EVENT | 2020/09/01

日本のコロナ対策がここまでグダグダになった理由。西田亮介が「コロナ危機」の政府・行政・メディアを振り返る【前編】

「日本人の悪いところは、どれだけ大きな問題が起こってもすぐに忘れてしまうことだ」とよく言われる。新型コロナウイルスの感染...

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「耳を傾けすぎる政府」が判断を誤らせる?

西田:では、どこから政策がよくわからなくなっていくのかというと、3月末ごろからでしょうか。緊急事態宣言を出す時期やそののち終了タイミングを決定した辺りからだと思います。アベノマスク、特定定額給付金の対象、金額変更、Go Toも言うに及ばずですね。政府が専門家の知見を踏まえて裁量的に決めていくわけですが、そこで色々な辻褄が合わなくなってくる。その理由として挙げられるのは、この本で用いた「耳を傾けすぎる政府」という概念です。

この間にもスキャンダルが多発していたことも関係しているでしょう。桜を見る会、河井元法務大臣夫妻の贈収賄事件などがあり、そうした中で政権支持率が過去最低水準に陥っています。

なので、民意を聞いて、支持率を回復させなければならないという動機づけがますます強く働いたんじゃないかということです。それによって例えば感染拡大を効果的に防止するとか、本当に困っている人に手厚い支援を行うというよりも、「政治」に都合の良い、カッコ付きの「民意」に耳を傾けることによって支持率を回復したいという動機づけが、少なくとも外形的には観察されるということですね。

Go Toキャンペーンもそうですが、時期が後になればなるほど政策間の整合性が取れなくなり、急ごしらえにしか見えない取り組みが多くなる。どんな方向性のもとで対処しようとしているのか国民が理解できず、ますます不安が募るという状況は今も続いていると思います。

意外にも知事は国の対応を評価している部分もある?

―― 次は行政に移りたいと思うんですが、中央公論8月号の特集『コロナで見えた知事の虚と実』では、神奈川県の黒岩知事、鳥取県の平井知事インタビューでいずれも「専門家の提言を基に県独自で始めた医療提供体制のモデルを採用してもらい、全国に広がった(黒岩知事)」「これまでなら1年かけて実現するような国への要望が、驚くべきスピードで実行された(平井知事)」といった趣旨の発言をし、国の対応を評価しているのが意外でした。

西田:その辺りは新型インフルエンザの反省を踏まえた部分も大きいです。

国内流行が起こっていた2009年当時、厚労大臣だった舛添要一さんが「政府の対応に不信感がある」として政府の専門家会議とは別の研究者を集めた大臣直轄のチームBを作ったり、当時大阪府知事だった橋下徹さんの後押しをして、今回と同様にかなり批判のあった大阪府での学校一斉休校を決めたりして、官邸とこじれるみたいなことがあったんです(※)。また医療現場でも「厚労省が定めた全国一律の対応しか認められず、各地域の実情に合わせた対策が実行できない」という批判がかなりありました。

※編集註:舛添氏公式ブログの記事「厚労大臣として2009年の新型インフルエンザにどう対応したか(2)」によると、当時、大阪府内では一斉休校に反対する教育委員会もあり、同氏に感染地域の指定を依頼するかたちで実行したという

厚労省「今般の新型インフルエンザ(A/H1N1)対策について ~対策の総括のために~」より

そういう経緯もあったので、2012年に成立した新型インフルエンザ特措法は地方分権をかなり念頭に置いて作られた法律になっています。各都道府県の知事が各地域の実情に合った対策をしているのであれば、それは法の精神に則った取り組みになっているということで評価できると思います。

「国の対応が早くなっている」という話については、ときどき「感染症の問題なのに加藤厚労大臣が表に出てこないのはなぜか、イニシアチブを取っていないように見える」という批判がリベラルサイドから出ていると思うんですが、これは完全に認識違いです。政府が一元的に対応するためには、内閣官房がイニシアチブを取らなければいけない。そのために西村大臣か内閣官房(新型インフルエンザ等対策室)の中でコロナの対策を担当している、ということが新型インフルエンザ特措法でも定められているのです。

内閣官房で一元的に各要望を取り扱って、そこから各省庁に割り振っていくという流れは、橋本行革から続くここ20年ほどの行政組織の改革の成果だと思います。持続化給付金などもそうですが、コロナ対策のすべてを厚労省だけで担当しているわけではないですよね。持続化給付金だと総務省ですし、経済対策なら経産省・中小企業庁ですし、担当省庁がいろいろあるわけです。だから加藤厚労大臣だと厚労省案件しか処理できない。それが内閣府の特命大臣である西村氏とやり取りをすると、感染症対策だけじゃなく経済対策やその他の案件も一元的に対応できるという意味ではこの間の行政組織の改革の流れと合致しています。

そうした中で国はGo Toトラベルについて「感染拡大防止対策をしたうえで旅行は構わない」というメッセージを出していたわけですが、発信力が強い小池知事が「帰省はやめろ」と真逆のことを言っていました。小池知事の発言はワイドショーを通じて全国に広がっていくし、Yahoo!ニューストピックにも選ばれてネットでも広がっていきます。

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