聞き手・文・構成:赤井大祐(FINDERS編集部)
夏季・冬季が連続で続いた狂乱のオリンピックシーズンも終わりを告げ、同時に改めてスポーツというコンテンツの力を強く感じた。
一方で新型コロナウイルスが猛威を振るった結果、この間多くのプロスポーツリーグが無観客での試合を行わなければならず、当然チケットや周辺施設の売上は激減。関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によると、2020年1〜6月の間で国内プロスポーツ業界が受けた経済的損失は約1272億円に。さらに関連業界を含めると2747億円にも上ったという。
そんなプロスポーツ業界だが、平時であれば万事問題ないかと言えばそうでもない、と話すのがプラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社にて代表取締役を務める平地大樹氏だ。もともとファーストキャリアとして日米でバスケットボール選手としての経験を持つ平地氏。一時期は、日本人で初めてNBAの試合に出場した日本バスケ界のレジェンド田臥勇太と並び「平地か、田臥か」と評されるほどだったという。
特に平地氏の言葉から強く感じたのが、スポーツとビジネスの距離感。つまり「稼ぐことが重視されていない」という話だった。業界を発展させていくために、時にはドライにビジネスを遂行していく重要性や、クラブチームなどに属していないマーケターだからこその視点から話を伺った。
平地大樹
プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社代表取締役ファウンダー
元バスケ選手。渡米しプロを目指すも挫折。人材、WEB業界を経て2011年にWEB会社プラスクラス、2016年にスポーツマーケティング会社プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社を創業。ミッションは『日本のスポーツ全会場を満員にする』
スポーツビジネスでもっと儲けていい
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―― まずは平地さんが現在経営されている、プラスクラスとプラスクラス・スポーツ・インキュベーションの2社について教えてください。
平地:プラスクラスはウェブコンサルティングの提供を行う会社で、2011年、僕が31歳のときに起業しました。実はこのプラスクラスという会社自体が、もともとはプラスクラス・スポーツ・インキュベーション(PSI)という、スポーツのクラブチームやスポンサー企業などに向けたマーケティングとクリエイティブを提供する会社の設立に向けたものでした。
PSIを作るまでの4年間はスポーツに関する仕事は一切やらないと決め、ある程度の基盤と体制ができた4年目に、まずは社内のいち事業という形で立ち上げました。その後1年間運用し、手応を感じたので別会社として立ち上げたという流れです。
当社で行うマーケティングは主に「ファンマーケティング」と「スポンサーマーケティング」の2種類があります。ファンマーケティングは、チケットやグッズの販売に向けたウェブサイト・SNS施策の企画から制作といったもの。そしてスポンサーマーケティングはクラブチームにスポンサーしてくれた企業さんに対して、クラブというコンテンツを最大利用して、スポンサーの価値を返すための支援をおこなっています。
プラスクラス・スポーツ・インキュベーションが展開する事業の全体像
ーー ありがとうございます。まさにスポーツ業界をビジネス的な側面から支援していらっしゃるとのことですが、スポーツというと、熱く、人の心に響きやすいコンテンツだからこそ、どこか「ビジネス的であるべきではない」といった風潮も感じます。
平地:それはあるかもしれないですね。日本のスポーツって、それこそ企業の実業団と言われるところからスタートしているので、ある種、教育や部活と地続きなんですよね。最初にスポーツと触れ合うタイミングも、多くの人が体育の授業じゃないですか。
そういった影響もあって日本だとスポーツで「稼ぐ」とか、そこで一財掴むといった姿勢は敬遠されていると思います。例えば普通に発注したら300万ぐらいかかる仕事なのに、スポーツのためなら50万円でやりますよ、みたいなことがとても多くて、これは一つの悪循環を生む要素にもなっています。特に欧米ではスポーツビジネスって儲かるもので、“ドリームジョブ”なんて言い方もされていますが、それぐらいもっと稼いでいいんだよ、もっと儲けていいんだよっていうところを、僕らとしては伝えていきたいんです。
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