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「ブランド」は最強の詐欺ビジネスか。ファッションビジネスでカルチャーを作る|恩地祥博(BRH Inc)
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  • 2019.11.29
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「ブランド」は最強の詐欺ビジネスか。ファッションビジネスでカルチャーを作る|恩地祥博(BRH Inc)

「ファッションをビジネスから支えたい」と語る恩地祥博(おんち よしひろ)氏は、ブランドマネージメント会社、株式会社BRHの若き社長。大学在学中にアメリカへ渡り、デジタルのPRやECを扱う複数の会社でインターンを経験した。帰国後、まだ大学在学中にも関わらずトランスコスモスの佐藤俊介氏、フェイス平澤創氏が立ち上げ、出資を行うBRHの社長へ抜擢されたという異例の経歴の持ち主だ。

彼が扱うのは「デザイナーズブランド」。今このジャンルが置かれている状況、課題、そして恩地氏が実現したいと考えるファッション業界の未来について伺った。

聞き手・文・写真:赤井大祐・神保勇揮  

恩地 祥博

株式会社BRH代表取締役

東京発デザイナーズブランド経営、自社企画のD2Cブランド経営、そして"ブランドビジネス"のノウハウをファッション以外の個人や企業向けに提供するブランディング・エージェンシーとして、企業や商品のブランディング、SNSを通じたコミュニケーションデザインを手がける。 学生時代は Farfetch Japan にてPRを担当。その後ニューヨークへ渡米。Fashion Institute of Technology にてブランドマネジメントを学ぶ。同時にニューヨークにベースを置く「GeorgeRootLtd」にてデジタルPRを担当。ラグジュアリーブランドやグローバル化粧品メーカーなどを中心にデジタルプランニング、キャスティング、SNS戦略を担当。

企業がファッション化を求めている

―― BRHで恩地さんはどのようなお仕事をされているのでしょうか?

恩地:自分はマーケティングからセールス、プロモーションの企画、クリエイティブの制作まで、洋服を作る以外のことは全部やっています。商品となるブランド自体は結局デザイナーのアイデアやクリエイションでしか勝負できないと思っているので、そこを邪魔しないように、いかにブランドとして成長させていくかを考えています。

―― 基本的には自社のブランドに関する業務がメインということですね。

恩地:はい。あと、今年の5月から一般企業のブランディング業務も請け負っています。ジェネレーションZなどの若い世代をターゲットにしたデジタルベースのビジュアルコミュニケーションがメインで、やっぱりInstagram周りが多いですね。

最近はアウトプットの中にファッション的な要素を取り入れ、質の高いクリエイティブを作りたいという企業さんも増えています。僕らはファッションブランドを扱う会社として、ファッション関連のクリエイティブに関する知見や感性も持っているので、「ファッションじゃない企業のファッション化」みたいなことをやっています。

20年かけて戦う仕事

BRHとはBrand’s Right Handの略。社名の由来は文字通り「ブランドの右腕」となってブランドをサポートしていく、ということ。

―― 恩地さんは他のメディアでも「ファッションをビジネスから支えたい」ということをおっしゃっていますよね。具体的にどういうことなんでしょうか?

恩地:デザイナーズブランドは少数精鋭のビジネスで、他者からの支援が得られないと結構しんどかったりもします。例えば一番大変なのが、売上が急激に伸びる時ですね。

―― というのは?

恩地:ものを作って売っているので、仮に1000万円分発注があったとしても、原価である400万円とかを先に工場に払わなければいけないんです。デザイナーズブランドはデザイナーが個人でやっている場合が多いので、そう簡単に資金を工面することができなかったりもして、生産・出荷が遅れてしまい一番良い売りの時期を逃してしまいます。そうなるとバイヤーさんも扱ってくれなくなり、売れなくなってしまう…という悪循環に陥ります。

―― 個人でやっている以上、なかなか解消しづらい課題ですね。

恩地:はい、でもその売上が伸びたタイミングで僕たちが資金を注入してあげることで、その壁はいったん取り除けます。そこに経営とかマーケティングとか、ファッションアイテムを作る以外の要素をプラスしていき、ブランドを伸ばしていく、ということを会社としてやっています。

―― ファストファッション、ラグジュアリーブランドが好調な一方「デザイナーズブランドが苦しい」なんて話を目にします。やはりデザイナーズブランドはあまり売れてないのでしょうか?

恩地:どうでしょう…。ただ、表向きにはショーとかをやって華やかに見えていても、裏ではスタッフのお給料を払うためにデザイナーが深夜にバイトをしてるなんて話もよく聞きます。ブランドのイメージが壊れてしまうので、表には絶対に出さないと思いますが。

―― 感覚的に芸術家やミュージシャンとかに近いですね。BRHで運営しているブランドについてはいかがですか?

恩地:今うちで運営しているブランド自体は6年目なんですが、今年の1年でようやく少し良くなってきたという印象です。ただ、このまま続けていても3年後に予測できる数字にテンションが上がらないというか。個人のブランドであれば1億くらいの売上があれば充分ですが、僕たちがビジネスとしてやる以上は最低でも10億以上の売上がないと意味がないと思っています。SacaiやTOGAといった今や日本を代表するデザイナーズブランドも20年ぐらいかけて50億、100億の規模の売上になっていったので、自分たちとしてもまだまだこれから戦っていけると思っています。

1万円のTシャツを売るのが一番難しい 

―― お話を聞いていると、ファッションブランドってかなり地道なビジネスだと気付かされました。正直、一発当てて荒稼ぎみたいな印象もあったので。

恩地:有名になって高額の限定商品リリースを連発して一気に稼ぐ、みたいなところもありますね。ネガティブな意見も多いですが、ビジネスとしてはすごく正しいなって思います。

