今瀧健登さん(僕と私と株式会社)、写真右:寺口浩大さん(株式会社ワンキャリア)
幼少期からデジタルデバイスが、学生時代にはSNSが出揃った、デジタルネイテイブのZ世代も、新卒〜入社6年目ほどの時期に差し掛かっている(最初のZ世代である1996年生まれの人は今年26歳)。
ネットやSNSを通じてさまざまな価値観をインプットできるようになった昨今では、自身が勤める会社以外の環境や働き方を知ることも容易となった。上司とのジェネレーションギャップや時代錯誤な社内ルールに縛られて、仕事を通じた自己実現が上手くいかないことに悩むZ世代も多い中、自分のスキル・状況を理解したうえで「自分に合った働き方」を求め、会社を選び直そうとしている人も多いという。
そこで今回は、Z世代を対象とした企画・マーケティングで多数のヒットを飛ばす会社「僕と私と株式会社」を設立した今瀧健登さんと、株式会社ワンキャリアに所属し採用の最前線情報を多数発信する、寺口浩大さんとの対談を通じて「Z世代が大事にすべき、会社選びの5つの基準」を紹介する。
新卒就職先、転職先を探すZ世代はもちろん、「若手の離職率を下げたい」と悩む企業担当者もぜひ参考にしていただきたい。
聞き手・文・構成・写真:神保勇揮(FINDERS編集部)
今瀧健登
僕と私と株式会社代表取締役社長
1997年大阪府生まれ。横浜国立大学卒業。Z世代を対象とする企画・マーケティング会社を設立。若者向けの企画・体験設計やSNSマーケティングを得意とし、“サウナ採用”や“KANGOL MEN'S NAIL”など、Z世代ならでは企画を多く生み出している。
社員の9割がZ世代で、フルリモート・フルフレックスを推奨するなど、新しい働き方を実施。一般社団法人Z世代の理事も務めている。
HP:https://boku-to-watashi-and.com
メディアの方向け実績資料:https://boku-to-watashi-and.com/kent
寺口浩大
株式会社ワンキャリア経営企画部 Evangelist
1988年兵庫県⽣まれ。京都⼤学⼯学部卒業。就職活動中にリーマンショックを経験。メガバンクで企業再⽣やM&A関連の業務に従事したあと、IT広告、組織⼈事のコンサルティングなどの経験を経てワンキャリアに⼊社。現在は仕事選びの透明化と採⽤のDXを推進。
「ONE CAREER PLUS」リリース後、「キャリアの地図」をつくるプロジェクトを推進。専⾨はパブリックリレーションズ。
伝わらない「Z世代の働き方のホンネ」とは何か

寺口:僕は今年35歳になるんですけど、ONE CAREER PLUSという求職者の本音の声や体験談を集めたメディアをやっていて、雇用する企業と、される若者との認識のズレみたいなものが、かなり大きくなっていると常々感じます。それをいかに埋められるかということをずっと考えていました。
(今瀧)健登さんはまさに新卒数年後ぐらいの年齢でなおかつ周辺世代の話も教えてくれる。世代が違う僕らが一緒に問題提起するという機会が必要なんじゃないかと思い、今回の対談をお願いしました。
今瀧:僕が今年25歳で、寺口さんとちょうど10歳違いなんです。お互いの世代が何を考えているのか、昔からよくディスカッションをしていました。ちょうど僕が新卒3年目の世代なんですが、転職する人や、キャリアの悩みを抱えた同世代がすごく増えているんです。
寺口:メディアで言われる「Z世代論」は消費行動やSNS事情の話が多く、「働くことに関する意識」のデータは徐々に蓄積されつつも、生の声があまり伝わっていない実感がずっとありました。「3年で辞める若者」的な話はZ世代以前から常にありますし、企業側から「若者の急速に移り変わる価値観を把握しきれず困っている」という相談も多い。それは一体何なのかということを今回の対談で話していきたいですね。
―― 今回はお二人に「Z世代が大事にすべき、会社選びの5つの基準」を作っていただきました。解説をお願いできますでしょうか。
Z世代が大事にすべき会社選びの基準①:表現できる
寺口:最近は就職面接で「副業もSNSもNGだけど大丈夫?」みたいなことを言われて「じゃあ」と辞退されてしまうケースも聞きます。業界・業種的に難しいところもあるとはいえ、本当にそれだけの理由で意欲のある若者を手放してしまっていいのか、企業側ができる努力は残っていないのかということは常に問い続けるべきだと思います。
今瀧:今の時代は国も副業・兼業を推奨しているにも関わらず、企業側が制度や運用を詰めきれず「就業規則上はOKになってるけど…」といった言い方をしてしまうミスマッチが起きていると感じます。
