ゲーム業界のエコシステムはエンタメ産業にも大きなヒントになる
誤解のないよう説明すると、筆者はゲーム業界のサービスがすべてサブスクリプションになれば良いと思うわけではない。むしろサブスクリプションは豊富な選択肢の中の一つだからこそ、企業、ユーザー両方にとって有効に機能する。
例えば、同じビデオゲームのハードウェアと言っても、初期投資がほぼ不要なスマートフォンから、数十万円かかるゲーミングPCまで存在する。ソフトウェアにも、1万円近い買い切り型のゲームから、永久的に無料でプレイできるゲームも存在する。このように、もともとゲーム産業はエコシステムの幅が広く、それゆえにユーザーの熱意や経済力に応じて柔軟にサービスを展開することができた。
サブスクリプションはこの無料か、数十万円かという大きな「幅」を埋め合わせるための調整弁のような役割が期待されると筆者は考える。月々1万円を支払うのは無理でも、1000円程度なら払えるユーザーは世界中に多くいる。一方、特に任天堂や各VRプラットフォームなどハードの特性を活かした体験には、手軽さ以上に必要性を見出すユーザーもいるだろう。
その点で、他のエンタメ産業が注目するべきは、サブスクそのものではなく、サブスクを選択肢の一つに広がるゲーム産業のエコシステムの多様性全体にあるかもしれない(もちろん、音楽産業であればライブやその配信、映画産業であればIMAXの劇場体験など、サブスクが支配的な産業においても多様なエコシステムの構築が続いている)。
他にも、「オンラインゲームへのアクセス権利」や「運営型ゲームと連動した報酬の配布」また「クラウドによる機能の多様化」などは、サブスクリプションがただコンテンツを展開するだけでなく、それらのコンテンツをより快適に楽しむための、補助的な役割をこなしている。多くのエンタメ産業では「サブスク=コンテンツの種類の多さ」と認識されがちだが、(リッチさを満たしつつ)そこ以外でどうユーザーが快適にエンタメを楽しめる助けができるかも重要な点だと言えるだろう。
そして何よりも大切なことは、ゲームはとにかく面白く、そして美しいことだ。だからこそお金を払いたいと思えるのである。