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今や世界情勢を語る上で欠かせない中国という存在。
日本人にとって近くて遠い存在とみなされがちなこの国は何を考えどこに向かっているのか、
当連載では主に中国に対する理解を深め、ビジネスのヒントとなる中国情報を発信していきたい。
荒木大地
Shenzhen Fan Founder
深セン最大級の日本人情報サイト「深セン ファン」管理人。Webエンジニア兼ライター、また講師として中国・テック関係の情報を発信中。合計2,700を超えるメンバーを抱える中国各地の渡航情報共有グループチャットの管理も行っている。
Twitter : @daichiaraki
文:荒木大地
バズワードとなった中国の「一帯一路」
アフガニスタンがタリバンに掌握されて以来、アフガンと中国に関するニュースはよく耳にするものの、周辺国との関わりについてはあまり聞こえてこない。
アフガン周辺国と中国との関係や、中国が力を入れる一帯一路のルートと古代のシルクロードについて掘り下げると、色々と興味深いことがわかってくる。
この「一帯一路」というワード。あまりにスケールが大きいためよく分からない方も多いと思うが、一帯一路とは2013年に中国が提唱した「シルクロード経済圏構想」のことである。中国とヨーロッパの陸路「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、海路「21世紀海上シルクロード」(一路)からなるもので、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が金融支援を行って周辺国へのインフラ投資を進めている。経済以外にも安全保障や文化交流の協力も行う。
この一帯一路、今までお金がなくて高速道路や鉄道、港などを建設することができない貧しい国に融資をしてインフラを整えることで貿易が活発になり経済成長もできる、と一見良いことづくめに見えるがもちろん課題も山積み。融資を受けたはいいもののお金を返すことができないため建設してもらった港の運営権を99年間中国に渡すといった方法で返済に充てる国もある。
中国は一帯一路を掲げる前からインフラ投資や勢力拡大の様々な努力を周辺国に対して行なってきていたため目新しいわけではないのだが、この言葉は分かりやすいバズワードとなり定着している。
シルクロードと一帯一路のルートを重ね合わせてみる
一帯一路はいくつかのルートがあり、大まかに言うとロシアーヨーロッパ、中央アジアー地中海、東南アジアーインド洋のルートに分けられるが、今回取り上げるのはアフガニスタンにとって超重要な中央アジアルート。
中央アジアの部分を拡大し、古代シルクロードと「現代版シルクロード」一帯一路のインフラを重ね合わせてみると、以下の地図のようになる。

現在のところ、一帯一路の主な交易ルートはカザフスタン側に集中しており、おおよそ古代シルクロードをなぞっている。新疆ウイグル自治区のカシュガルからキルギスを通る道路も利用されてはいるが両国間を結ぶ鉄道は工事の難易度や莫大な費用を要することから長らく計画中のままなかなか進展しない。
原油、ガスパイプラインは?
中央アジア周辺の経済は、石油・天然ガス・ウラン・鉱物資源(金,銀,銅,レアメタル等)に大きく依存するが、特に中国への輸出がかなりの比重を占めている。中国では最近新疆ウイグル自治区周辺で埋蔵量10億トン級の油田やガス田が相次いで発見されているものの、依然として輸入大国であることに変わりはない。
特に、ロシアやカスピ海沿岸の油田まで伸びている「カザフスタンー中国原油パイプライン」と、中央アジアの各ガス田に接続される「中央アジアー中国ガスパイプライン」は非常に重要なインフラである。
ガス・原油パイプラインや鉄道、高速道路のインフラは中国―パキスタン間も計画されているが、アフガニスタンはメインルートに含まれておらず「避けられている」状態である。
鉱物資源の宝庫アフガニスタン
アフガニスタンは、ユーラシアプレート・アフリカプレート・インドプレートの三大陸が衝突したことによって形成された複雑な地質であり、巨大な鉱脈の中に1400以上の種類豊富な鉱物資源が存在する。2000年以上前のアレキサンダー大王の時代もアフガニスタンで金・銀・貴石が採掘されており、古代メソポタミアでもアフガニスタンの鉱山から採掘されたラピスラズリが装飾品として使われていた。またアイナック銅鉱山やザルカシャン金鉱山も2000年以上の歴史がある。タジキスタンとの国境近くにあるサムティ鉱床には20〜25トンの金が含まれていると推定されている。
