BUSINESS | 2023/12/30

平成仮面ライダー、戦隊ヒーローの名物Pが挑む 「海外も視野に入れたキャラクタービジネス」の土台作り 白倉伸一郎インタビュー

聞き手:神保勇揮(FINDERS編集部)、ガイガン山崎 文・構成:ガイガン山崎 写真:小嶋文子

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去る2023年7月1日、東映は「キャラクター戦略部」を新設した。

その目的は、同年2月に発表された中長期ビジョン「TOEI NEW WAVE 2033」で示した重点施策である「映像事業収益の最大化」そして、その為の「IPライフサイクルの長期化」、「グローバル展開へのチャレンジ」の推進にあり、今後はキャラクタービジネスを戦略的かつ統合的に展開していくのだという。

そのキャラクター戦略部の指揮を任され、部長に就任したのが白倉伸一郎氏だ。平成仮面ライダーやスーパー戦隊をプロデュースした手腕で、ファンからも広く知られる存在だっただけに、就任時には話題も呼んだ。そして今は部長職を離れ、キャラクター戦略部担当役員という立場でその手腕を振るっているそうだ。

大いなる期待に応えるべく設立された東映のキャラクター戦略部に、今、何が起こっているのだろう? 話をうかがった。

白倉伸一郎

上席執行役員/キャラクター戦略部担当/ドラマ企画制作部ヘッドプロデューサー

1965年、東京都生まれ。90年、東映に入社。翌年の『鳥人戦隊ジェットマン』のプロデューサー補を皮切りに、多くの作品を手掛け、00年より始まった平成仮面ライダーシリーズを成功に導く。近年ではAmazon primeオリジナル『仮面ライダーBLACK SUN』に続き、映画『シン・仮面ライダー』にもエグゼクティブプロデューサーとして携わった。

とんでもないことをやるための部門

―― 「キャラクター戦略部」の立ち上げの経緯からうかがえますか?

白倉:まず東映は映画会社なので、その組織図も映画を主体として組み立てられているんですね。映画のビジネスというものは、非常に簡単です。たとえば、一本の大ヒット映画があるとしたら、その商品化が行われますよね。二次利用という言い方をしますが、ビデオ化したり、配信したり、あるいはスピンオフ作品を作ったりすることもあります。上流、下流という表現はよくないかもしれないけれど、大ヒット商品にぶら下がる形で利用形態が様々ありまして、それぞれの形態に応じた部署が作られている。これが東映の基本的な組織図です。

で、この組織構造とキャラクタービジネスには、あまりマッチしていない部分があったんですよ。よく縦割りとか事業部制の弊害みたいな話がありますけど、そんな高尚なものじゃありません(笑)。

仮面ライダーシリーズであれ、スーパー戦隊シリーズであれ、まず大ヒットしたテレビ作品があって、それを商品化するというスキームでやっていくぶんには、従来の組織図でまったく問題ないんですよ。映画と一緒ですから。でも本来、キャラクターとはそういうものじゃなくて、別に映画やTVシリーズみたいな映像作品が出発点でなくてもいいんですよね。漫画でもいいし、小説でもいいし、ゲームでもいい。はたまたキティちゃんのように、がま口財布から出発しても構わないわけです(※ハローキティのデビューは、1975年発売のビニール製がまぐち「プチパース」であった)。

でも従来の組織構造では、がま口財布を作りましょうっていうことは……まあ、やってやれないことはないかもしれないですけど(笑)、そこから広げることができない。あるいはゲームを作ろうと思っても、東映にはゲームを作る部門がないわけです。パートナー企業と共同で物事を進めていくことになったときも、東映の窓口がどこになるのかが分かりにくい。映画でもドラマでもないし、イベントでもないので、どこの部署が担当すればいいんでしょう?という話になってしまう。だから東映内で新しいキャラクターを生み出そうとしても、なかなか動きづらいところがあったんですね。

―― 仮面ライダーやスーパー戦隊が登場するゲームはたくさん発売されていますが、これまではどうされていたんですか?

白倉:今は「ドラマ商品化権営業部」 という名前になりましたが、「テレビ商品化権営業部」というところがライセンスを出していました。ただ、たとえばゲーム発のオリジナルヒーローを新たに作ることになった場合、原作がないわけじゃないですか。原作がないのにライセンスを出すことはできないので、そういうときはどう考えたらいいんだろうか?というところで話が止まってしまう。

