CULTURE | 2022/02/11

K-POPアイドルデビューを目指し、オーディション番組『ガルプラ』に挑戦。少女たちはなぜ韓国を目指すのか【連載】Z世代の挑戦者たち(6)

写真左から、山内若杏名さん、久保玲奈さん、藤本彩花さん、比屋定和さん、桑原彩菜さん
2021年に放送された韓国の女性ア...

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今の20代以下は幼少期から特訓を積んだ「ダンスエリート」が急増中

写真上段左が山内若杏名さん、上段右が久保玲奈さん、下段左が比屋定和さん、下段中央が藤本彩花さん、下段右が桑原彩菜さん

―― ARATAさんにお聞きしたいんですが、最初にEn Dance Studioの方とこの記事の打ち合わせをしていた際「今ちょうど二十歳ぐらいの子は、小学1年生の時にダンスの必修化があって始めた、キッズダンスブーム第1世代なんです」という話がありました。上の世代と今の世代では明確な違いがあるのでしょうか? 

ARATA:違いはすごくあると思います。今の30代ぐらいは日本にストリートダンスの文化が入ってきた頃の、オリジネーター世代の息子さん・娘さんであるパターンがちらほらあるんですが、大抵は高校の部活や大学のサークルなどで始めた人ばかりです。今28歳の僕なんかもダンスと言えばまずソーラン節だったんですよ。

―― ソーラン節は、1999年に『金八先生』の文化祭のシーンでパフォーマンスが流れて評価が上がり、全国各地の学校で踊られるようになった、という流れがありましたね。

ARATA:はい。あと当時は『ハイスクール・ミュージカル』というテレビ映画(2006年にディズニー・チャンネル・オリジナル・ムービーとして放送)が流行っていて、そうしたものを観て感化された一部の人がやっていたという状況でした。

比屋定:私とか(久保)玲奈ちゃんとかは日本のキッズダンスシーンで結構やっていたので、当時はそれこそ彼女が『DANCE STYLE KIDS(現在は後継メディアの『ダンスク』として運営)』という雑誌のモデルをやってましたね。

比屋定和さん

ARATA:そうだったんですか!あとは彼女たちよりも少し上の世代、今20代で活躍しているダンスグループのGANMIなどの層もいるし、だんだんダンスを始める年齢が若くなっていったんです。

彼女たちのエピソードにあった「2歳から踊り狂っていたから、幼少期から親御さんがダンススクールに通わせた」というのが当たり前の環境になってきていて。僕らの時代はそもそもダンススクールがそもそもそんなになかったし、情報もSNSやYouTube以前だったので口コミベースでした。

僕の場合は野球少年で高校生からダンスをちょっとやって、大学でサークルに入って本格的にダンサーになりたいと思ったという流れだったので、その時代からするとかなり変わってきた印象があります。

―― 今までであれば「日本の音楽界、芸能界でデビューする」という道筋が大半だったのが、K-POPアイドルとしてデビューする道筋もかなり開かれ実例も増えてきました。とはいえ、なぜ文化の違いや言葉の壁もある海外でのデビューを目指すのでしょうか?

久保:今はK-POPが日本でも流行っていて、みんなビジュアルも良くて歌も上手、ダンスもレベルが高い。衣装もかわいいし、曲もポップみたいな。そうした理由で憧れる人が多いんじゃないかなと思います。 

日本のアイドルは「フリフリのワンピースを着る」というようなイメージが一般的に強いと思う一方、K-POPのアイドルはスカートではなくパンツを穿いて、髪の色も金髪もいればピンクもいるし、青もいるしでみんな違います。そうしたカッコいい女の子に憧れる女性が多くなったのかなと。

久保玲奈さん

山内:日本と韓国のアイドルで、アイドルという同じ言葉でも捉えるイメージが違うというところはあるのかなと思いました。

久保:私は幼少期から母の影響で洋楽に興味があって、日本だけじゃなくて海外でも活動してみたいという夢があったんですが、それは簡単なことではないですよね。でも、最近は日本人が韓国に進出して、そこからさらに別の国でも活躍されている方がいて、「日本人でも今は世界進出ができる時代なんだ!」と分かって挑戦したくなったという感じです。

