実は中小企業並?クラブチームが抱える人材難
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―― スポンサー企業がクラブチームとの関係を有効に利用する姿勢が足りていないという一方で、クラブチームからの働きかけも少ないとのことでした。クラブチーム側の課題としてはどのようなことが考えられるのでしょう。
平地:一番の原因は人材不足だと思います。クラブチームはもともとプレイヤーやコーチとして関わっていた方がそのまま運営を担っているケースも少なくありません。もちろんその中にはとても優秀な方もたくさんいますが、もともと「ビジネスのプロ」を呼び寄せて運営しているわけではない。
クラブの運営はやらなければならないことがとても多いので、常にマルチタスクをこなしながら自分で考えて動けるような人がどうしても必要になります。僕の感覚で言えば、一般の企業なら最低でも年収600から700万円で雇うようなレベルの人材です。でもほとんどのクラブはうまくビジネスとして回せておらず、適切な給与が払えていないので、結果適切な人材が集まっていません。
あとはスポーツのクラブチームって地方にあることが多いので、どうしても働き手が集まりづらいんですよね。これはスポーツ業界に限った話ではありませんが、全国的に働き手も減っており、どうしても有名で安定した大企業に人が集まっていくのでそういった部分でも人材難に拍車をかけています。
―― それでも誰もが知るクラブチームで働きたいという人は多いのでは?
平地:そこが実はかなりギャップがあって、一般的にクラブチームって一部上場企業ぐらいのブランド感があると思うんですよ。どこかで名前ぐらいは聞いたことがあるし、華々しいイメージもある。プロ野球に関してはある程度の規模がありますが、それでも次に大きいと言われるJリーグでも実際に数字でみると、売上額は20億とか、多くても60億くらい。零細とは言わないけど中小〜中堅企業レベルですよね。
公益社団法人日本プロサッカーリーグ「2020年度クラブ経営情報開示資料(先行発表) 」より。2019年度は世界的スター選手アンドレイ・イニエスタ擁するヴィッセル神戸のみ、Jリーグ史上初となる売上高100億円を上回ったが、J1クラブでも半数は概ね70億円に届かない程度で、もう半数は10億〜30億円程度だ。
ただおっしゃるように、世の中全般で見るとスポーツに携わりたい、地元のクラブに協力したいという人はたくさんいます。アナザーワークスという企業が提供する「複業クラウド」というサービスがありますが、PSIとアナザーワークスとでパートナーシップを結び、我々が複業人材をクラブへどんどん紹介してつないでいく、という取り組みを行っています。クラブ側としても週5日分の給料は払えなくても2日分なら、というケースも多かったりするのでここは力を入れて推進しています。
―― 複(副)業解禁が進んできたことによる好事例となりそうですね。
平地:あとはPSIの人間をクラブ側に送り込むという取り組みも始めています。今はまだ50人ぐらいの会社なので、あちこちに送り込むことはできないのですが、今後会社として成長していけば、うちで育てた人をクラブ側にどんどん送り込んでいく、ということも考えています。
もう一つが行政を利用した取り組みです。地域起こし協力隊という制度は有名ですが、あれって月に20万くらいしか給料をお渡しできないんですよ。そうすると地元に貢献したい、というモチベーションが本当に強い人じゃないとなかなか利用してもらえなかったりします。
僕らがサポートしているのは「地域活性化起業人」という制度の利用です。これは都市圏の民間企業で働く十分な技術やスキルをもった人材を地方の公共団体に送り込み、その間の給与は行政が負担するという制度です。これであれば月額48万円ぐらい(※)は支払うことができます。そうやってクラブは都市圏のスキルを持った人たちを自己負担なく雇いながら組織内に知見を貯めていくことができるんです。
※編註:一人あたりに対する受け入れ費用は年間560万円が上限
―― 非当事者としてあらゆる形でサポートを行い、いろいろな団体との橋渡し役を行っているんですね。
平地:それで言えば、PSIで提供する「パートナーズシップ」というサービスはその肝となるようなものですね。簡単に説明すると、クラブのスポンサー企業同士をマッチングするサービスで、クラブを地元経済のハブとしてそれを取り巻く企業の連帯を促すためのものです。
コミュニティ内には企業間のコミュニケーションを図るクローズドのプラットフォームが用意されていて、例えば自動車の整備工場だったら、同じスポンサー企業の法人車両の車検を10%引きでやりますよみたいな優待を用意してもらうことで、スポンサー企業間でのビジネスを促進していくとか。反対に「来月会社の周年パーティーがあるのでケータリングを用意していただける企業さんはいますか?」といったリクエストを出すことで、それに対応した企業が名乗り出ることもできたりもします。
これまでだったら昔から付き合いのある企業を除けば、検索して出てくるような知らない企業に依頼していたとろころを、同じクラブのスポンサーという「同志」としてビジネスを行えるという価値が生まれ、同時に新たなスポンサーとなるメリットにも繋がっていきます。
―― なるほど。これは現状の「応援」をベースとしたスポンサーの在り方やスポーツならではの一体感をうまく利用していますね。
平地:今すぐに企業のマインドを変えることはできないけれど、クラブチームをハブとした経済圏を中で築きつつ、同時に外に向けても投資先としての価値を上げていければと考えています。業界として好調とは言い難い状況ですが、一方で打つ手はまだまだあるんです。でもこういった制度やアイデアを発信する人も少ない状況なので、業界の中にもなかなか広がっていかない。
僕らはクラブを運営しているわけではない、いわゆる“間接企業”なので、こういった事例をどんどん作り、サービスやソリューションを発信していくことで僕らが関係していないところでもどんどん参考にしてもらい、業界全体に広がっていけば嬉しいです。