Z世代が大事にすべき会社選びの基準②:知ることができる
寺口浩大さん
寺口:これはもう端的に言って「企業の美辞麗句は一切信じていない。働くことに関するリアルな情報が欲しい」ということだと思います。採用説明会で「弊社はアットホームです、フラットです」といった抽象的な形容詞を使っているだけだと何も言っていないとの同じで。今はオンライン開催も多いので途中で離脱されてしまうことが増えています。
良いか悪いかは自分で考えて決める、だから企業は情報を隠さずに出してほしい。そうしたリアリティのある企業説明会は参加者の満足度も高いですし、オープンな採用をしている企業は実際に支持も厚いです。
今瀧:会社選びは今まで、例えるなら結婚に近いような「10年以上のスパンで向き合っていく相手」を探すイメージだと思われてきましたが、今は友達選びに近くなってきたのではと感じます。友達から「自分はこれができる、あれができる」と自慢ばかりされてもイヤですよね。「実はここが苦手で…」というような弱みも出してくれた方が、友達になりたい、一緒に働きたいと思えるんじゃないでしょうか。
寺口:「職場のリアルは先輩のSNSで知っているので、虚像NG」というのも本当にそうで、いくら取り繕ったところで、「激務すぎて辞めたい」あるいは「ヒマで仕方ない」といったInstagramのストーリーが毎日のように流れているので、若者はリアルをちゃんと知っています。
「応援される企業、事業にはストーリーがある」といったこともよく言われますが、情報をただポンと発表しただけでは文脈も生じず応援もされません。そのためには上手くいかなかった経験も含めて情報を発信していくことが求められますし、その情報をオープンにする勇気が持てないと応援されないということです。
そして学生起業もそうですが、退職・転職も本当に気軽なものになってきていますよね。僕は入社5年目で転職しましたが、当時はまだ「え、辞めるの!?」という反応を多くもらいました。でも今はSNSなどでかなり頻繁に退職報告が上がってきますよね。
今瀧:結構ありますよね。
寺口:退職理由もネガティブなものばかりではなくなってきて、最終出社日に同僚と一緒に写真を撮って「今までお世話になりました!」とSNSにアップする風景も珍しくありません。もちろん今でもネガティブな理由で辞める人はいますが、「そうじゃない退職もあるんだ」というイメージがかなり広がっています。
僕らは去年、ONE CAREER PLUSという、どこに勤めて何年目で、何をしている人がどんな理由でどこに転職したのかがわかる、「キャリアの地図」のようなサービスのβ版を始めたのですが、現段階で2万件のクチコミデータが溜まっています。
SNSでバズる退職報告とかは、スキルのある人がキャリアアップを目指すにしろ、何かゴタゴタがあったにしろ、極端な内容が多いですよね。匿名の掲示板などを見ても恨みつらみが多いし、辞めた人がどこに転職したのか全くわからない。もう少し多くの人にとってリアリティを感じられる転職理由の本音やキャリアパスのデータを溜めていくことが、ポジティブな転職を増やすことにつながるんじゃないかと考えています。
ところで健登さんの周りの人で転職・退職しようかなと思っている人たちは、どんな動機の人が多いんですか?
今瀧:多種多様ではありますが、よく耳にする動機のひとつはキャリアアップですね。今働いている会社で5年後も働いているつもりはない、だったらいつ辞めようかと悩んで相談をもらうことが多いです。
働き方改革で残業が減り、ハラスメントを黙認しない組織づくりも進んでいる。コロナ禍もあって飲み会も減った。そうして企業社会が少しずつ良くなっている中で、自分の働き方や人生に深く向き合い、どうしようかと悩んでいる人が多い印象です。
寺口:なるほど。加えて僕が耳にする動機は会社や職場のカルチャーとの不一致ですね。例えば「自社のサービスを売ることで会社は儲かるけど、お客さんはハッピーにならない」などサービスや営業体制がサプライヤーロジックになってしまっていて、「こんなことを続けるぐらいなら転職したい」という声も頻繁に聞きます。
Z世代が大事にすべき会社選びの基準③:成長できる
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寺口:最近「「ゆるい大企業」を去る若手たち。ホワイトすぎて離職?働きやすいのに“不安”な理由」という記事が出て話題になりましたね。ONE CAREER PLUSで掲載される転職理由でも「自分の会社でしか使えないスキルしか身に付いていないんじゃないか」がすごく多いんです。
成長したい、自立したい、自由が欲しい、FIREしたいという声を若い人たちからよく聞きますが、それは要するに「自分で自由にできる選択肢」を持っていないことが大きなリスクだと考えられているんだと思います。だからSNSのアカウントも複数持つし、複数のコミュニティに所属したい人も多い。1つしか所属や拠り所がない状態で、それがダメになってしまう状態への恐怖心はかなりあると思います。
今瀧:それは僕も頻繁に聞きますね。ただこれは会社側からしても仕方ない部分があるのかなと思っていて、辞められても困るので、その会社でしか使えない独自ツールを使うんじゃないかという気もしているんです。
寺口:その気持ちもわかるんですが、むしろそれ自体が退職理由になってしまっているということもあると思います。例えば、転職面接では「セールスフォースはどのぐらい扱えますか?」という質問もあるようです。自社開発ツールの、自社でしか使えないシステムしか使ったことがない、というのは不安の要因のひとつだと思います。
今瀧:むしろ他社でも広く使われているツールの方が、「よそでも通用するスキルだから、この会社でもっと勉強しよう」というモチベーションにつながると思うんですよね。例えばWordを使うんじゃなくてGoogleドキュメントを使った方が複数人で同時に作業もできてミスを減らせるし、資料デザインもPowerPointじゃなくてCanvaを使った方が楽に綺麗なものが作れる。
寺口:ITエンジニアの求人だと「この言語や技術を使える人」という要件が明確になっていますが、業務ツールが時代にあった新しいものに移り変わる中で今後他の領域でもそうした求人募集が増えてくるんじゃないかと思います。
関連して言うと、長年言われてきた「ベンチャーにはいつでも入れるから、若い人はまず大企業に入った方が良い」という話も、最近は一概にそう言えなくなってきたなという部分があります。テクノロジーやツール活用の面ではむしろ若いうちに新しいものに触れておくのは大事だと思います。
今瀧:確かに僕の周りでも「まずは大企業から」という軸で就活していた人が多かったんですが、ベンチャーを経営している自分の立場から言うと、大企業でマネジメント経験のある人は大歓迎なんですが、そうではない場合に「スプレッドシートの使い方なんかを1から教えなきゃいけないのか」みたいなところは引っかかりを覚えてしまうのは事実です。
実際に、僕は学生時代に起業してCanvaを使っていて、その後新卒で就職した時にものすごく重宝されたという経験があります。自分の所属部署で研修を任されることもありました。
寺口:そうした企業の柔軟な姿勢は本当に重要で、「ビジネスに役立つスキル」がものすごく多様化してきているんですよね。会社のシニア層も僕みたいな真ん中の世代も知っておくべきことは「新卒社員が自分たちよりも優れたスキルを当たり前に持っている可能性がある」ということで、若手が持っているそうしたスキルを謙虚に学ぶ、年齢に関係なくお互いにリスペクトしあえる環境を作れるかが企業の成長にもつながると思います。
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