寺口:起業している学生に会うことも珍しくなくなっている気がします。規模が小さくとも物品のブランドを立ち上げてBASEなどで売っていることも多いですよね。大学生が有名企業のSNS運用を手伝っているケースも結構ある。
僕が大学生だった15年前はお金稼ぎ=アルバイトがメインでしたが、今の大学生はもう僕らの大学時代とは違う生活様式だということを認識した方が良いと思います。ビジネス経験は彼・彼女らにとっての「資産」であって、ビジネスパーソンがこれまで培ってきたスキルを活かした転職を志向するのと同様に「途切れさせたくないもの」だと考えられているのです。
今瀧:起業する人が増えていることに加えて、今はSNSを通じて同世代で起業している人を大量に見られるようになっているんですよね。なんなら同じ大学に在籍していたりする。
寺口:それはありますね。「あいつもやっているんだったら自分もできるかも」という感じで、ポジティブな同調圧力が生まれている印象があります。
今瀧:Z世代の一つの特徴としてそれまでの世代よりも「自分らしく生きたい」と思っている人が多い中で、「全員が同じことを同じようにやれ」と型にはめられることを嫌う傾向があります。チームの中で「この人にはこのやり方が合う」「それぞれのメンバーが輝ける場所を作ろう」という考え方が大切なんです。
―― 「表現できる」とは、例えばTwitterやInstagramなどで「イエーイ!」という写真を投稿したいという話ではなく、仕事を通じた自己実現がしたいということですよね。
今瀧:そうです。就活で「なぜ自分が御社にマッチするか」をアピールする必要があるのと同様に、会社も各社員に「なぜあなたが必要なのか」と示す取り組みができなければ退職されてしまうということです。
寺口:確かにそうだと思います。そしてそれはZ世代特有の志向ではなく、ミレニアル世代と呼ばれている僕らの世代でも同じようなことを感じていたと思いますし、世の中全体が「それを言ってもいいんだ、我慢しなくていいんだ」という風潮になってきたのではという気もしています。
多くの人がすし詰めの満員電車に乗って、夜遅くまで残業して、精神を病んでしまう人たちもいる。それって普通に考えておかしくないか?ということがようやく口に出せるようになってきたというか。
今瀧:本当にそうですよね。数年前までは都心部に台風が直撃すると「出勤するために駅で大行列が〜〜」という風景が風物詩になっていましたが、「非効率だし危ないので今日はテレワークで勤務します」とようやく言えるようになってきたというか。
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Z世代が大事にすべき会社選びの基準②:知ることができる

寺口浩大さん
寺口:これはもう端的に言って「企業の美辞麗句は一切信じていない。働くことに関するリアルな情報が欲しい」ということだと思います。採用説明会で「弊社はアットホームです、フラットです」といった抽象的な形容詞を使っているだけだと何も言っていないとの同じで。今はオンライン開催も多いので途中で離脱されてしまうことが増えています。
良いか悪いかは自分で考えて決める、だから企業は情報を隠さずに出してほしい。そうしたリアリティのある企業説明会は参加者の満足度も高いですし、オープンな採用をしている企業は実際に支持も厚いです。
今瀧:会社選びは今まで、例えるなら結婚に近いような「10年以上のスパンで向き合っていく相手」を探すイメージだと思われてきましたが、今は友達選びに近くなってきたのではと感じます。友達から「自分はこれができる、あれができる」と自慢ばかりされてもイヤですよね。「実はここが苦手で…」というような弱みも出してくれた方が、友達になりたい、一緒に働きたいと思えるんじゃないでしょうか。
寺口:「職場のリアルは先輩のSNSで知っているので、虚像NG」というのも本当にそうで、いくら取り繕ったところで、「激務すぎて辞めたい」あるいは「ヒマで仕方ない」といったInstagramのストーリーが毎日のように流れているので、若者はリアルをちゃんと知っています。
「応援される企業、事業にはストーリーがある」といったこともよく言われますが、情報をただポンと発表しただけでは文脈も生じず応援もされません。そのためには上手くいかなかった経験も含めて情報を発信していくことが求められますし、その情報をオープンにする勇気が持てないと応援されないということです。
そして学生起業もそうですが、退職・転職も本当に気軽なものになってきていますよね。僕は入社5年目で転職しましたが、当時はまだ「え、辞めるの!?」という反応を多くもらいました。でも今はSNSなどでかなり頻繁に退職報告が上がってきますよね。
