CULTURE | 2021/10/09

「遺伝子組み換えをしよう!原発をもっと作ろう!」と「地球環境への誠実さ」が等価だった時代。『ホール・アース・カタログ』編集者の転向【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(17)

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地球ができてから46億年、環境は変わり続けてきた。それまでの覇権を握る生物...

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地球の問題を解決する「ハッカー派」と「ヒッピー派」

ブランドは過去の自分自身を反省しながら、第7章「夢想家・科学者・エンジニア」、第8章「すべてはガーデンの手入れ次第」などで、大資本と科学者による、それまでの生物体系さえ置き換えていくような科学の発展が、長期的に見れば「人間にとっての地球」を守る活動であると解く。

さらに第9章「手づくりの地球」で、『ホール・アース・カタログ』で説いたDIY精神の延長として、都市化や遺伝子組み換えや原子力発電があることを解く。

本書には、ハッカー精神とヒッピー精神の融合がある。

僕らは自分自身の考え方をハックしていけるか

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僕自身はギーク寄り・ハッカー万歳の人間なので身びいきもあり、『ホール・アース・ディシプリン』に見られる視点のほとんどには賛成しているが、本書が書かれて10年が経つ間に、技術の可能性も大きく変わっている。

たとえば僕は太陽光や風力などの再生エネルギーをあまりアテにしていなくて、原子力発電をもっと進化させる方が頼りになると思っていた。

・太陽光や風力は調子よく発電できている時とダメな時の差が大きすぎ、電気は貯められない
・太陽光や風力は大きな土地を必要とするが、長距離の送電はロスが大きい
・大きな面積に大量の発電機械を必要としているので、値段が高くつく

などの理由だ。

ところが神戸大学の梶谷懐教授(経済学)が主催する勉強会「中国版グリーン・ニューディール」や、いくつかのシンクタンクに参加するうちに、エネルギーに対する考えが変わりつつある。

まず「価格が高い問題」は、中国が大々的に太陽光パネルや風力発電用の風車を大量生産しはじめたことで一気に低価格化した。それまでの主要風車企業はデンマークなどだったので、この差は大きい。一方で中国の技術力はまだ原発のイノベーションを起こせるほどではないので、原子力のコストは変わっていない。

続いて、発電量のバラツキと送電の問題が、「電気が余った時に水素を作っておく」という方法で解決の見込みが出てきた。水素は石油や石炭と混ぜて燃やせるし、タンカーなどで海をまたいで輸送できる。つまり大量生産と水素という別方向のイノベーションが結びついたことで、ホール・アース・ディシプリンの時点では期待薄だった太陽光発電や風力発電にも可能性が出てきている。

もちろん僕はエネルギー問題にも水素や風力などの発電技術にもさほど詳しくないので、ここで盲信するのは良くないだろう。水素の明るい見込みも2030年以降の話で、10年前の予測が今思えば全然当たっていないことを考えると、見込み通りに行くとは思いづらいが、同じように原発にも入れ込みすぎてはいけない。こういうところで手軽な結論を盲信して安心せず、新しい情報を常に入手し、きちんと自分の頭で考えて物事を自分の中で組み立てていくのがDIY精神であり、科学だ。

地球が丸いことや宇宙の存在を実感することはかなり難しい。科学の多くは、それまでの人間の思い込みや直感に反する。

それでも人間は、多少苦い薬を飲み、エクササイズや仕事をすることで豊かな生活を築いてきた。最初はつまらなくても、我慢して勉強をすることが人生を豊かにすることを、多くの人々は知っている。

『ホール・アース・カタログ』をバイブルにし、2005年に「Stay hungry, stay foolish」というスピーチをスタンフォード大学で行ったスティーブ・ジョブズは、2011年に56歳に膵臓がんで亡くなった。彼が「お気持ち」によっていくつかの効果的ながん治療を拒否し、怪しげな代替医療に固執していたことをいくつかの報道が伝えている。2009年に『ホール・アース・ディシプリン』を出版したスチュアート・ブランドは、82歳になる今も活動を続けている。大きな問題でも自分の頭で考えていくDIY精神は、今後ますます重要になると思う。


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