山内:私は海外の高校に通っていたんですけど、ヨーロッパ系や東南アジア系など、いろんな人種の方々がいました。その中でも、やっぱりK-POPがすごく学校でも人気で、「BTSの新曲、すごかったよね」とか、「BLACKPINKの誰々がかわいい」と言い合ってみんなスマホの待ち受けにしていたりしていて。 

いとこが今アメリカにいるんですけど、車で聴くラジオでもしょっちゅうBTSがかかっていると言っています。日本からすると隣の韓国から世界に発信している姿を見ると、「K-POPって世界に行ける道なんだな」と思って、そこを目指す人もどんどん増えているのかなと思います。

ハイレベルなクリエイティビティが問われ、韓国語スキルも求められる「ガルプラ」の舞台裏

―― 日本と韓国で、デビューするまでの過程は結構違うのでしょうか?

藤本:日本はアイドルのオーディションを受けて、合格すればそこまで間を置かずデビューというかたちが多いと思います。一方で韓国は小学生ぐらいの頃から事務所に入って、練習生期間を終えてからごく少数の選ばれし者が最終的にデビューできる。そもそもデビューが難しいというか簡単にできることではないというのが違いかなと思います。

藤本彩花さん

―― 練習生期間は、給料などは出るんですか。

比屋定:出ないですが、住宅と食事が用意されて、あと多少のお小遣いはもらえますね。

山内:最近は、日本でも韓国風のオーディション番組が増えてきているので、似てきている部分もあるかなとも感じます。

―― 皆さんがガルプラで候補者として体験したことは、日本のアイドルオーディションと結構違うものだったんでしょうか。

山内:日本、中国、韓国からそれぞれ33人ずつ選ばれて99人が集まってのスタートだったので、そこは今までのオーディション番組と比べても新しいなと感じましたね。

山内若杏名さん

比屋定:今までだと番組を主催する国とは別の国から参加している人がせいぜい数人ぐらいだったのが多かったのに、ここまで多く集めてやるというのが新鮮でした。 

―― デビュー組を決めるために人数が絞られる、各ミッション(課題)で組むチームは基本的に日中韓合同編成だったわけですけど、まずもって「通訳はどうしているのか」は気になりました。

山内:ごく基本的な説明などは通訳スタッフの方がしてくれますし、本番のパフォーマンスをスタジオで収録している時は、皆イヤモニから常に同時通訳を流してもらっていました。ただ練習中のチーム内の会話は、自分たちなりに韓国語や英語でやってみて、どうしても解決できなかった時はヘルプをお願いする感じでした。

―― メイン言語は韓国の番組なこともあって韓国語でしたが、皆さんはどのぐらい話せるんですか?

比屋定:私は知ってる単語をつなげて会話していました。

桑原:日常会話は全部韓国語なので、リスニング力はどんどんついてくるんですけど、話す方は難易度が上がるので、単語も覚えつつ英語とジェスチャーも交えて頑張って伝える、ということが多かったですね。

桑原彩菜さん

―― ミッションでさまざまな課題が出ていましたが、あれを作り上げる期間ってどのぐらいだったんですか?

桑原:毎回違いましたが、だいたい1週間から2週間ぐらいでした。 

―― 課題曲と言っても、単に決められた振り付けをこなして歌うだけではなく、振り付け自体や衣装・ステージコンセプトも考え、ラップ曲であればリリックを書き、楽曲の編曲を考える子もいました。ダンスや歌が上手いのは当たり前で、プラスアルファで日本のオーディション番組では観たことがないレベルのクリエイティビティが問われていると感じました。

山内:私はダンスの振り付けをつくる機会があったんですけど、今までのオーディション番組と比べてもあまりないような、コンテンポラリー風の曲調だったので、チーム内でもすごく苦戦しました。でもマスターの皆さん(※)にいろんなアドバイスをいただけて、ギリギリ作り終えることができました。

