CULTURE | 2022/08/05

富野由悠季が問いかける「未来の問題」 非ガンダムファンこそ『G-レコ』を観るべき理由

聞き手・構成・文:神保勇揮(FINDERS編集部) 写真:小田駿一

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現実にも宇宙世紀にも絶望してなお「未来の子どもに向けた希望ある物語」を作る理由

富野:それと同じように、『G-レコ』では宇宙エレベーターひとつ取っても、劇中世界の政治経済の問題について、フィクションとしての解決案まで考えざるを得ないということを同時的にやっていったうえで、作品を作っていますという言い方ができますね。

同時に、なんでそんなことを思いついたんですか? と聞かれれば「子どもに向けて未来に希望のある物語を作りたいから始めたことなんです」と答えるけど、「え、そのことと今の話は全然つながりがあるように思えませんけれども」という反応をされるわけです。

はい、つながりはありません。つながりはないけれども、現在の地球とか現在の我々の生活を見て、50年後に希望を持つことができますか? という話なの。

そうしたときに、僕は今のままの経済論と政治情勢の中で、人口増殖も進んでいて、地球はあと150年ぐらいしかもたないと思っている。今の時代を舞台にして孫たち、ひ孫たちに、「明るい未来があるから、お前たちも頑張れよ」という言葉を、僕は見つけることができなくなっちゃったんです、もう20年以上前に。

一つにはそれもあったので、ガンダムを作ることをやめたという言い方があります。そして、20年後に『Gのレコンギスタ』を何とか思いついたのは、既存のガンダム世界、宇宙世紀の延長線上で考えると絶望しかない。つまり、宇宙戦争が終わった後に、地球はどうなっているかといえば、めちゃめちゃになっている。だから、それを考えるのをやめた。

それでも、子どもたちに明るい未来がある物語をウソでも作ろう、アニメだからウソでいいだろうと思ったわけです。そのときに作る世界設定というのは、一度人類が絶滅寸前までいった。それこそ宇宙戦争をやり尽くしたから、ガンダムの延長線上なんだという逃げ口上があるわけです。

そうしないと今の地球がとか、戦争が起こっているとか、ポピュリズムの扇動者が大統領になったり、なるかもしれない国はおかしいでしょう、とかいう話をやると、トゲが立つじゃない。

―― はい。

富野:だから、それを言わないでやるためにはどうするかというと、宇宙世紀から1000年後、2000年後で、人類がまたもう一度、文化を取り戻してやっていこうとする世界だったら、これから明るい未来をつくっていこうという物語をウソでも作れるかもしれないなと思って、『Gのレコンギスタ』という物語を作りました。

だから、時代を新しい世紀(リギルド・センチュリー)の物語ということにした。宇宙エレベーターはもともと宇宙世紀時代にあったかもしれないから、ということでそれを利用して、フォトン・バッテリーを発明したヤツがいてくれたおかげで、地球がもう一度再生することができたので、さあ、どうなるかといったときに困ったことが起こった。宇宙戦争の歴史があったおかげで、モビルスーツ(MS)というロボット兵器の設計データが残っていたのよね。で、それを作るバカがいた。というのが『G-レコ』の物語の始まりです。

一体どういうことなんですか? というときに、我々がとてもよく知っている事実があります。核物理学者というのが150年ぐらい前に出てきて、原子力というものを想像できるとんでもない人たちが出てきてしまった。その技術を利用して作れるものがある、ということまで想像できるようになってきた。

そうしたときに革新的な研究者たちが初めに何をやったかというと、原子力発電を作るんじゃなくて原爆を作っちゃった。これは、すごくおかしくないか? という話。でも我々は原爆というものがありきだと思っているから、おかしいなんて思わないわけ。

技術というのは本来、人のために役立つものなのに、なぜか原子力爆弾が先にできて、その次に水素爆弾まで作っちゃった。そして実際に広島と長崎で使ってみたら、あまりにも破壊力が高すぎるからヤバくて使えないよねというので、それが冷戦以後のところでのミサイルに搭載して、大陸間弾道弾にするぐらいのことまではやってやめたんだけど、使えたかというと使えない。

一方で「原子力の平和利用があるんですよ」と言う人もいる。はいはい、どこにあるんですかと聞けば「原子力発電がありました」とか、「放射線を使う医療で新しい切り口もあるんだから、これはこれで平和利用でしょう」なんて言う。確かに平和利用です。だけど、核物理学者が一番初めにやったのは原爆を作っちゃったことだよね。

技術というのは、そういうふうにしてすごくシャープに発展していく。今我々がすごく便利に使っているインターネットがあるよね。これ、異常な使い方だと思わない?

―― 頼りすぎているということですか?

富野:ネットを使った連中が、みんな賢くなっているか。

―― なっていないですね。

富野:デジタルのマークを見ているだけでしょう、言いたくないけど。こういうふうにしちゃったからしょうがない。そこで、人口の問題にポンと戻るんだよ。地球の総人口が100億になるには2050年ぐらいかもしれない、ちょっと待てよと。

ということは、人口爆発問題とか環境汚染の問題がこれだけ言われているのに、それが善だと思っているんですか、と言ったときに、命は大事なものだからという動物愛護協会とか人権主義者が出てきて、反論できないじゃない。我々は今。そうすると、これは異常でないのか。

―― できれば保護したいですけど、実際に食べさせられるのか、環境を守ることと両立させる、それこそ技術があるのかを考える必要はありますね。

富野:そういうこと。解決するための科学技術もこれからも進んでいくんだから、今はやりましょう、と言う研究者がいるわけよ。そうしたときに彼らは、ビッグデータを使っていろんな調査をしていますと言う。

じゃあビッグデータを使って10年後の人口はどのぐらいと予測され、どれだけの食料が必要になって、どうすれば用意できるようになるのか。やれるものならやってみろよとなる。

―― 結局、多くの企業はお金儲けのためだけにビッグデータを使っているばかりですね。

富野:使ってばかりで、その限界値の計算をしている人はどこにもいない。というのはおかしな話なの。そろそろ、そういう問題をきちんと言葉にしていきましょうよ、認識論として高めていきましょうよ、という話をしたいために『Gのレコンギスタ』を作りました。

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