見えている「やるべきこと」を愚直に実施。そして「革新のローランド」復活へ
―― 2014年に上場廃止してから20年に再上場するまでの7年間、ローランドの経営状況に関するメディア記事はあまり出ていなかったかと思います。この間、どのような取り組みをなさっていたのでしょうか。
三木:まず構造改革に関して、やるべきことはほぼ分かっていたので、やると決断し一気にやり遂げました。
一番効いたと思うのは「経営の見える化」です。全ての数字がわかるように徹底した見える化をすること、KPI、KGIを明確にし、きちんとした羅針盤経営ができるようにしたこと、そして事業統廃合やコストカットだけでなく成長投資も徹底してやり続けたことで、業績を順調に回復できたと思っています。海外子会社も含めて各社がバラバラに経営していたものを、一つのグローバル企業として一体で経営していく、取締役会もコンパクトにしつつ社外取締役も導入し、知見を外部から導入することもやりました。
守りの部分では日本含め各国の工場統廃合、ヨーロッパ各国に存在していた販売会社の統括会社(Roland Europe Group Ltd.)をイギリスに設立、そして不採算事業の見直しですね。オルガン事業の売却、国内音楽教室の縮小など、これまでずっと赤字だった事業を全部見直して、売上高固定費比率を10ポイント以上改善しました。
逆に成長投資として、マレーシアでは初めて100%当社資本での工場立ち上げ(これまでは合弁会社で運営)、ヘッドホンブランドの「V-MODA」を買収、またクラウド型のソフトウェア音源サービス「Roland Cloud」も立ち上げました。また開発設計の面では新音源のチップの開発、新技術の開発、電子楽器の音源共通化といったことにも手を付けています。
―― 例えばこの7年間ほどの間に「こういう状態であったものを、このような手法で好転できた」というエピソードが他にもあれば教えていただきたいです。
三木:先ほども少しお話ししましたが、ローランドは「世界初」「国産初」といった革新的な製品を提供し、新しくマーケットを作る存在であることに誇りを持ってきました。世界初のタッチセンス付き電子ピアノを作ったのは当社ですし、電子ドラムやギターシンセサイザーを普及させてきたという自負もあります。パソコンでの音楽制作を一般に普及させたDTM用のパッケージ製品「ミュージくん」を発売したのも当社です。
MBO期間中に発売したゲームチェンジャー商品は「エアロフォン」という電子管楽器で、サックスをベースにリコーダー感覚でフルート、トランペット、バイオリンなどの音も出せるというユニークな製品です。また2020年には太鼓芸能集団・鼓童さんと共同開発した、世界初の電子和太鼓「TAIKO-1」も発売しました。
稼ぎ頭という意味ではギターエフェクターのBOSSブランドがあり、電子ドラムもトップシェアの座に就くことができましたし、ヤマハさんが圧倒的に強かった電子ピアノも開発力・営業力を高めていまや当社で最も売れている商品になっています。
―― 一般論として、売上ダウンが続いてしまうとどうしても保守的になり、「今売れている商品を強化していこう」という方針になりがちだとも思うのですが、そこからまたチャレンジングな商品を出していこうと再転換をするのは結構大変だったのではないでしょうか?
三木:そうはならないところがローランドの強みだと思っています。私自身も開発畑出身ですし、今でも新しいものを作るのが大好きな開発メンバーが揃っています。
とはいえ具体的にどうそれを実現していくかという点について、特別なミラクルはありません。地道な積み重ねの連続です。電子ピアノ、電子ドラム、ギターエフェクター、ギターアンプといった主力商品のブランド力を取り戻してしっかり売る、そしてMBO後2〜3年目辺りからこれまでなかった「ゲームチェンジャー商品」の開発にも着手していく。あくまで両方やりきるということです。
そして新商品は万が一失敗したとしてもすぐに撤退できるよう、少量多品種のスタイルで企画が通せる体制にもしています。その分だけ値段が上がってしまうことだけがネックですが、チャレンジしやすい環境にはできると思います。
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