アフガニスタンの鉱物資源価値は1兆ドルとも3兆ドルとも言われているが、もちろん他国がこの状況を見逃すはずはなく、19世紀には大英帝国が、その後もドイツ、フランス、ロシア、アメリカなどが調査を行っている。
特に近年は鉄、銅、コバルト、金、リチウム、レアアースなどの重要な工業用金属が注目を集めており、ガズニ州には世界最大のリチウム埋蔵量を持つ可能性がある。ハミド・カルザイ前大統領は「サウジアラビアが世界の石油の首都であるのに対し、アフガニスタンは世界のリチウムの首都になるだろう」と発言していた。
中国企業は2007年に30億ドルでアイナック銅鉱山の30年リースを獲得。推計によると当鉱山には約600万トンの銅が埋蔵されており、数百億ドルの価値がある。しかし一帯には歴史的遺跡も多数あり、これらの貴重な歴史的資料が採掘によって破壊の危機にあると指摘する声もある。
これらの鉱物資源はアフガニスタンが経済的な困難から脱却するための切り札となるが、1番のネックは情勢不安である。
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辺境の地域「ワハーン回廊」
かつては交易が盛んで、マルコ・ポーロや『西遊記』三蔵法師のモデルとなった玄奘三蔵も通ったと伝えられるアフガニスタン側のシルクロードはどうなっているのか?
アフガニスタンと中国をつなぐ細長いエリアは「ワハーン回廊」と呼ばれており、ワフジール峠が中国との接続ポイントとなっているが、現在は中国軍により封鎖されているため、いわば「袋小路」の状態である。孤立されたゆえに訪れる人も少なく辺境の地域となっている。
ワハーン回廊をドローン撮影した動画
このワハーン回廊、古代は旅人の回廊として利用されており、1883年までは独立した公国だった。その後大英帝国とロシア帝国の協定で北側と南側の川を互いの国境とし、その中間地帯をアフガニスタンの一部とすることで、両勢力の緩衝地帯としての役割を果たすようになった。
その後、ワハーン回廊内にはキルギスの羊飼いたちが騒乱から逃げ込んでくる。毛沢東時代になると中国はこのキャラバンルートを封鎖する。現在、このワハーン回廊の居住者はワハン人約1万2,000人、キルギス人遊牧民約1,100人。このエリアは中央アジアで最もフォトジェニックな場所と言われている通り景色が非常に美しくアフガニスタンの騒乱とは一線を画しているが、アヘン密輸ルートとなった過去もあり、今もアヘンが「大量に」使用されていて中毒者が多数存在する。
中国にとってアフガンの地下資源はとても魅力的だ。とはいえ国境封鎖を解除してアヘンを持ち込まれたら困る。また、新疆ウイグル自治区と接するエリアでテロリストが侵入されるのも困る。こうした点は報道されているのでご存知の方も多いと思うが、上述の背景を知ると彼らの気持ちもよく分かる。
中国―アフガン貨物列車「中亜班列」
ワハーン回廊の開放が期待できない中、2019年に運行開始したのが「中亜班列」と呼ばれるルートの一部である、中国―アフガン貨物列車。
中国―アフガン貨物列車。中国国営テレビ局CGTN YouTubeチャンネルによる報道
この中国―アフガン貨物列車は、中国とアフガニスタンを結ぶ初の鉄道貨物サービスで両国の貿易促進のための重要なルート。アフガニスタンのハイーラターンから上海の隣にある江蘇省の南通市までをつなぐ路線で、カザフスタンを迂回するルートとはいえわずか14日で目的地まで到着することになり大きな話題を呼んだ。
今後の展開は?
他にもイランからアフガニスタンを経由してキルギスの国境を通り中国に入る高速鉄道「五カ国鉄道回廊」や、ウズベキスタンとパキスタンを結ぶ鉄道プロジェクトなどが計画中だが、情勢や地形による難易度の高さから進捗は停滞している。しかし政権を掌握したタリバンはインフラ建設に前向きでパキスタンと中国を結ぶルートに加わることを望んでおり、状況次第ではプロジェクトが一気に進行する可能性もある。

鉱物資源の宝庫アフガニスタンの将来を左右する中国の一帯一路政策。周辺国と連携して古代シルクロードのように活発な交易ができる日は意外に早く来るのかもしれない。