それに加えて部署を跨ぐ際の課題もありました。たとえば、TVシリーズ以外の新しい作品を作りましょうとなった場合、映画の場合は映画の部門が、配信の場合は配信の部門が陣頭指揮を取ります。映画と配信を組み合わせる場合は両部門が連携します。でもプロジェクトの途中で、映画から始まって配信シリーズに続く予定だったのに、やっぱり配信プロジェクトを先に出そうとか配信自体をやめようとか、あるいは日本国内だけじゃなく、全世界同時に配信しようみたいな話になった場合、映画部門と配信部門と海外担当部門と……製作にしてもシリーズならテレビ部門、単発なら映画部門と、5〜6個の部署が入り乱れちゃって、誰が窓口なんだっけ? 誰が担当なんだっけ?という混乱が延々と続く。で、こんなふうに大変なことになるから、「最初に決めた枠組みを変えてもらったら困る」ということにもなってしまったりするわけですよ。

これ、別に誰が悪いわけでもないんです。東映の組織構造を変えなきゃいけないって話でもない。とりあえず回っているものは回っているので、無理やり変える必要はありません。ただ、これまでの組織図に当てはまらないものを受け入れ、発想していく。あるいは、ひとつのプロジェクトの中でスキームが変わったとき、柔軟に対応できるようにするためには、既存の組織図の外に担当者、窓口がなきゃいけないだろう。それが、このキャラクター戦略部なんです。

今般、東映が珍しく「中長期VISION」なんてものを発表しまして、“10年先を見据えてキャラクタービジネスをより深く進化させていくのである。そのためのキャラクター戦略部なのだ!”なんていう建前もあったりするんですが、そんな先を見据えてというよりも、もっと目先……今現在困ったなっていう案件もすごくいっぱいあるんですよ。本来だったら何の支障もないのに進みづらいとか、なかなか担当者が決まりづらいとか、とにかくそういう目先の案件をクリアしていかないと先に進むことすらおぼつかない。

で、まずスタートラインに立つため、会長・社長直轄のキャラクター戦略部なる謎部隊を作って、怪しいものは全部あいつらに投げてしまえと(笑)。だから10年先のことも考えつつ、具体的に今やっていることは目先のモグラ叩きだったりするんですね。

―― 設立時の部長という立場は、自ら立候補されたのでしょうか?

白倉:まず言っておくと、今は部長ではありません(笑)。僕みたいなプロデューサー上がりの企画セクションの人間が頭を張ってしまうと、最初に作品があって……という従来型の発想から逃れられないじゃないですか。そうじゃない発想、あくまでもビジネスの視点からキャラクターを捉えていく必要があると思うんです。それに作り手を自称している、自分をクリエイターだと思い込んでいる勘違いども(笑)、要はプロデューサーなんて肩書きを持っている人間は、基本的にいい作品を作ればいいんだっていうふうに思っちゃう。その発想はビジネスじゃないですよね。

もちろん、いい作品でなきゃいけないんだけど、いい商品でもなきゃいけない。そしてキャラクタービジネスっていうセクションに関しては、いい商品を作るんだって発想100%でいて欲しいわけですよ。さっきの話にもありましたが、スタートは作品ですらないものかもしれない。がま口財布であれ何でもあれ、商品を作っていくうえではクリエイター視点はなくていいので、自分じゃないほうがいいと思っていたし、そう主張もしていたんですが、お前が言い出しっぺなんだから責任を取れと(笑)。今ではちゃんとした部長さんが指揮を執っています。

―― なるほど。そもそもキャラクター戦略部は、何人体制なのですか?

白倉:配信セクション出身の部長さん、マーチャンダイジング出身の人間、イベント出身の人間、そしてテレビ畑、映画畑の企画制作の人間である私の4人ですね。一応、それぞれの出自と視点の異なる人間を集めていまして、これで大まかには網羅できているのではないでしょうか。ある種、スタンドアローンというか、動きやすい4人でやっている感じですかね。何十年も放置されていたような問題がいっぱいあって、それを一個一個丁寧に解決していかなきゃいけないので、今この取材中も他の3人は何かの会議をしているはずです。

それともうひとつ、うちと似たような「新規事業開発部」という怪しい部門があるんですよ。元を辿るとメタバース部隊だったようなんですが、今はメタバースだけじゃなく、新規事業であれば何でもアリということです。なので、非常に突飛な話を持ち込まれて、ちょっと既存の部署にはハマらないなということになったら、新規事業開発部と連合してメンバーを増やすこともできる。実際、いくつかの案件では一緒に話を進めたりしているんですよ。

だからキャラクター戦略部に4人しかいないとは言いましたが、わりとフレキシブルなんですね。それが従来組織図にはなかった部門のフットワークの軽さで、壁がないんです。各々やることが決まっていて、その壁を超えちゃいけないのが普通の組織なんですが、とんでもないことだってやろうと思えばできちゃうし、むしろとんでもないことをやるための部門なんですよ。