今瀧:結構ありますよね。
寺口:退職理由もネガティブなものばかりではなくなってきて、最終出社日に同僚と一緒に写真を撮って「今までお世話になりました!」とSNSにアップする風景も珍しくありません。もちろん今でもネガティブな理由で辞める人はいますが、「そうじゃない退職もあるんだ」というイメージがかなり広がっています。
僕らは去年、ONE CAREER PLUSという、どこに勤めて何年目で、何をしている人がどんな理由でどこに転職したのかがわかる、「キャリアの地図」のようなサービスのβ版を始めたのですが、現段階で2万件のクチコミデータが溜まっています。
SNSでバズる退職報告とかは、スキルのある人がキャリアアップを目指すにしろ、何かゴタゴタがあったにしろ、極端な内容が多いですよね。匿名の掲示板などを見ても恨みつらみが多いし、辞めた人がどこに転職したのか全くわからない。もう少し多くの人にとってリアリティを感じられる転職理由の本音やキャリアパスのデータを溜めていくことが、ポジティブな転職を増やすことにつながるんじゃないかと考えています。
ところで健登さんの周りの人で転職・退職しようかなと思っている人たちは、どんな動機の人が多いんですか?
今瀧:多種多様ではありますが、よく耳にする動機のひとつはキャリアアップですね。今働いている会社で5年後も働いているつもりはない、だったらいつ辞めようかと悩んで相談をもらうことが多いです。
働き方改革で残業が減り、ハラスメントを黙認しない組織づくりも進んでいる。コロナ禍もあって飲み会も減った。そうして企業社会が少しずつ良くなっている中で、自分の働き方や人生に深く向き合い、どうしようかと悩んでいる人が多い印象です。
寺口:なるほど。加えて僕が耳にする動機は会社や職場のカルチャーとの不一致ですね。例えば「自社のサービスを売ることで会社は儲かるけど、お客さんはハッピーにならない」などサービスや営業体制がサプライヤーロジックになってしまっていて、「こんなことを続けるぐらいなら転職したい」という声も頻繁に聞きます。
Z世代が大事にすべき会社選びの基準③:成長できる
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寺口:最近「「ゆるい大企業」を去る若手たち。ホワイトすぎて離職?働きやすいのに“不安”な理由」という記事が出て話題になりましたね。ONE CAREER PLUSで掲載される転職理由でも「自分の会社でしか使えないスキルしか身に付いていないんじゃないか」がすごく多いんです。
成長したい、自立したい、自由が欲しい、FIREしたいという声を若い人たちからよく聞きますが、それは要するに「自分で自由にできる選択肢」を持っていないことが大きなリスクだと考えられているんだと思います。だからSNSのアカウントも複数持つし、複数のコミュニティに所属したい人も多い。1つしか所属や拠り所がない状態で、それがダメになってしまう状態への恐怖心はかなりあると思います。
今瀧:それは僕も頻繁に聞きますね。ただこれは会社側からしても仕方ない部分があるのかなと思っていて、辞められても困るので、その会社でしか使えない独自ツールを使うんじゃないかという気もしているんです。
寺口:その気持ちもわかるんですが、むしろそれ自体が退職理由になってしまっているということもあると思います。例えば、転職面接では「セールスフォースはどのぐらい扱えますか?」という質問もあるようです。自社開発ツールの、自社でしか使えないシステムしか使ったことがない、というのは不安の要因のひとつだと思います。
今瀧:むしろ他社でも広く使われているツールの方が、「よそでも通用するスキルだから、この会社でもっと勉強しよう」というモチベーションにつながると思うんですよね。例えばWordを使うんじゃなくてGoogleドキュメントを使った方が複数人で同時に作業もできてミスを減らせるし、資料デザインもPowerPointじゃなくてCanvaを使った方が楽に綺麗なものが作れる。
寺口:ITエンジニアの求人だと「この言語や技術を使える人」という要件が明確になっていますが、業務ツールが時代にあった新しいものに移り変わる中で今後他の領域でもそうした求人募集が増えてくるんじゃないかと思います。
関連して言うと、長年言われてきた「ベンチャーにはいつでも入れるから、若い人はまず大企業に入った方が良い」という話も、最近は一概にそう言えなくなってきたなという部分があります。テクノロジーやツール活用の面ではむしろ若いうちに新しいものに触れておくのは大事だと思います。
