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日本のコロナ対策がここまでグダグダになった理由。西田亮介が「コロナ危機」の政府・行政・メディアを振り返る【前編】
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  • 2020.09.01
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日本のコロナ対策がここまでグダグダになった理由。西田亮介が「コロナ危機」の政府・行政・メディアを振り返る【前編】

「日本人の悪いところは、どれだけ大きな問題が起こってもすぐに忘れてしまうことだ」とよく言われる。新型コロナウイルスの感染拡大が起こってから約半年、一貫して「日本政府の対応は遅いしグダグダ」と言われてきたが、具体的にどんな対応を行い、どのように評価・批判されてきたか覚えている人は果たしてどれだけいるだろうか。

社会学者の西田亮介氏が執筆した『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』(朝日新聞出版)はその振り返りをするために格好の1冊だ。初期のWHOおよび厚労省の対応、ダイヤモンド・プリンセス号問題、全国一斉休校の緊急会見、全国的なマスク不足、緊急事態宣言とその解除、といった6月末までの総合的な状況推移の解説と分析が、膨大な資料とともに記されており、この間メディアでもほとんど振り返られることがなかった2009年の新型インフルエンザの国内流行期の対応や顛末についても触れられている。

「政府の対応はダメだ」「マスゴミは酷い」と批判するのは簡単だが、何がなぜダメだったのか、評価できるポイントは無かったのか。より具体的に知っていかなければ問題の解決からは遠ざかり、またぞろ忘却され同じ問題と批判が繰り返されることになるだろう。今回はインタビュー前後編を通じて、政府・行政(自治体)・メディアの三者について、評価点と課題をそれぞれ語っていただいた。

前編では主に政府・行政について触れていく。

聞き手・文:神保勇揮

西田亮介

1983年、京都生まれ。専門は社会学。博士(政策・メディア)。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教(有期・研究奨励II)、独立行政法人中小企業基盤整備機構リサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授などを経て現職。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、『なぜ政治はわかりにくいのか:社会と民主主義をとらえなおす』(春秋社)、『情報武装する政治』(KADOKAWA)、『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)などがある。

「政府のコロナ対策は遅い」というイメージはいつ生まれたか

西田亮介『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』(朝日新聞出版)

―― まず政府の振り返りからしていきたいと思います。本書を読んで「確かにな」と思ったのが、「少なくとも厚労省は新型インフルエンザ、SARSでの対応経験を活かして比較的早い動き出しをしていた」ということでした。

西田:2019年の12月末にWHOの中国オフィス経由で関係機関に第一報が入り、1月に入ってすぐに感染症法と検疫法に基づく対応に着手しているという意味では、初動の対応スピードは世界屈指だったと思います。

経済対策に関しても、2月13日には政府の新型コロナウイルス感染症対策本部から「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」が出され、日本政策金融公庫などからの緊急貸付や雇用調整助成金の要件緩和を行うなど、既存の有事対応プログラムを動かしていたという意味では対応が早かったと思います。関係閣僚会議にしても1月の終わりには最初の会議が開かれ、厚労省単体の問題ではなくなっていますから、やはり初期対応全般に関してはそれなりに妥当な速度で行われたのではないでしょうか。もっぱら計画的対応ですから、政権如何とあまり関係なさそうです。

2月13日に発表された「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」より

―― にも関わらず、安倍首相の最初の会見が2月末、全国の学校休校に関する内容で、これが「政府の対応は遅い」というイメージを形作りました。

西田:「総理の初会見が遅かった」が「政府の対応が遅い」に結びつき、以後そのイメージに引きずられ続けたというのがこの本の主張の1つです。とはいえ、会見をしていないから対応していないというわけではないですよね。それから専門家会議を開いたのも2月中旬で、これも遅かったんじゃないかという批判が殺到していますが、これも専門家会議が開催されるまで対応していなかったわけではありません。水際対策などは先行して始まっていました。

ただ、一般に、多くの人が厚労省による毎日の状況報告やWHOのシチュエーションレポートなどを読むとは考えにくいですし仕方ないとも思います。だからこそメディアが、特に今なお多くの人が観ているテレビがどう報じるかが重要なのですが、そうした厚労省・WHOの対応があることを理解していないんじゃないか、と思うこともすごく多かったです。新聞記者も政治部の皆さんなどはちょっと怪しい感じでしたし、テレビ制作の現場では相当程度疑問ですね。

そうすると肯定も否定もしない、「○○氏が××だと語った」と報じるだけの、政府の会見映像をそのまま垂れ流して終わる内容になってしまうのです。

―― 「政府の対応は遅い」というイメージはある一方、5月末の全国の緊急事態宣言終了までの対応は、PCR検査体制が整わなかったこと、休業要請で一気に収入がゼロになってしまう業種に対して受け取りまで迅速に実行できる融資・給付制度が整わなかったことを除けば、他国と比べて感染爆発も抑止でき、概ね良かったという評価がされていますよね。

西田:制度が定まっていてある程度機械的に動ける行政的対応から、新たに何かを決める政府の裁量的対応のステージに移っていくにつれて、だんだん整合性や効果がよくわからなくなっていった印象です。

学校の一斉休校に関しては過去の効果についての蓄積もあり、科学論より慎重にリスクを見積もる政治判断もありえるとすれば結果論から言えば理解可能です。緊急経済対応の規模についても、従来の有事対応と比較して貸付を含めれば、規模は大きく実施時期も早めでした。ダイヤモンド・プリンセス号の対応も船内の感染隔離のあり方など個別の課題はあるにしても、やむを得なかった部分もあると思います。

次ページ:「耳を傾けすぎる政府」が判断を誤らせる?

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