海外担当者も巻き込み、たった2カ月で実現させた「王様戦隊キングオージャー×FORTNITE」企画

―― 2023年9月より人気ゲーム『FORTNITE』のクリエイティブモードで、『王様戦隊キングオージャー』に登場する5大王国を体験できるというコンテンツが公開されましたね。『FORTNITE』のクリエイティブモードは、ユーザーが自分の島を作り、独自のルールを設定して、好きな人と一緒に遊ぶことができるというもの。こちらもキャラクター戦略部が動いているとのことですが。

白倉:『キングオージャ―』のアセット(※3DCGのモデルデータ。この場合は、背景用のCGセットを指す)を作っている東映ツークン研究所というセクションがあるんですが、せっかくアセットがあるんだから『FORTNITE』で遊べるようにしてみたいけれど、どうすれば実現できるのか分からないと困っていたんですね。そこで我々が動いて、金策や許可取りのお膳立てをしたという感じです。

―― キャラクター戦略部が新設されたのは7月ですが、このプロジェクトは設立2カ月後に発表されています。設立以前から相談されていた案件だったのでしょうか。

白倉:ほぼ同時くらいのタイミングで、7月に相談されました。で、いつリリースしたいのか訊いたら、映画『王様戦隊キングオージャー アドベンチャー・ヘブン』の公開が7月末からなので、それに合わせて8月には出したいと言うんです。おい、ちょっと待てよと(笑)。

『FORTNITE』を運営するEpic Gamesの審査もありますし、『FORTNITE』は世界的に親しまれているゲームだから、必然的に全世界同時公開になるじゃないですか。でも『キングオージャー』は、基本的に日本国内での展開をベースにしていて、海外でどう打ち出していくかは国によってバラバラなわけです。たとえばアメリカだったら、パワーレンジャーシリーズというローカライズ作品が30年も続いていますし、ビジネス的に入ってきて欲しくないエリアだって当然あり得るわけですよ。

(c)テレビ朝日・東映AG・東映

―― 最新作『パワーレンジャー・コズミックフューリー』は、2019年放送の『騎士竜戦隊リュウソウジャー』と、2017年放送の『宇宙戦隊キュウレンジャー』がベースになっている作品だから、仮に『キングオージャー』がローカライズされるとしても何年後になるんだという話ですもんね。日本に少し遅れるかたちで吹替版を放送してる韓国にしたって、『キングオージャー』にあたる作品は始まっていません。

白倉:そういった国々でも展開されてしまうので、各国のスーパー戦隊シリーズ担当、パワーレンジャーシリーズ担当の人に話を通したりして調節しなきゃいけない。だから、8月公開は無理でしたね。

―― ハレーションのようなことは起きなかったのですか?

白倉:そりゃあ起きましたよ(笑)。数十人が集まれる会議室を埋め尽くすぐらいの人が集まって、どうするんだみたいな会議が何回も行われましたからね。

ただ、みんな共通して、「これまでやったことがないから止めよう」ではなく、どうすればできるのかっていう気持ちになってくれていたので、いろいろな問題はありつつ、きちんと各々で解決してくれた。あと、こういうことも一回通れば、他のプロジェクトでも「要はあのときの『FORTNITE』みたいなことかな?」って類推できるようになりますし、今後はどんどんやり易くなっていくと思いますよ。

世界に羽ばたくヒーローのつくりかた

―― キャラクター戦略部の目的のひとつとして、“グローバル展開へのチャレンジ”というものがありますが、こちらについても詳しく教えてください。

白倉:海外に作品を広げていくとき、ふたつの考え方があると思うんです。最初から海外をマーケットと想定して作品を作っていくのか、あくまで日本市場が主であって、余力として海外の人にも観てもらうのか。現在放送中の仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊シリーズは、これからも後者の体制で作っていこうとしてるんですよね。基本的には、これまでのやり方を踏襲していくわけです。

ただ、現状のありようが、必ずしも適切でないことも分かってるんです。毎年毎年、仮面ライダーなんちゃら、なんちゃら戦隊なんちゃらレンジャーというふうにリセットしていく一年交代お色直し方式って、あまり馴染みのない人たちにとっては定着する前にシーズンが変わってしまう感覚だと思うんですよ。

だって、スーパーマンやキャプテン・アメリカは戦前からいるわけですよね。もちろん、人気が得られない時期が訪れて中断していたこともあったけれど、また復活してくる。そうやって同じキャラクターを大切にしてきたからこそ、今日のアメコミヒーローブームみたいなものがあるわけで、昨日今日の思いつきで作った新しいヒーローでは、決して得られない果実じゃないですか。

だから、我々も海外を視野に入れた、新しい作品やキャラクターを作る必要があるのかもしれない。それが仮面ライダーなのか、スーパー戦隊なのか、あるいは別のキャラクターなのかは分からないけれど、現行のシリーズとはまた別軸で作っていかなきゃいけないものだと思っています。

