EVENT | 2022/05/26

覚えてる?パソコン黎明期のプリンターバッファーから1MBの増設メモリまで。日本の「パソコン業界」を支えてきた企業バッファローに潜入【前編】

取材・文・構成・写真:赤井大祐(FINDERS編集部)
国内のネットワーク関連機器業界において圧倒的なシェアを誇る株式...

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謎の施設「電波暗室」へ

最後に案内いただいたのは、本社ビル内のとある一室。中には作業スペースの他、所狭しと大型の機器が並ぶ。主に製品の開発段階でさまざまなテストを行う部屋だ。なんと言ってもここの目玉は「電波暗室」と呼ばれる特殊な施設。この部屋で日夜格闘するバッファローのネットワーク開発部 ODM第一開発課長の成瀬廣高さんに話をきいた。

ネットワーク開発部 ODM第一開発課長 成瀬廣高氏

―― まさかオフィスビルの中にこんなスペースがあるとは部屋に入るまで想像できませんでした。この「電波暗室」はどういった施設なのでしょう?

オフィスビルのフロア内に設置された電波暗室。分厚い扉によって厳重に管理されている。

成瀬:簡単に言えば、機器から放射される電磁波のテストを行う部屋です。部屋の中に2機のアンテナが立っていまして、大きい方が1GHz以下の低い周波数、小さい方が1GHzから8GHzぐらいまでの高い周波数を測ります。それが部屋の外のスペクトラム・アナライザーという機器につながっていまして、テストを行う機器からノイズがいろんな方向に出ていないか、ということを測定することができます。

―― つまり、機器からちゃんと電波が飛んでいるかを測っているということですか……?

成瀬:ポイントは通信に使用する希望波(無線機が受信しようとしている電波)だけでなく、希望波以外も「電波を規格の内に収める」ということです。電波には周波数帯があるのをご存知でしょうか?

―― Wi-Fiでいうところの2.4GHzとか5GHzとかですよね。

成瀬:そうです。その2.4GHzと5GHzの中に、ルーターから飛ばす電波の周波数帯が収まっていなければならないという法律があります。ですが、高速で通信をしているとどうしても別の周波数に過剰な電波が出てしまうことがあります。

―― ちょっとぐらいなら問題ない、というわけにもいかないのですね。

成瀬:例えば高速道路で使用するETC。あれは5GHzのちょっと上の周波数帯を使っていますが、Wi-Fiルーターから出る周波数帯がそこに重なってしまうと、ETCがうまく通信できなくなるといった可能性があります。東京でいえば、首都高がオフィスビルの合間を縫って走っているので、干渉の可能性は十分にあります。他にも、スマホで使う4G回線は0.8~3.5GHz帯でしたり、テレビの地デジは470~710MHzでしたりと、ほとんどの周波数が何らかの目的で使用されています。

ちなみにここ数年話題の5G回線が使っている周波数帯はSub6(6GHz以下)と28GHzです。28GHzは周波数帯域幅が相対的に広いので、5Gは高速で通信が可能です。ただし電波は周波数が高くなるほど、その分障害物に対して弱くなってしまう性質を併せ持つため、28GHzだと窓ガラスを一枚通しただけでも減衰し易いという問題点もあります。もちろんちゃんと28GHzで通信できていれば速いのですが、28GHzでうまく通信できないときはSub6で繋がるようになっているので、速度低下が起きることもあります。こういった場合に、建物の中ではWi-Fiに切り替えることで高速通信を維持することができるわけです。

――なるほど。5Gはどこでも高速通信ができるわけではなく、あくまでWi-Fiとの併用が現実的な運用という感じですね。

成瀬:話を戻しましょう。なので、いかにしてルーターからの電波をきれいに整えるか、という作業が必要になります。例えば電波の出力を下げてしまえば、簡単に規格に収めることができますが、当然電波は弱くなり、通信距離も短くなってしまいます。できるだけ通信に使用する希望信号出力を高く保ちつつ、高品質な電波にしなければなりません。もちろんコストの高い部品を採用すると安定させることもできますが、製品価格も上がってしまうので、価格と品質のせめぎ合いが一番難しいところです。

―― 施設はとても大掛かりですが、とても地道な作業に使われているのですね。

成瀬:はい。ちなみにこの部屋に敷き詰められている青いスポンジみたいなものですが、電波吸収体といいます。これのおかげで電波が反射せず正確に計測することができるのですが、見かけによらず非常に高価なものでして……。

大型の10m四方の暗室の場合ですと、建物、測定器等の設備、電波吸収体を含め、数億円になるそうです。おそらく弊社のような規模のメーカーで、このような施設を持っている会社は少ないのではないかと思います。

―― ちょっとした吸音材のようなものかと思っていたら、そんな高価だとは。

成瀬:はい。他にも信号生成する機器も定価で数千万円しますし、信号解析をする機器や、こちらの機器も……といった具合です。

20年前の通信速度は数Mbpsでしたが、今や1Gbps以上まで発展しています。このように技術が進歩すると、同時に使っていた測定器も陳腐化していきます。昔よりも技術・規格の向上は早くなっていますし、そのたびに設備投資が必要になります。

コストはかかってしまいますが、できる限りの設備を用いてさまざまな試験を積み重ねることで、お客様の満足や信頼を得られるような製品をお届けできるよう日々取り組んでいます。


後編はこちら↓

今や無線LANで1Gbpsは普通?自宅のWi-Fiルーターのベストな置き方をWi-Fiのプロに聞いてみた。日本の「パソコン業界」を支えてきた企業バッファローに潜入(後編)

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