今瀧:確かに僕の周りでも「まずは大企業から」という軸で就活していた人が多かったんですが、ベンチャーを経営している自分の立場から言うと、大企業でマネジメント経験のある人は大歓迎なんですが、そうではない場合に「スプレッドシートの使い方なんかを1から教えなきゃいけないのか」みたいなところは引っかかりを覚えてしまうのは事実です。
実際に、僕は学生時代に起業してCanvaを使っていて、その後新卒で就職した時にものすごく重宝されたという経験があります。自分の所属部署で研修を任されることもありました。
寺口:そうした企業の柔軟な姿勢は本当に重要で、「ビジネスに役立つスキル」がものすごく多様化してきているんですよね。会社のシニア層も僕みたいな真ん中の世代も知っておくべきことは「新卒社員が自分たちよりも優れたスキルを当たり前に持っている可能性がある」ということで、若手が持っているそうしたスキルを謙虚に学ぶ、年齢に関係なくお互いにリスペクトしあえる環境を作れるかが企業の成長にもつながると思います。
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Z世代が大事にすべき会社選びの基準④:選べる
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今瀧健登さん
寺口:この5要素は非常に重要ですね。今は8、9割が入社前に希望する配属先を保証してほしいという調査(※)もありますし、給与に関してもみんな一律だと必要以上に頑張っても仕方ないと思ってしまうので、「自分はこれだけ成果を上げたので、このぐらいの給料を下さい」という交渉できる余地がほしい。
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※2021年6月、大学生サークル専用アプリ「サークルアップ」による調査
ONE CAREERで2024年卒の学生に入社先に求めるものをアンケートで聞いてみたところ、2021年10月時点で1位は「自分のなりたい職種である」、2位は「企業内の雰囲気がいい」でした。ジョブやカルチャーの情報がオープンになっていない企業はなかなか選んでもらえない可能性があります。

ワンキャリア「データで見る24卒就活生の「今」──加速する「職種志向」と「日系志望」、コロナ禍の影響も?」 より
今瀧:ジョブ(職種)を重視する傾向は間違いなくあると思いますが、希望通りの配属が叶ったにも関わらず「やっぱり違ったな」というミスマッチも未だに多いので難しいですよね。
寺口:そうですね。ただ企業側が一方的に評価するスタイルを押し通しすぎると入社希望者が減ってしまうということは確実に起こるので、入社後面談の中でもキャリアカウンセリングのようなコミュニケーションをするところは増えてきているかと思います。
企業における「採用の競合」は他社に加えて他の「働き方」にも広がっている傾向を感じます。フリーランスになる、友達と起業するという選択肢も普通にある中で、それらと比べても「この会社に就職する価値があるんだ」と思ってもらう必要がある、という意識を持っていない企業の採用はどんどん難しくなってきています。この傾向はコロナ禍を経てさらに強まっていますね。
今瀧:コロナ後の働き方で言うと「どの会社のどの業種はテレワークができるのか」といったことが一目瞭然になっちゃいましたよね。
寺口:それもありますし、例えばメルカリやサイバーエージェントは、あれほどの規模の企業になっても、社内のカルチャーや働いている人の様子をものすごくオープンにしますよね。社員のSNS発信も禁止されていない。SNSだけではなく社内のDXがどれだけ進んでいるか、テレワークできているかどうかなども含めて「あの企業はできているのに、何でウチの会社はダメなんだ?」と簡単に比較できるようになってきている。
今瀧:5つの要素の中に「場所」を挙げているんですが、これが一番影響力が大きいんじゃないかと思っているんです。
例えば東京在住で月給が30万円・家賃が10万円の人がいたとして、これは地方在住で月給25万円・家賃5万円の人と「残るお金」は同じなんですよね。単純化しすぎている例ではありますが、突き詰めていくと「どこでどんな働き方を選択するのが自分にとってベストなんだろう」という選択肢がものすごく増えるんです。
何が重要かというと、全国どこでもテレワークが可能になった際、家賃=固定支出が減らせるとなると、稼ぐお金の総量を減らしてもやっていける余地が出てくる、つまり場合によっては勤務時間を減らせる可能性が出てくるということです。お金で時間を買っているのに残る金額が変わらないというのは、ちょっと革命的ではないでしょうか。
