EVENT | 2020/12/16

ハーバード卒の現役アーティストが「アートのデジタル化」「新大久保のアートスペース」事業を開始する意味。アマトリウム株式会社・丹原健翔インタビュー【ビジネスとアート、アートのビジネス(3)】

第1回「創業から20年。「スマイルズのアーティスティックな事業」はなぜ生き残ってこれたのか。遠山正道インタビュー」はこち...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

アート業界にも例外なく到来した「どうデジタルに対応すべきか」という問いに答えたい

ーー 丹原さんは現役アーティストとしても活動する一方で、会社を作ってアートビジネスをきちんと運用しようともしています。その根本のモチベーションは何なのでしょう?

丹原:会社のいいところは、個人の力量を超えた活動ができることです。アートのデジタル化サービスだって、エンジニアが何人も入って開発しているから成り立っています。アイデアがよくて気合いがあっても、持続可能性がないから終わってしまうサービスってたくさんありますよね。その「持久力」は会社にしないと持てないだろうと考えました。もちろん、法人じゃないとやり取りできない案件を受けられたり、自分の界隈以外の人たちとの接点が増えたりといった利点もあります。とはいえ、僕は「自分の会社がアート作品だ」と言うつもりはまったくありません。

そもそもアートビジネスをやっていること自体、一種のプリビレッジ(特権)ですよね。だからこそ、すごくいい人たちに支えられて成り立っている中で、僕は僕のできることを最大化するような環境作りをしていきたい。最高のコミュニティを作り、最高のスペースを作り、新しいアートの市場を作りたいです。プリビレッジがあるからこそ社会でやるべきことがあると考えていますし、目先のお金を追うだけではなく、中長期的な目線で意味のある活動をしなきゃいけないと強く思っています。それを考えると単発イベントだけではダメだと思っていて、だからビジネスの観点が大事だなと。僕が見たい世界、未来のかたちを持続可能なまま実現させるため、ある活動が独立して続けるためにはビジネスの観点は欠かせないので。

ーー コロナ禍を経て「アートのビジネス」はどのように変わっていくと思いますか?

丹原:今は「ニューノーマル時代への対応を」とよく言われますけど、在宅勤務の浸透やECの充実など、コロナ禍で普及した多くの生活の変化はいずれ近い未来に到来してもおかしくなかったものが、新型コロナで突然強いられて普及したということばかりですよね。アート業界でも「どうテクノロジーの進化に合わせてアップデートするのか」という課題は昔からありました。そうした中でコロナ禍を機にウェブサイトを充実させたり、アートをオンラインストアで販売したりするギャラリーが増えました。サザビーズとクリスティーズが今年に入って本格的なオンラインオークションを開始して、オンライン販売での最大価格が更新したというのも、とても面白い流れです。

皆それぞれのやり方があっていいと思いますけど、アーティストもコレクターもギャラリーも美術館も皆がハッピーになれるテクノロジーの活用や仕組みをみんな探してます。それを最初に考えた人はヒーローになると思っていて、世界中の人が必死でそれを考えている。そこはブロックチェーンという技術が解決策かもしれないし、ECのプラットフォームのアップデートなのかもしれない。これはビジネス的にもチャンスだと思いますし、アート業界としても外からアイデアを持ってこれる人を迎えるべきだと思います。ヒーローを待っていてはいけないと思います。

ブロックチェーンのような最新技術の活用なども含めて、テクノロジーを今後どんどん入れていくためにも、アートがもう少しデジタルに親和性を持つための中間領域が必要です。例えば、ガゴシアンやデイヴィッド・ツヴィルナーのような海外メガギャラリーは、オンラインのビューイングルームを持っています。また、ArtsyartnetといったアートのEC販売やオークションのウェブサービスはますます大きくなってきている。そうした流れに対してもちろん抵抗感がないとは言いませんが、アートがデジタルで消費されるような世界に必然的になってきているんです。アーティスト自身もInstagramでの情報発信が重要ですよね。あらゆる業界が対応を迫られている、デジタル化のステップをアート界が踏めてないのはまずいと思ったのでアマトリウムの事業をやっています。デジタル化の流れを妨げる壁を壊す係ですね。

その上で、一般の人がもっとアートを好きと言えるようになって、アーティストも作品の現物販売以外のマネタイズの方法が存在して、本当に制作に集中できるような世界。そんな世界を作ることが僕の夢ですね。それを少しだけでも実現に近づけることが今できているとしたら、それは会社を持ったからです。


第1回「創業から20年。「スマイルズのアーティスティックな事業」はなぜ生き残ってこれたのか。遠山正道インタビュー」はこちら

第2回「1万円からバンクシーやウォーホル、草間彌生ら超ビッグネームの作品オーナーに。ANDARTが見据える「誰もが気軽にアートを買う」未来」はこちら

prev