EVENT | 2020/12/15

1万円からバンクシーやウォーホル、草間彌生ら超ビッグネームの作品オーナーに。ANDARTが見据える「誰もが気軽にアートを買う」未来【ビジネスとアート、アートのビジネス(2)】

第1回「創業から20年。「スマイルズのアーティスティックな事業」はなぜ生き残ってこれたのか。遠山正道インタビュー」はこち...

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第1回「創業から20年。「スマイルズのアーティスティックな事業」はなぜ生き残ってこれたのか。遠山正道インタビュー」はこちら

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バンクシー、バスキア、草間彌生、奈良美智、名和晃平といった大物現代アート作家による作品の小口会員権を、なんと1万円から購入できるというプラットフォームサービス「ANDART」。

オーナーとなったユーザーは、デジタル上で気軽にコレクションをはじめられ、定期的に開催される限定イベントでのリアルな鑑賞機会や解説コンテンツも楽しめるだけでなく、ユーザー同士のオーナー権売買などを通して「投資」の側面もあるサービスだ。2019年にサービスがローンチして以降、現在は会員数が7500人・取扱高が1億8000万円を突破したという。

一体なぜこのようなサービスを立ち上げたのか、代表取締役社長の松園詩織氏に話をうかがった。

聞き手・写真・文:神保勇揮 構成:平田提

松園詩織

代表取締役社長

2014年株式会社サイバーエージェント入社、新規事業責任者として大手企業のデジタルマーケティングに従事。その後東京ガールズコレクション運営 WTOKYOにて社長室として大手企業、行政、国連との取り組みなどエンターテイメント領域で多岐にわたりプロジェクトを経験。 2018年9月株式会社ANDART設立。

アート購入のハードルを下げ、新しい経済圏を

ANDARTの公式サイトより

―― ANDARTの起業に至ったきっかけを教えてください。

松園:もともと学生時代から周りに起業家が多く、起業自体は自然な手段でした。いわゆる0→1が得意なタイプと自覚しています。社会人としてのスタートとなったサイバーエージェントでは若手でも大きな仕事を任せてもらえる文化があり、多くを学びました。

直接の転機は、次に入った会社でアートに関わる仕事をしたことだったんですが、アートとマス(一般層)の関係性に違和感を覚えたんです。日本では例えばフェルメール展みたいな展示会は世界でもトップクラスの人数が来ますよね。

―― 行列がすごくて何時間待ちとか、よく話題になりますよね。

松園:すごいですよね。にもかかわらず、アートを実際に買う人はすごく少ない。見に行く人は多いし、近年はビジネスにおける思考法としても注目されていて少なくとも多くの人の関心はあるはず。アートというテーマを前にしたとき、興味はあっても実際に「買ってみよう」とはなかなかならないハードルの存在を感じ、同時にビジネスチャンスであるとも考えました。私自身がどういう手段があったら、もうちょっとアートに直接的関与=お金を投じられるかなと考えた時に、今のビジネスモデルを思い付いたんです。当時、日本にそのビジネスモデルがどこにもなかったので起業に至りました。

―― では、そのANDARTのビジネスモデルについて教えてください。

松園:誰もがアート作品の小口会員権(オーナー権)を少額から購入でき、複数人で共同保有できるプラットフォームです。出品作品は、基本的にはパブリック展示を予定しています。銀座 蔦屋書店や虎ノ門ヒルズsanmiなど、誰もが知っているスペースでの展示実績もあります。自宅には置けないですが、これまで手が届かなかったような一級作品でも、一口1万円からユーザーさんが気軽にオーナーというこれまでにない立場でデジタルコレクションをはじめられる仕組みです。

―― なるほど。ユーザーが投じた金額によってメリットも変わってくるんですか?

松園:はい。オーナー権の保有金額に応じて、提供される優待が変わります。代表的なのは、オーナー限定のパーティを通したリアルな鑑賞体験です。そこで新たなコミュニティが生まれるかもしれないですし、単純に本物のアンディ・ウォーホルや名和晃平さん、五木田智央さんの作品がぎゅっと見られるのはなかなかない機会。その特典はぜひ楽しんでいただきたいと思っています。

―― KAWSやアンディ・ウォーホル、バンクシーなど、ANDARTで扱われている作品はどれも超が付く有名アーティストの作品ばかりが出ています。作品購入の交渉はどうされているんですか?

松園:個人のコレクターさんやギャラリーさんに、飛び込みも含めてかなり泥臭いコミュニケーションを重ねています。

ANDARTの仕組みはまだ世界的にも新しいですし、特に立ち上げ当初は理解されにくいこともありましたが、新しいアートとのアクセス権を通して一人でも多くアートコレクター人口を増やすというANDARTの想いが少しずつ業界内にも届いていることと、実際に作品が売れた実績ができていったことで、信頼を得られるようになってきた実感があります。今後は今のプラットフォームの仕組みが若手のアーティストの活動支援などに活用される期待も感じています。

ユーザーの半分は「アートを買ったことがない人」

―― 購入するユーザーはどんな人たちが多いんですか?

