「国と知事の言っていることが違う」のは何が問題なのか
―― 今回は「各都道府県の知事が国と違うことを言い始めた」というのも1つのトピックでしたね。
西田:受け手側からすれば、2つの相反する、けれど両方ともそれなりに権威を持っている存在なわけですよね。すると「結局どうすればいいわけ?」となり、人々の混乱、不安を増長し、それから合理的な判断を阻害していると思います。
―― ただ、国は全国を見ているわけで、いち地域である東京都と意見が割れていること、それ自体は問題ではないんじゃないかとも感じます。
西田:確かにそうも思いますが、「情報の受け手=国民が混乱している」というのが問題なのです。なので「意見が割れることがあり得るんだ」ということを誰かが説明しなきゃいけないんだと思います。
ただそうは言っても両者のメッセージは真逆なので、どうやって整合性を取るのか、その「整合性の説明」に対して我々が納得できるのかというのは全く別問題です。
―― 国と意見が割れた場合「自分の住んでいる自治体首長のメッセージを重視した方がベターなのでは」とも思うのですが、そうではないのでしょうか?
西田:ただ「イソジンを使えば陽性率が下がる」みたいな記者会見の例もあるわけですよね(苦笑)。それから僕の認識としては、大半の知事は明白なメッセージを出せていないんだと思っています。47都道府県あって、多くの人が認識しているのは小池知事や吉村知事、あとは愛知の大村知事、北海道の鈴木知事ぐらいではないでしょうか。僕の実家は奈良県にあるんですけど、奈良県知事が今何を言っているのかというのは積極的に追いかけないとわからないですよね。
例えば京都府の西脇知事はGo Toに際して東京発の除外に理解を示しつつ、「感染対策を万全にして受け入れられる」と発言しています。ただ隣接する三重県の鈴木知事が何を言っているかということを多くの人は知らないんですよね。そうした意味においては、批判もかなりあるとはいえ吉村知事の発信力自体は評価できるんじゃないかと思っています。
―― 47都道府県の知事全員がそれぞれテレビで注目されるというのは今後も難しいと思いますが、それでもネットやSNSで良い情報発信をすれば届くものなのでしょうか?
西田:それは違うと思います。「正しい情報を流せば人々は見てくれる」というほど世の中はそんなにうまくできていないですし。それがより難しくなっている状況なんだと思います。
ではどうすれば良いのかという話ですが、理念的には信頼できるメディアがそうした情報の精査を行うべきなんじゃないかと思います。昔は新聞がネット版を含めてその役割を果たすべきなんじゃないかと思っていましたが、新聞はメディアパワーを失って、右も左もある種の党派性ができているので「朝日新聞/産経新聞に書かれていることは何も信じない」という層が一定数います。
ネット企業がそれをやるとも思いませんし、テレビもまたしかりと考えるとやはり難しいとは思いつつ、理想論は語らなければならないと思って僕は「規範のジャーナリズムから機能のジャーナリズムへと変わる必要があるんじゃないか」と言っています。