CULTURE | 2023/07/14

行政からみた中目黒が「粋な下町」である理由と新施設・フナイリバへの期待

聞き手・文:赤井大祐(FINDERS編集部) 写真:舩岡花奈(FINDERS編集部)
中目黒駅から目黒方面に向かって山...

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聞き手・文:赤井大祐(FINDERS編集部) 写真:舩岡花奈(FINDERS編集部)

中目黒駅から目黒方面に向かって山手通りを歩くことおよそ5分。目黒川沿いに現れる赤レンガづくりの広場と建物を使ったオープンスペース「フナイリバ」。

敷地全体の面積が2700㎡という都心にしては破格の広さによって、今後中目黒のまちづくりの拠点となるスペースになるという。中目黒に編集部を構える『FINDERS』では、前回は、一般社団法人ナカメエリアマネジメント(NAM:ナム)」のプロデューサーとして、取り組みを主導した日本デザイン株式会社・大塚剛さんと、NAMのクリエイティブ・ディレクターとしてブランディングやクリエイティブ設計を一手に担うE inc.・石野亜童さんに「民間」側から見たフナイリバ誕生の経緯や目的について伺った。

【参考】官民連携で中目黒のまちを育てる新拠点「フナイリバ」が生み出すまちづくりの新機軸

今回は、もともとは目黒区が管理する施設であったフナイリバがどのような経緯でスタートしたのか。プロジェクトに大きく関わった目黒区職員の面々に話を伺うことに。登場いただいたのは、街づくり推進部 地区整備課から池田寿々子さん、齊藤礼香さん、畑島美南海さん、そして都市整備部 みどり土木政策課から西尾千暁さんの4人。

行政職員から見た中目黒という街、そしてフナイリバへの期待について伺った。

左から、池田寿々子さん、西尾千暁さん、畑島美南海さん、齊藤礼香さん

池田寿々子

目黒区 街づくり推進部 地区整備課 係長

建築職として入庁。建築課から都市計画課に異動し、目黒区全体に関わる景観計画や建物高さのルール作りなどを行う。その後、まちづくりに興味を持ち上司にアピールすることで、現在の地区整備課へ。一般的に公務員は4~5年ほどで異動となるのだが、地区整備課に入ってから今年で8年目。

齊藤礼香

目黒区 街づくり推進部 地区整備課

イベント関連の造作などを行う制作会社を経て、2022年度建築職として入庁。大学時代にまちづくりに興味を持っていたこともあり、入庁後地区整備課へ配属。2年目として、これまで知ることのなかった行政ならではの苦労を味わいつつも「夢のよう」な仕事をしているんだとか。

畑島美南海

目黒区 街づくり推進部 地区整備課

建築職として新卒で入庁し4年目の地区整備課のメンバー。大学では主に建造物の構造を専門にコンクリートを作ったりしていたが、まちづくり系の部署である地区整備課に配属。「公務員にもこんなに街の人と関わる楽しい部署があると思っていなかった」とのこと。

西尾千暁

目黒区 都市整備部 みどり土木政策課

造園職として入庁し、目黒区内の公園の設計や工事の現場監督を行う。その後、公園計画や、公園の利活用を行う部署である道路公園課などを渡り歩く。2023年度からは目黒区の緑化や自然環境保護などを行う部署であるに異動。目黒区の自然や公園についてはお任せあれ。

中目黒は意外と「下町」っぽい街?

Photo by Shutterstock

―― 「フナイリバ」について伺う前に、まずは目黒区役所で働く皆さんからみて、中目黒はどういった街なのかお聞かせいただけますでしょうか?

池田:中目黒って一般的には「おしゃれな街」だと思われていますよね。実際にそういった側面もあるとは思うのですが、実はかなり下町っぽさがあると感じています。例えば桜の時期にぼんぼりを吊るしたり、ライトアップをしたりしていますが、それらも昔から住む町会・商店街や地域の方々が採算度外視で街のためにやっていることだったりもします。若い人たちが楽しめるような素敵なお店もありつつ、地域の繋がりの強さもあるような場所ではないでしょうか。

池田寿々子さん

齊藤:私も入庁前はお花見に来るようなおしゃれな街ってイメージだったんですが、やっぱまちづくりの協議会の方々に会ってみると江戸っ子って感じなんですよね。粋な方が多い。昔、神田明神で神輿を担いだことがあるんですが、そのときの下町っぽいノリを中目黒でも感じたんです。特に昔から住んでいらっしゃる方々は、まちづくりに対して並々ならぬ熱い思いを持っていますよね。

齊藤礼香さん

畑島:私も中目黒の担当になるまでは桜のイメージがあったぐらいです。でも地元の方々と関わりを持つ中で、実はお花見を含めて、特定の企業ではなく地元が中心になったまちづくりに力を入れていることがわかってきました。