松園:今は感度が高い2、30代の男性を中心に7500人以上にご登録いただいています。年収は少し高めのビジネスパーソンが多い印象です。しかもこれまでアートを買ったことのない人が半数以上。アートとのアクセス権をマスに向けて拡げることを目指す我々にとって、ここには価値があると思っています。

アートを買いたいと思っても、何を買えばいいか分からない、好きな作品にめぐり会ったとしても、軽々しく買えない金額だったり、置く場所がなかったりする。今まではこの何かしらがハードルになっていたんです。特にビギナーにとっては、自分でも知っているような憧れの著名作家ほどすでにとんでもない市場価格となっていて一切手が出せない価格となっている。一方で若手アーティストの作品をぽんと買えるほどアート購入自体に慣れていない。というように、お金を投じる対象として参入障壁が高く気軽にアクセスできない根本構造があると思います。

―― 良い作品を見つけても「10万円オーバーはさすがに即決できないな…」と感じてしまいます。

松園:そうなんですよ。そうした中で、1万円でも自身から関与して「アンディ・ウォーホルの絵のオーナーなんだよね」と言えることは、それまでの「見たことあるんだよね」とは大きな違いだと思うんです。小口シェア×デジタルを掛け合わせることでハードルを下げて、人とアートとの関係性をぎゅっと近づけることで、アート市場全体がもっと盛り上がるんじゃないか、コレクターも増えていくんじゃないかという仮説を持っています。

―― 最初のKAWSの作品は2時間で完売しています。すごい反応だなと思いました。

松園:KAWS以外も含めた初期のシリーズだけでも、おかげさまで大きな販売実績になりました。2020年にはバンクシー作品のオーナー権販売を始めたのですが、こちらも1口1万円からで約700万円分が10分で完売しました。去年は購入されたオーナーさんたちを対象に、各作品が全部見られる、ユーザー限定のパーティを開催したこともあります。

―― どのぐらい買っていると、このパーティに参加できるんですか。

松園:現在、3万円以上のご購入者が対象です。少額からでもオーナーという立場で定期的に一級作品を鑑賞できる機会があるのはひとつメリットだと思います。アートに対して感度が高い方が多いので、著名人の方や経営者もオーナーの中に含まれていますね。

―― 作品の選定に加えて、オーナーの集め方のハンドリングもすごく繊細なタッチが要求されそうですね。

松園:どの作品を販売するかの選定には特に気をつけています。加えて、一点ものとエディションもの(複数の同一作品が存在する)の違いの解説など、ビギナーでもなるべく読み取りやすく内容理解ができるようにも工夫しています。今どれぐらいの相場で落札されているか、今後どうなりそうかという分析も重要です。今はすでに世界的に評価されている現代アーティストの作品をメインに扱っていますが、今後は将来性を見越した若手アーティストや、誰もが知るような西洋美術、デジタルシェアならではの大型作品などラインナップの拡充も視野に入れています。

―― 一方で今年6月には、若手アーティストを中心に作品販売するEC「YOU ANDART(ユーアンドアート)」もスタートしました。こちらはオーナー権ではなく実物を、1万円台から購入できますね。

YOU ANDARTの作品販売ページ

松園:新型コロナ対策として在宅勤務に移行する方が増え、「家で過ごす時間が増えたから、毎日の生活が楽しくなるものが欲しい」「オンライン会議で映る背景に“映える”ものを置きたい」というニーズが急激に高まりました。

購入層は若い方が非常に多く、学生も珍しくありません。また、会員権プラットフォームANDARTでオーナー権を購入してくださったことをきっかけに初めて実物のアート作品を購入したという方も多く、とても良い流れができてきたと感じます。決して安い買い物ではないですが、数万円台の服やスニーカー、あるいは10万円以上の楽器などを買う人はたくさんいますよね。アートを「買う」という行為は今までニッチな世界だったのが、いよいよ映画や音楽といった他のカルチャーと同様に、ファッションやインテリアの延長でも親しまれるようになってきたんじゃないかと期待しています。

―― YOU ANDARTで取り扱う作品はどのように選定しているのでしょうか?

松園:「ECで売れる作品」と「既存業界の評価」は良くも悪くも同一ではない印象があります。今はアーティストがInstagramにアップした作品が良いと思われれば、ポンと売れてしまう時代です。私たちも、このYOU ANDARTにおいては、ユーザーさんの直感的な「好き」を生み出することに重きを置いていて、日々多くのアーティストにお声がけしています。

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