僕の会社の社員はどんどん地方に移住していて、僕も鎌倉に移住しようかななんて考えてます。
寺口:そうなんですね。働き方は場所や時間も含めて企業が定めていた画一的なものから、働く人たちと対話しながら柔軟にシフトしていく必要がありそうです。
Z世代が大事にすべき会社選びの基準⑤:時代に合っている
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今瀧:さっきも話が出ましたが、これからも個人・企業問わずますます多くの人がネットやSNSを活用する中で、「この会社はこんなに良い取り組みをしている」「この会社の内部は結構酷そうだ」ということは隠そうとしてもどんどんオープンになってしまいます。
だからこそ「自分たちの会社が時代に合った変化ができているか」はより比較されていくようになっていくんだと思います。SNS運用に関しても、情報を発信する、ユーザーや世間からの反応を確認する、どちらにおいても「組織内で誰一人勘所がわかっていません」という状態はもったいなさすぎます。
そしてSNSだけでなく、世の中には安価または無料で使えるITツールがどんどん増えているにも関わらず、利用を禁止している企業もまだまだ多いです。端的に言ってこれは自分で手足を縛り付けているようなものだと思います。
寺口:テクノロジーのリテラシーは若い人の方がキャッチアップしやすいという傾向は以前からありますよね。デジタルネイティブだし、コミュニケーションに関しても、今の世の中のスタンダードと同水準のレベルでやっている。その感覚をビジネスに活かせないというのは損失だと思いますし、会社に対して最初に疑問や不安を覚えてしまうきっかけにすらなりかねません。
―― こういった話をうかがう際によく疑問が浮かぶのですが、「若いながらも十分なスキルがある層」にとってはここまでのお話は完全にそうだと思う一方、自分もそうだったんですが基本的には「一人前と言えない状態の子」の方が多いと思うんですね。
寺口:確かに2〜3割ぐらいでしょうね。
―― 「できない子」に対しては、一見時間のムダにしか見えないような「研修で板書されたことをスマホで撮影するのではなくノートに手書きしてもらう」みたいな保守的な方法論や、「まずは3年頑張ってみろ」みたいなアドバイスが効いたりもする現状がある気がしているんです。
寺口:おっしゃることもわかるんですが、今の社会において「ビジネスにおいてどんなスキルが必要か」の中身がより多様化していると思うんです。少なくとも物差しが1つでしかないということは絶対にないです。
たとえ「できないこと」の方が多かったとしても、何か得意な、芽が出そうな領域があるはずで、そこを上手く見つけてあげて伸ばせるようにしていけるやり方が良いというか。何でもかんでも「オレたちもこの修羅場をくぐり抜けてきたんだから」と追い込んでしまうのではなく、避けても良い修羅場はスルーしていいんじゃないでしょうか。今の時代ならではの修羅場もどこかでやってくるはずなので。
今瀧:会社に限らず組織というのは個々人の強みを伸ばして弱点を補うために存在すると思っています。評価軸が1つあるいは少数しかないと、そこに合わなかった人は辞めざるを得なくなってしまいますよね。少なくとも「若手社員の離職を抑えたい」と思っているのであれば、何らかの制度的、社風的な配慮が必要になってくる時代なんだと思います。
寺口:そうした「社内での配慮」に加えて、個人も企業もそうですが、自身をオンラインに接続して情報を受発信していくということはもう避けられないんだと思います。オフラインにしたままだと客観的な評価もわからないし、それ自体がリスクです。
加えて従業員がこれまで飲んできた本音に、ちゃんと向き合うということなんじゃないかと思います。「顧客の声を聞け」とはよく言われますけど、従業員も同様にステークホルダーである。その認識が変わらないと、引き続き社員が離れていってしまうのではと思います。
―― これまでは、若い子を惹きつけるためには、ある種の“キラキラ感”というか、「若いうちからこんな重要な仕事を任されています!」「カッコいいオフィスで働けます!」みたいな要素が必要だと思われてきたフシがある気がするんですが、そうではなくてもっと地に足ついたリアルな話をして欲しいと感じているのではという気がしました。
寺口:本当にその通りです。皆リアルを求めているのに。
今瀧:キラキラしている話よりも、「めちゃくちゃ残業して終電で上司と二人でラーメンを食べた時の思い出が印象深かった」というような話が聞きたいですよね。