますよ。その瞬間に好き嫌いが発生しているし、それはすごく大事な体験だと思うんです。

ーー そこからなぜそれが好きなのか、嫌いなのかと考え始める段階にも発展していきますよね。

丹原:そうですね。もちろん、「なぜ好きか嫌いか」という理由を考えるのは言語化のプロセスなので、一種のトレーニングが必要だったり、経験が有利に働いたりするとは思うんですが、好き嫌いを決めるだけなら必ずしも経験が必要なわけではない。

そして何が好きか嫌いかに優劣はありませんが、もし「センスが悪い」ということがあるとすれば、自分の本当の好き嫌いを見失って、どこかからの借り物じみた、それっぽい理由を積み上げて価値判断をしていることだと思うんです。そうしていると、いつか自己矛盾が起きて一貫性がなくなってしまう。そういう場面を見て人はセンスの悪さを感じるんじゃないかなと思います。

ーー ビジネスパーソンのアートシンキングは、丹原さんとしては好き嫌いの判断から始めよう、と。

丹原:僕はそう思いますね。仮に誰かが勝手に選んだアートをオフィスに置いたところで、それだけでは従業員は何も変わらないと思いますよ。。むしろ、アートに限らず、自分の好き嫌いが持っている感情に正直になれるような環境作りこそが、本質的なのではないでしょうか。

僕にははっきりとアートの好き嫌いがあります。誰かから「この作家は有名なのに」なんて言われても気になりません。だからこそアートを楽しめているんです。アートのことを、人の評価を気にして答えを解くパズルかゲームだと思ってる人が多すぎるんですよ。ビジネスに対してもそうかもしれない。ビジネスだって、結果論以外くっきりと正解・不正解が出るようなことってそんなに多くないですよね。イノベーションの生み出し方やら柔軟なアイデア出しのメソッドやらを学んでも、そういう前提だったら何も新しいもの生まれないんじゃないかって思ってしまいます。

ーー なるほど。「ユーザー調査だとこの機能が欲しい人がこれだけいます」みたいなロジックでしか意見が通らないとすれば、全部が同じような商品になってしまいますもんね。

丹原:結局、一方でみんな「そういう調査で出てこないようなアイデアから生まれたビジネスが成功する話」が好きじゃないですか。例えばAirbnbなんかまさにそうですよね。みんな「自分の家を一時的に貸す? 誰もやるわけないじゃん」と考えていた。でもそれが成立した世界を見渡すと、「便利でいいね!」となっているじゃないですか。だから、アートでもビジネスでも、調査や機能を超えた好き嫌いこそが、今後は重要になってくる気がします。

次ページ:アート業界にも例外なく到来した「どうデジタルに対応すべきか」という問いに答えたい

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