EVENT | 2022/01/20

「業績低迷で非上場化」から7年越しの大復活。ローランド三木社長が語る、未来の楽器メーカー論

世界的な知名度を誇り、ミュージシャンたちから愛され続ける日本発の楽器メーカー・ローランド(Roland)。ライブハウスや...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

世界的な知名度を誇り、ミュージシャンたちから愛され続ける日本発の楽器メーカー・ローランド(Roland)。ライブハウスや練習スタジオには大抵置かれているギターアンプ「Jazz Chorus」、世界中のトラックメイカーが愛用するリズムマシン「TR-808」「TR-909」などなど、各時代の名機を挙げると枚挙に暇がない。

そんな同社だが、リーマン・ショック後の業績低迷の長期化を受け、2014年に外資系ファンドのタイヨウ・ファンドからの支援を受けつつMBO(マネジメント・バイアウト)を行い非上場となった過去もある。しかしその後猛烈な社内改革を行い、2020年に東証一部への再上場を実現。かつコロナ禍の巣ごもり需要を背景に、業績が右肩上がりの成長を続けている。

今回は、MBO直前の2013年から代表取締役社長に就任し、再建を主導した三木純一氏にインタビューを行い、メディア取材記事も少なかった非上場期の7年間に何を行い、どのようにローランドを再生したのか、そして「AIによる作曲も活発化していく」と予想される未来において、楽器メーカーがどのように進化していけるかをうかがった。

聞き手・文・構成:神保勇揮

予期された「外資に食い物にされる」ことなしに再建を実現

―― 直近の御社の決算資料などを見ていてもまさに右肩上がりで、中期経営計画も上方修正がなされています。

三木:特に2021年の上半期は、引き続き新型コロナの影響で大きな巣ごもり需要が生まれ、一人で気軽に家で始められる趣味として、余暇時間を使う意味で手軽な楽器が売れました。楽器では特に「ヘッドホンに接続できる」「夜間でも周囲の人に迷惑をかけない」という観点から電子ピアノ、電子ドラムといった製品も普段以上に売れています。

同時に、想定外の出来事が発生した際の危機管理・対応能力も上がったと自負しています。テレワーク、フレックス制の対応も進めて経営の意思決定スピードを上げることに努めたのはもちろん、再上場直前に取引先である旭化成マイクロシステムの工場火災(2020年10月)が発生し半導体がひっ迫することに始まって、さらにコロナ禍で部品や中間財の入手が難しくなったということがありましたが、すぐに市場に残っていた在庫を確保したり、他メーカーの部材でも製造できるよう素早く設計変更をするなどの対策を進めて乗り越えることができました。

―― 2020年12月期の決算資料を読むと、地域別・製品分野別で見ても一部を除きほとんど売上が上昇しています。これは一部地域だけで人気である、あるいは一部の人気商品だけが売上を伸ばしているのではなく、全体が底上げされているということでしょうか?

三木:はい。巣ごもり需要が全世界的な兆候だったことも大きいと思います。ただ一方で、ライブ用の機材など一時的に全く売れなくなってしまった製品もあります。

―― 再上場に至った経緯を教えていただけますでしょうか。

三木:まず上場廃止した理由をお話しすると、2010年3月期からの4期(4年)連続赤字を出してしまったためです。楽器業界自体はリーマン・ショック後に徐々に回復していましたが、ローランドはその後さらに売上が落ちていくという問題がありました。理由は大きく2つあって、一つはやるべき構造改革を決断できずに先送りしていたこと、もう一つは大企業病です。社員が市場や顧客ではなく上司や社内事情ばかり見て仕事をしてしまっており、商品競争力が落ちてしまったということです。

この時期、ローランドのブランドイメージは相当低下していたと思います。当社の歴史を形成してきた、「世界初」「国産初」としてマーケットを切り開いてきたような製品が出せず、ブランドイメージが「これまでにない革新的な音作りを提案」ではなく「無難」に変わってしまっていた。そしてソフトウェア面での変化の対応に遅れてしまっていたということもありました。

一方で楽器業界に限らずですが、スタートアップ企業の成長スピードは早く、市場の変化スピードも早まっているという中で「上場を維持しつつ徐々に改善するのでは間に合わないだろう」という判断のもと、構造改革と成長投資を同時にやるという目的で米投資ファンドであるタイヨウ・ファンドと組み、MBOをして非上場化しました。その際の記者会見でも、「ファンド側の出口として再上場が有力なプランの1つである」ということは明言しており、今回その通りになったということです。

―― まだまだ世間的には外資ファンドが筆頭株主となると「外国企業に社員や技術が食い荒らされてしまうのでは」「旧経営陣が追い出されるのでは」と懸念を抱く人も少なくありません。

三木:当社のパートナーとしてタイヨウ・ファンドさんを選んだのには明確な理由がありました。赤字期間も含めて10年ほど株を持っていただいていた長期投資家であり、当社前社長とのコミュニケーションもありました。日本企業を理解して、新たな価値提供をもたらすような友好的なファンドとしての関係があったんです。

そのうえ、タイヨウさんにとっても投資先がMBOするパターンが初めてであり、絶対に成功させるという意気込みも持たれていました。会社を借金まみれにして株主配当を増やして儲けるとか、ドル箱事業を切り売りするというような「ハゲタカファンド」のスタイルでは次の友好的な投資につながらず、彼らにとってそれをするメリットはありませんでした。

彼らが多くの日本の上場企業を見てきた中で「良い技術や製品があるのに、そのアピール方法やファイナンスの活かし方、投資家との対話に課題が残っていて評価が低い」という会社に対して、外資の資金とノウハウを提供することで再生できることを証明するんだというゴールをお互い共有していました。

次ページ:見えている「やるべきこと」を愚直に実施。そして「革新のローランド」復活へ

next