―― お三方とも同意見ですね。たまに遊びに来るような人の中に、中目黒について「下町」のような印象を持っている人はほとんどいないと思います。

畑島:古くから商店街が動いてきた一方で、ここ10年から15年のあいだに、目黒川沿いの桜人気によって外から遊びにくる人がものすごく増えたんです。ただ変化があまりに急激すぎて、地元コミュニティの雰囲気とギャップが生じてしまっている印象もあります。

畑島美南海さん

池田:今じゃ想像できませんが、2010年ごろまでは桜もゆったりのほほんと見られたんですよ。SNSが普及する時期と重なるように駅前高架下の再開発や、STARBUCKS RESERVE® ROASTERY TOKYOの開業、東京音楽大学 中目黒・代官山キャンパスの開校(19年4月)をはじめ民間の動きが活発になりました。副都心線の乗り入れもありましたね。だけど街を支えてる町会長さんや商店街の方々と、新しく街に入ってきた方々とが上手く繋がれていない印象は私たちも持っていました。

―― 新しいものが盛り上がるほど「地域」との乖離が生まれてしまうと。

池田:ただ、これについてはフナイリバを運営するNAMに期待している部分でもあります。代表理事の柏井栄一さんやプロデューサーである大塚剛さんなど、実行部隊として動いている方々は比較的若い世代も多いです。NAMには理事のメンバーとして、町会長や商店会長も参加されていて、上の世代と下の世代とをつなげるような組織になっていると感じています。

一方で、若い世代からすると「住民として行政がどんな取組を行っているか見えにくい」というお声もいただいています。確かに私たちは昔から住んでいらっしゃる方々と関わることが多かったのですが、下の世代の方々や民間事業者とはなかなか繋がれなかった。そういった面でもNAMは民間と行政を、そして世代をつなぐきっかけとなる組織になるのではないかと思いますし、私たちも行政もそこはしっかりと関わっていきたいと思っています。

きっかけは庁内研修のアイデアコンペ

フナイリバ タテモノ入り口には川の資料館時代のものに「だった。」の文字を付け足した看板が

―― 池田さん、畑島さん、齊藤さんが所属する地区整備課と、西尾さんが所属するみどり土木政策課はそれぞれどのような部署に当たるのでしょう?

池田:私たち地区整備課は地元の方々の意見を取り入れながら、公民が連携しながら街の中で新しいことにチャレンジしていく部署なんです。西尾係長が所属する都市整備部など土木系部署は公共物を管理し、守っていくことが仕事になるかと思います。行政としては事故など危険につながることは絶対にあってはならないので、新しい取り組みに対しては慎重になるものです。ただ西尾係長は本当にそのあたりをスマートにまとめて東京都や関係所管と調整してくれました。わたしたちはそれを「西尾マジック」と呼んでいつも頼りにしていました。

西尾:私の所属するみどり土木政策課は、地区整備課に比べるといわゆる社会インフラを地道に支える取り組みが多くなります。今回のフナイリバに関しては施設設備の準備、使用契約や条件の調整などを手掛けました。いわゆる「行政的な視点や立場」だけで動いてもみなさんご想像の通り話は進まないですし、逆に民間や地区整備課的な視点だけでもよくない。常に両側の視点から最適な落としどころを探っていくような仕事です。

西尾千暁さん(手前)

―― タテモノはもともとは区が運営する「川の資料館」だったものですよね。

西尾:私が所属していた道路公園課が旧・川の資料館を管轄していたんですが、平成23年度(2012年度)<平成24年(2012年)3月から>末から緊急財政対策で閉館していました。閉館状態とは言えど、維持費はかかりますので、庁内では民間に貸し付けて利活用するべき、という話が出てきたんですよ。それと同時期にちょうど池田さんたちの地区整備課でも同様地域主体のまちづくりの動きがあったんですよね。

池田:実はフナイリバの具体的な活用のアイデアは、係長級昇任1年目の職員を対象に企画力をアップするための研修がきっかけだったのです。複数のチームに分かれて、区が抱える課題に対して、所属の立場を超えてチームごとに街に関する課題解決策を考え、区長をはじめとする部長級の職員の前でプレゼンし、上位2チームに入ると実現に向けた検討を行うのですが、フナイリバのプロジェクトが見事1位に選ばれました。同じぐらいの時期にNAMのまちづくり活動が動き出したりもして、最終的にNAMがフナイリバを運営することになりました。

今回の取り組みって、実は目黒区としての前例がほとんどないものだったんですよ。区として事業化に向けて舵を切り、関係所管の管理職が力強いリーダーシップで事業を推進してくれたおかげで、実現することが出来たんです。研修に参加した職員も喜んでくれています。

―― 仕組みがうまく機能していて、それ自体がいい企画になっていますね。この研修で実現したものは他にどんなものがあるのでしょう?

