CULTURE | 2022/08/05

富野由悠季が問いかける「未来の問題」 非ガンダムファンこそ『G-レコ』を観るべき理由

聞き手・構成・文:神保勇揮(FINDERS編集部) 写真:小田駿一

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『G-レコ』で描いてみせた「ポスト資本主義」の世界

『G-レコ』の主人公ベルリ・ゼナム(画像右)と彼に好意を寄せ共に行動するノレド・ナグ(画像左)

―― 関連して『G-レコ』が非常に興味深いと思ったのは、世界宗教(劇中で登場するスコード教)の教義で技術発展を禁止してブラックボックス化させ、エネルギー源は宇宙からやってくるので心配ありません、と多くの「戦争が起こる理由」を潰しても、なお人類は争いを始めてしまうという「戦争はなぜ、いかにして始まるのか」を丹念に描いていたことでした。

富野:世界人口を30億に落とさなくちゃいけないということを、そろそろきちんと容認していくロジックや認識論を育てていかなくちゃいけないのに、なんで開発とか発展とか進化するという言葉遣いでものを考えようとしているんだ、と異議申し立てをしているんです。つまり、「これからあなた達が起業して儲けようとしているよね。これ以上儲けてどうするの? そういうことも一切やめよう」という話をしたいわけ。

―― 『G-レコ』は科学技術の発展をやめた後の世界、ポスト資本主義的な世界を描いているということですよね。

富野:だから「ビジネスパーソン向け」と言っているメディアには、似合わない話なんだよ。もう、この取材はやめなさい。

―― もう少し続けさせてください(笑)。技術発展とその先にある戦争の話に関連して気になったのですが、劇場版『G-レコ Ⅳ』「激闘に叫ぶ愛」では、主人公ベルリが大量破壊兵器の「フォトン・トルピード」を使うシーン以降の描写が、TV版のそれとは全く違う、兵器の凶悪性を、より強調するものに変わっていることに衝撃を受けました。なぜあのシーンを変更したのでしょうか? 

フォトン・トルピードは触れたものを対消滅させてしまう、富野作品の中でも屈指の凶悪兵器。劇場版Ⅳの本予告映像の33秒あたりから、使用するシーンを垣間見ることができる

富野:その理由はさっきの原爆のくだりで話した通りです。技術というのは進化すればするほど、そういうところに踏み込んでいっちゃうから、それをそろそろやめる時代が来ているんじゃないのと言っているんです。国力差があって多くの兵器を持って、それを実際に使ってみせたとしても、今は帝国主義の時代と違ってそう簡単には他国を占領できない。かと言ってこれからどうしたらいいのか、という行き先も分からなくなっているのにまだ戦争をやっている。

人類の本来的な意味での進化があるはずなのに、それに逆行しようとしている人がいる。世界がそれを否定もできないで、今も元気にやっていたりする。まさに知恵の持っている保守性、呪縛性というものがあって、人を絞め殺しているんですよ。今、人類全体がそういう方向に行っているんじゃないかと僕は思っています。

だから、だからなんです。起業するにしてもそうなんだけど、人口縮小が脅威なのではなくて、その方が永続性のある社会をつくることができるとか、地球を保全することになるかもしれないという、つまり“縮小していくためのビジネスをやっていく”というところに行かなくちゃいけないんじゃないの? という考えがあるんです。

海洋のプラスチックを回収していく必要がある一方で、これをビジネスとして金銭化するのは事実上できない。できないんだけれども、海洋を守らなくちゃいけないことがはっきり分かるようになってきたんだから、これは国家予算でやってもいいようなことで、軍隊に使う予算を、そういうものに振り分けていくという精神構造を持つ必要が我々にはあるんじゃないかという話で、そういうところに論点を持っていきたい。

こういう回路の話がようやくできるようになったのも、『G-レコ』を作ったから。今後、我々が地球で永続していくためにはどうしていかなくちゃいけないか、という視点を持ったときの新しい切り口が出てくるんじゃないのかなと思っている部分がありますね。

日本という国は本当に不幸なところで、例えば風力発電でも「海岸線にきちんと並べて造ればいいじゃない、なんでわざわざ千葉や福島で地元住民と揉める状況を作っちゃうんだ」と考えていくと、問題なのは、従来の延長線上でものを考え過ぎていることで、いっそ太平洋に浮島を造ってでもいいから(編集注:風車を海に浮かべる「浮体式洋上風力発電」は日米欧で開発や実験が進んではいる)、風力発電をもっと増やすための資金と技術力をポンと踏み込んで出すぐらいの英断、勇気を持たなくちゃいけないのに、まだそれがやりきれていない。