―― アメリカのスーパーヒーローがロングスパンで活躍できているのは、彼らの主戦場がコミックだからではないですか? 日本でも『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』に関しては、随分と長いこと人気を維持できていますし。

白倉:そうなんですよね。実写ではなくアニメの場合、途中で声優や監督が交代したり、はたまた制作会社まで交代しちゃったりみたいなこともありますけど、基本的には同じ世界観でずっと続けていくことができる。アニメ作品、コミック作品と比べたとき、どんなに瞬発力が高かったとしても持続性のなさが実写作品の弱いところです。

仮に作品を外してしまっても1年経ったら終わらせることができる反面(笑)、どんなにいい作品が生み出せても続けることができないんですよね。そこがナマモノであるが故の難しさです。ただ、いわゆる変身ものの場合、変身前はどうあれ、変身後に関しては、アニメのように同一性をキープできるはずなんですよ。

―― 確かに2021年公開の映画『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』では、藤岡弘さんに代わって、息子の藤岡真威人さんが本郷猛/仮面ライダー1号を演じていますよね。また、『仮面ライダー電王』は、主演の佐藤健さんの出演が叶わなくなるくらいの人気俳優になってしまったあともスピンオフが作られ続け、そちらでは佐藤さん演ずる野上良太郎の相棒だった着ぐるみキャラクターのモモタロスが、良太郎に代わって電王に変身していました。

白倉:そんなモモタロスにしたって、アクターの高岩成二さんや声優の関俊彦さん、そして脚本家の小林靖子さんのコラボレーションによって組み上げられたキャラクターなので、このトライアングルが崩れると本来のモモタロスから離れていってしまうようなところもありました。だから、そこまで絶妙なバランスじゃなくても成立するキャラクターが必要になってくるんですよね。

たとえばスパイダーマンは、何度も何度も映画でリブートがかかっているじゃないですか。ああいう有り様っていうのは、日本のキャラクターではなかなか見られないんです。たぶん、ゲゲゲの鬼太郎くらいじゃないですか?今も映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』がヒットしていますけど。

―― ではグローバル展開に関しては、現在のところは模索中といった感じでしょうか?

白倉:かつてピクサー(・アニメーション・スタジオ)をはじめとする3DCGアニメーションが勃興してきたとき、日本の2Dセルルックみたいなものはもう終わったというふうに言われたことがありました。これから世界は、3DCGアニメーション一色になるんだと。まったく新しいマーケットだから、うちの国も参戦できるぞ!と息巻いた国もたくさんあった。で、国からの補助なども受けながら、いろんな3DCGアニメスタジオができたんですね。

ただ、それでいっぱい作品が出てきたら、結果としてガラパゴス的な日本のアニメが一番目立っちゃった。これだけは違うぞっていうことですね。弊社の『THE FIRST SLAM DUNK』にしたって、3DCGベースの作品ではあるけれど、日本ならではのコミック的なルックだったじゃないですか。世界では、こういうほうがウケるだろうなんて誰も考えてなくて、日本人的なセンスで『SLAM DUNK』を突き詰めたら、それがウケた。

そんな文化が時間をかけることで、海外でも受け入れられるようになっていったということだと思うんですね。『THE FIRST SLAM DUNK』は中国でも大ヒットしましたし、東宝さんの『ゴジラ-1.0』がアメリカで大ヒットしています。中国では、昔のTVアニメ版を愛好していた“スラダン世代”が存在していて、ゴジラにしても『Godzilla, King of the Monsters!(怪獣王ゴジラ)』の全米公開から70年近い歴史があって、今があるわけじゃないですか。最初の刷り込みが絶対に必要で、そのファーストアタックをどう作っていくか。そこは多少、手練手管がいるんだろうなと。だから時間は掛かりますよ。

でも私たちの目指すところは「TOEI NEW WAVE 2033」ですから。マーベル・コミックスを例に取るならば、1990年代に一度は潰れちゃったわけじゃないですか。あの頃、いろんなキャラクターの映画化権も手放してしまったし、20年後にマーベル・スタジオが隆盛を誇ることになるなんて、誰も想像してなかったと思うんですよ。確かに20年もかかったけど、逆に言えば20年しかかかっていない。10年、20年あれば世界は変えられるという勇気をマーベルさんから頂戴したわけです。

海外に目を向けようというとき、決して自信過剰になってもいけないけれど、島国根性が云々と卑下する必要もまったくなくて、日本人しか持ってない感性とか感覚こそが最大の武器だと思うんですよ。我々はアメリカ人ではなく、中国人でもないので、彼らと同じように考えることはできない。でもそれこそ魅力であり、大きな長所なんじゃないでしょうか。