――しっかりビジネスを成功させているわけですもんね。

恩地:そうですね。あと、それはブランドビジネスの面白みでもあって、ファッションブランドって最初はすごく大変だけど、ある程度ブランドの価値が世の中に広まった瞬間に、勝手に売れていくようになるんですよ。普通はコストを投下した量に比例すると思うのですが、広告を出したりしなくても、ブランド名やロゴが入っているだけでドンドン売れていくんです。そうなっちゃえばもう勝ちですよね。

――ある種ブランドの到達点という感じですね。でもそれは恩地さんのやってらっしゃるようなブランドとは反する考え方なんじゃないかと感じます。

恩地:そうですね、マス向けの低価格ブランドでも、ハイブランドでもない僕たちのような中間層のブランドは、カルチャーを作っていかなければならないんです。例えばアーティストのMVで使われたりとか、あのシーンで流行っているだとか、何かに裏付いたカルチャーを作っていくことが重要だと思っています。

例えば、1万円ぐらいのTシャツって売るのがすごく難しいんですよ。ファストファションの1000円のTシャツだったらもちろん売れますし、ハイブランドの5万円のTシャツも買う人がたくさんいるんですよね。でも僕たちが扱うような1万円ぐらいの価格帯となるとちょっとだけ高いというか、何かしらの理由付けとなる背景なりが無いと買わないんです。

僕はブランドビジネスって「最強の詐欺ビジネス」だと思っているんです。ブランドの力を使い、どんなふうにして目に見えない価値を感じていただくか。そして最終的に買ってもらうか、ということです。

インフルエンサーブランドの炎上は何が問題だった?

―― 最近は女性インフルエンサーが自分のブランドを立ち上げるなんて話を良く目にしますね。ただ、調べてみると数年後にブランドが無くなっていることも珍しくないみたいです。

恩地:それはそのインフルエンサーの子の人気が落ちているからでしょうね。というのも、洋服を作る知識や経験があるわけではないので、ブランドを使って自分のポジショニングを取れないんだと思います。その子を使っている企業側からしたら、スパッと切ってまた違う人をいれてもいいわけじゃないですか。ちょっとドライですが、企業からしたらいかに利用して儲けを出すかってことでしかないので。この間も、インフルエンサーの子のブランドが叩かれたりもしていましたが…。

―― 「他社製品のデザインをパクってた」と炎上してましたね。

恩地:さすがに丸パクリは叩かれますし法律的にも危ないですけど、これって突き詰めると結構難しい問題なんですよ。ラグジュアリーブランドでもファストファッションでも「この部分が似てるよね」だけでなく「ほぼパクってるよね」というアイテムは結構な数存在しますし、消費者から叩かれるだけでなく裁判沙汰になったケースもたくさんあります。

―― デザインをマネするだけでなく、外国で買い付けたアイテムのタグを付け替えただけ、という批判もありました。

恩地:確かに300円で買えるものを6000円で売るみたいなのは一般的な感情として「おかしいだろ」と思いますよね。でもちょっと視点を変えると、今はEC全盛の時代で誰でも300円で買えたはずなのにみんなそれを知らなかったか、欲しいと思わなかったわけですよね。そして見つける側は現地に行って探して、交渉して買い付けてキュレーションするというコストも投じています。なので価格設定の是非の話は別として、「買わない」という選択肢もある以上、タグ付け替えという行為が過剰に叩かれてしまうのもちょっと違うかなと思ってしまいます。

1年かけて1着だけ、最高の服を作る

―― そういったタレント性に頼らないデザイナーズブランドはどうしたらよいと思いますか?

恩地:そうですね…。誰でも作れるものは文字通り誰でも作れるじゃないですか。僕、毎シーズン思うんですけど、デザイナーは半年で30種類ぐらいの洋服を作るわけです。それも、どこかからパクってきたアイデアではなく、コンセプトからなにから全部考えてやるんです。やっぱりそれってすごいことで、そこに勝ち目があるんじゃないかと思っています。

さらに言えばそういうデザイナーがちゃんとメシを食えて稼いでいける世の中を作りたいと思っています。正当に、本当にいいものを作っているんだぞという人たちが、ちゃんとものづくりに集中できる世界、ということです。

 先日行われた所有ブランドの展示会。会場では草花を用い世界観を表現した

―― 確かに、理想的な世の中かもしれません。でも実現するとなるとハードルは高そうですね。

恩地:音楽業界のような形をファッション業界の中にも実現できればな、とは思っています。例えば曲が大ヒットすると、それがカラオケとかBGMとかでたくさん使われるわけじゃないですか。そうすると何もしなくても印税が入ってきて、変な話それだけで食っていけちゃう人もいますよね。

そういった仕組みがファッション業界にもあれば、シーズンごとに30種類も40種類も洋服を作る必要は無くなってくるかもしれない。1年かけて1着とか、本当に自分がすごいものを作ってやるって考え方も可能になってくると思うんですよ。それでその1着が本当に素晴らしいものになったとしたら、ファッションって楽しいなって思う人がもっと増えると思うし、作り手としてもファッションだけじゃなく、建築でもアートでもやりたいこと、できることの幅が出てくると思うんです。

やっぱり、ものを作るためのインフラ整備がちゃんとされていれば、もっとこだわったものづくりができるようになるんだと思います。そうすると無駄なものを作らなくてもいいから、すぐ買ってすぐ捨てられるということも少なくなり、よりサステナブルになる。僕はそれが一番いいかたちなんじゃないかと今は思っています。 


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