※番組では業界トップランナーの振付師、ボーカルディレクターに加えて、K-POPマスターとして少女時代のティファニー、Wonder Girlsのソンミが審査員兼メンターとして参加し、オーディション参加者たちを時に厳しく、時にベタ褒めしながら指導していた

桑原:私はボーカルだったんですけど、編曲やステージコンセプトなどを決めるために皆で話し合ったんですが、言語の壁もあるし一人ひとりの考えも違うので意思疎通は結構難しかったですね。

山内:番組の第1回で、99人の参加者全員がお披露目パフォーマンスを行って最初のランキングが決まる「探索戦」がありましたが、私はソロでの発表だったんですよ(記事冒頭で埋め込んだBoA「Black」のパフォーマンス動画を参照)。この時は「振り付けは自分で作ってください」と言われたものの、そもそも歌いながら踊ること自体が初めてだったので本当に苦労しました。

―― 探索戦では複数人のグループ編成が主軸だったとはいえ、視聴者も4時間ぐらいかけて99人全員のパフォーマンスを観ていたわけですが、ソロパフォーマンスもあるのかとびっくりしました(笑)。

山内:そうなんですよ。自分でも本当にびっくりしました(笑)。

桑原:探索戦では振り付けが決まっているグループもあった中で、しかもたった一人で考えなきゃいけないっていう。彼女はすごく頑張っていたと思います。

―― オーディションに参加していた中国の子、韓国の子は日本人とこんな風に違うところがあったなと感じることはありましたか?

山内:「日本と違うな」とすごく感じたのは、一人ひとりしっかり意見を持っていて、それを恥ずかしがらず隠さずみんなぶつけて言い合っていたことです。日本人だとつい周囲をうかがってから意見を言うことが多いと思うんですが、自分の意見をしっかり伝えようというパッションを持っていてすごいなと思いました。

―― 僕が番組を通じて受けた印象としては、韓国の子はキャラが濃いし明るくて面白いし、しかも優しい人が多い。デビューメンバーには惜しくも選ばれませんでしたが、キム・ボラさんなどはまさにその筆頭でした。中国の子はスー・ルイチーさんなど、自分の意見をガンガン主張するけれど、自身もしっかり仕上げてくるので、他人に厳しいが自分にも厳しいみたいな人が多い印象でした。日本人は中韓勢と比べれば自己主張は弱いものの、ミッション発表会ではしっかりスキルを見せつけ周囲の信頼を得る、職人タイプが多かったように思います。探索戦の時点から視聴者全員が度肝を抜かれた、江崎ひかるさんはその典型例でしたね。

久保:韓国の子は経験も豊富な方々がたくさんいたので、「自分が持っているスキルを教えてあげよう」という気持ちが大きくて、「できるまで練習に付き合うから一緒にやろう」という感じでした。

桑原:ボラちゃんとかもそうですけど、韓国の子たちは責任感が強いと思いました。「私がチームメンバーとして絶対に勝たせてあげる!」「オンニ(お姉さん)がやってあげるよ」とか、そういう気持ちが強くてメンバーの自信をつけてくれるというか。中国の子たちは自分の意思がしっかりあって、ずっと練習しているイメージがありました。

藤本:K-POPは韓国が本場ですし、ガルプラの参加者も練習生の方がほとんどで経験も知識も私と比べたらすごく幅広くて。なので、韓国の方々からはたくさんのことを教わりました。

―― ざっくりな一般論として「日本のアイドルは原石の状態からデビューして、成長の過程も大いに楽しむもの」というイメージがあり、同時に「だから日本人はオーディション段階ではそこまでレベルが高くない」といった印象も形成されてきたわけですが、ガルプラは番組初回から日本人も含めた全員のレベルの高さに驚きっぱなしでした。 

比屋定:そうしたイメージを持っている人は多かったと思いますが、確かにガルプラは全然違いましたね。

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