西尾:フナイリバの他にも自転車シェアリングや、目黒区庁舎の駐車場をタイムズに貸し出す、という取り組みもこうした研修がきっかけで実現したものです。

池田:フナイリバの実現に関しては、行政からの要望に対してNAMが頑張って応えてくれたことも大きかったと思います。例えば目黒区は住宅都市なので、実証実験としてイベント一つやるにしても都心区と違って地域への騒音の配慮を徹底する必要があります。NAMは、周辺の住宅への告知チラシのポスティングしたり、挨拶に伺ったりと手間と時間がかかることをしっかり遂行してくださいました。

また何より地元の方々が理解を示し、応援していただけたのも、スムーズに進んだ大きな要因だったと思います。特にまちづくり活動では昔から地域に貢献してきた方々の反感を買ってしまうと、当然物事はうまく進まないですよね。フナイリバの実施にあたっても実証実験や検証を通して丁寧にコミュニケーションを取りながら、世代をまたいで意思を一つにできたことが大きかったと思います。

世代も文化もつなぐNAMとフナイリバへの期待

―― フナイリバの魅力はどのような部分にあると考えていますか?

西尾:目黒区にある公園のほとんどが住宅地に近接してるんですが、フナイリバのヒロバは川に面している分、比較的自由度高く活用できるのではないかと思っています。個人的には下の親水広場なんかは水場も近いですし、地元の花火イベントとかにも使えそう。夏の思い出をあのヒロバで作れたら良いなって思います。

また目黒川では定期的に「生き物発見隊」というイベントをやっています。区民の方を募集し、魚類研究家の君塚芳輝先生を招いてみんなで川の中に入って生き物を探すんですが、鮎やカニなんかが見つかったりするんです。

―― 目黒川に鮎がいるんですか!?驚きです。

池田:目黒川は都市の河川なので原則入ることができないので、実は貴重な経験なんですよね。

西尾:魚を捕るのにも東京都から採取許可を貰わなければならないですしね。応募者は中目黒周辺の人だけじゃなく、目黒区中からいらっしゃるんです。区民の集まれる場所として、フナイリバともうまく連携させることができたらいいね、とNAMとも話をしています。

【目黒区動画ニュース】「川のいきもの発見隊」を開催しました(令和4年5月28日)

―― 中目黒は街の中に川が通っていることも、他の街との大きな違いですよね。

西尾:公園の整備などをする際に地域住民の方にヒアリングすると「親水空間が欲しい」という要望はやっぱりとても多いんです。この水辺空間は目黒区としても非常に大きな財産ですよね。

―― 最後に、今後行政としてフナイリバ、そしてNAMに期待することをお聞かせください。

池田:まずは地域の方々にどんどん使っていただきたいです。タテモノ内のコワーキングスペースに限らず、例えば涼しい季節なんかはヒロバで仕事の会議とかをしてみてもらっても良いかもしれません。生活様式が大きく変わっている時期だからこそ、みなさんには色々な方法で公共施設を使ってみていただきたい。そういった事例を通じて行政としてもみなさんがもっと自由に公共施設を使っていけるような仕組みづくりにつなげていけると思います。

あとは中目黒の街に対して、なにか主体的に取り組みたい人同士がつながる場になってほしいなと思います。イベントなどを通じて人が集まることで、地域の人たちの交流のきっかけが生まれる。そんな公共空間になっていくと嬉しいです。

齊藤:フナイリバという場所自体、まだ中目黒内でも知らない人が多いと思います。まずは街の方々に存在を知ってもらい、中目黒に愛着のある人が積極的に使うことで、中目黒の魅力がさらに深まっていくというようなことが起こっていけば良いなと思います。

畑島:行政としても、なにか主体的にアクションを起こしたい、という民間の皆さんとはちゃんと繋がりがたいんです。だからこれまで行政やまちづくりに関わりがなかった方でも、そうして主体的に繋がってくれる関係人口をどんどん増やすきっかけになればと思います。

西尾:「目黒川クリーンアップ大作戦」という川の清掃イベントを定期的に開催していまして、前回上流担当として私も参加しました。基本は地元の町内会の方々など、ご高齢の方の参加が多かったのですが、その中にふらっと30歳ぐらいの方々が数人、単独で参加してくださっていたんです。繋がりの濃い町内会の方々と比較して、それぞれ孤立しているような形になっていたのですが、終わったあと「本当に楽しかったです」と声をかけてくださいました。若い世代ほど環境への意識も高いですし、NAMがそういった方々と地元とをつなぐ役割を担ってくれると良いなと思います。

―― こうやってお話を伺ってみて、思ったよりも行政はいろいろな取り組みを実施してるんだなと、ちょっとした発見でした。

池田:実は区としてHPやLINE、Twitterを通じて情報発信に力を入れています。一人でも多くの方に区の取り組みを知ってもらい、参加してもらえるよう行政としても改善を図っていきたいと思っています。SNSアカウントも、ウェブサイトも、目黒区に住んでいる、働いている、今後関わりをもっていこうと考えてくださっている方々はぜひチェックいただければと思います。


目黒区広報課 公式Twitter

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