印南敦史
作家、書評家
1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て独立。一般誌を中心に活動したのち、2012年8月より書評を書き始める。現在は「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「マイナビニュース」「サライ.JP」「ニュースクランチ」など複数のメディアに、月間40本以上の書評を寄稿。
著書は新刊『読書に学んだライフハック』(サンガ)。他にも『書評の仕事』(ワニブックスplus新書)、『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』 (星海社新書)など著書多数。
高尾駅からすぐ近く、地域住民から人気の食堂
たかお食堂
新宿からであれば、中央線で約40分。意外に近い気もするし、それなりに遠いなぁと感じさせもする。八王子の2つ先、高尾はそんな駅である。
中央線沿線に縁のある方なら、高尾と聞いてすぐに思い出すのは「遠足」ではないだろうか?
この地の象徴である高尾山は、沿線の小学生にとっては遠足コースの定番だからだ。
だが考えてみれば、それは少しばかり極端な考え方でもある。高尾山のふもとにあるこの地にも、当然ながら暮らす人がいて、暮らす人がいる以上は商店や飲食店があって当然だからである。
たとえば、今回ご紹介する「たかお食堂」もそんな店のひとつだ。
高尾駅南口を出るとすぐ右脇に、「高尾駅北口方面一般者通路」と書かれた高架下の通路がある。昼間でも薄暗く、初めて訪れた人は進むことに多少の戸惑いを感じるかもしれない。
高尾駅北口方面一般者通路
だが意外に人通りはあり、出口にたどり着くまでに何人かの人とすれ違った。通路名が言い表しているように、北口に行くにはここを通らないと遠回りになってしまうからだ。
とはいえ歩いている段階では、果たしてその先に店があるとは想像できない。ところが数十メートル進んで高架下から抜けると、突然その食堂が現れたのだった。
ちなみに周辺は閑静な住宅地であり、他に店舗のようなものは見当たらない。端的に言って商売に適した場所だとは思えないのだが、この店は不思議なのだ。学生風の青年が家に帰り着いたような調子でするっと入って行ったり、すれ違いに若いカップルが出てきたりするのだから。
しかも暖簾をくぐって入ってみたら、店内がほぼ満員なのであった。13時過ぎだったが、入って左側に3卓あるテーブル席は埋まり、右側の厨房に向かう形のカウンター席にも3人ほどお客さんがいる。
そこで、空いていたカウンター手前の席につくことにする。
お昼時を過ぎているというのに、なぜ、こんなに繁盛しているのだろう? たとえばこれがお茶の水あたりの店だったとすれば、まだわかる気はする。だが繰り返すが、ここは中央線の最果て、高尾なのである。
ご夫婦で切り盛りされているようで、すぐに奥様がお冷やを持ってきてくださった。ご主人は、ずっと厨房に入ったままだ。その時点で待っているお客さんが何組かいたので、とても忙しそうである。