宇宙エレベーターだってそうで、『G-レコ』でああいうふうに描いて分かることなんだけど、1基、2基のエレベーターを動かしたからといって、物流のための交通手段になんかならないんだよね。そういうことではなくて、もっと社会性と実用性を兼ね備えつつ、ペイできるシステムを考えていくところに、そろそろ技術者も行かなくちゃいけないんじゃないの? という話をするためにも、『Gのレコンギスタ』みたいなものを作っておけば話をしやすいでしょうと、それだけのことなんだ。

『G-レコ』は「解決策の提示」ではなく「問題を列挙」したアニメ

―― ここまでのお話でやっと自分も「富野監督は『G-レコ』を通じて何をしたかったのか」が腑に落ちた気がします。多くのフィクション作品は「視聴者が感じてほしい、監督なりの答えやヒント」が散りばめられているわけですが、『G-レコ』の場合はそうではなく、現実世界がどのような過程で移り変わってきたかに関して、監督がこれまで勉強し、お考えになってきたこと「そのもの」が世界設定やキャラクターの身体の動かし方、背景美術の隅々に至るまで表現されていて、「この先に発生する問題の解決策を考えてくれよ」という課題・問いを示す教材として制作されたということですね。

富野:全くそういうことです。孫やひ孫たちに、「一応問題は全部列挙したから、『G-レコ』を見たうえで解決策を見つけてくれない?」とお願いしているのがこの作品なんです。

だから、偉ぶっているつもりは全くないし、偉ぶりが見えていないだろうなというのは、今回の『Ⅴ』で最終的に作り上げた部分で、そういうところに落とし込めたような終わり方にもなっているかもしれないと思っています。つまり戦争賛歌にもなっていないし、悲惨な物語にもなっていないということ。

結局、劇中で一番カメラが追いかけたベルリと(幼馴染的立場の)ノレドについて、こういうかたちで一応落とし前を付けちゃいましたけれども、「こんなものなんでしょう、人というのは」という、まさに「こんなもんだ」というのが一番重要なこと。で、「こんなもんだ」をもう一度環境論とか職業論に戻していったときに、人類にとって一番大事なことはどういうことかと言えば……。

だから、人類の総数をとにかくこれ以後は徐々に減らしていって、人口減というものは地球にとって、世界にとって脅威ではないんだということを認識していく。人口減をしていく過程の中で、もう一つ我々がやらなくちゃいけないのは、水産と農業を永続的に維持していくための環境保全をどうするかを考えなくちゃいけない。つまり、そういうふうに言った瞬間に、例えば日本人として僕が一番簡単に言えるのは、休耕田を何とかしてくれよという話なのね。

田地・田畑をこれだけ休みにさせているというのは、税制や所有権の問題などがあるんだから、その辺をもう少し有効に使っていって欲しいんですよ。今回の戦争で分かったことがあるでしょう。お米や小麦が輸入されなくなったらこうなんだから、自給自足というのをもう少しきちんとやろうぜというところに、観念論ではなくて行かなくちゃいけないところに来ているわけです。

やっぱり今回の参議院選挙もそうだけど、投票率が低いということは、死ぬほどヤバい問題になってきている。軍部OBすら反対しているのに、まさにその軍隊が戦争をやっている絶対不幸みたいなことを、この21世紀にやっていると我々は思わなかったよね。

それを考えていったときに、理想論を言っている暇はなくて、我々は本当に愚明な人類なんだから、知恵というものを変な使い方しかできなかったわけ。スペースXを作ったイーロン・マスクは天才かと思ったんだけど、「人口減がこれだけ進んだら、日本なんていう国はなくなる」と平気で言う。まともじゃないと思いません?

そういうことを再考させるような、言葉遣いや思考回路を我々は持つ必要があるんじゃないですかというのが、『G-レコ』の中で言っている一番のこと。それを現実のビジネスとして考えると、ユニクロみたいに大ヒットはしないかもしれないけどもね。

そのへんのことを本当に維持していくためにはどうしていくかというと、今日本中でやっている、高層ビルがガンガンガンガン建っていくみたいな、あの政策はそろそろおかしいと本当は今から声を大にして言わなくちゃいけないことなんじゃないの、と。それはどうしてかと聞けば、「上海やシンガポールに負けたら困るんです」と言われる。はいはいはいはい、そうだよねとは言えるけれど……。

だけど今、中国では銀行の取り付け騒ぎみたいな大問題が起こっているわけ。ということになると、投資家を保護することがどこまで善なのか、つまり金融資本の問題になってくるということを、そろそろきちんと我々が言葉にして、それはおかしいと言わなくちゃいけない時代が来ているんじゃないですか? というのが、『Gのレコンギスタ』が一番言いたいことです、って全部言っちゃった……。

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