EVENT | 2023/06/30

任天堂、ソニー、マイクロソフトはこれからどう攻める?ゲーム業界各社発表から考察

現代のコンソールゲーム業界のシェアを奪い合うプラットフォーム3社、すなわち任天堂、ソニー・インタラクティブエンタテインメ...

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現代のコンソールゲーム業界のシェアを奪い合うプラットフォーム3社、すなわち任天堂、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)、マイクロソフト(以下、MS)それぞれに大きな動きがあった。2023年の年末商戦並びに2024年以降の展開に向けて、3社すべてがユーザー向けの展示会的なオンライン配信を行ったのだ。具体的には

5月25日:SIE「PlayStation Showcase」
6月12日:MS「Xbox Games Showcase 2023」
6月21日:任天堂「Nintendo Direct 2023.6.21」

と、1カ月の間に3社が立て続けに自社プラットフォームでリリースされるゲームやサービスについての発表を行った。興味深いのは、一連の発表の中で3社の将来的な戦略がそれぞれはっきりと異なっていたことで、これらの発表はゲームファンのみならずゲームビジネスを考えるうえでも注目するべき内容が大いに盛り込まれていた。

内容の詳細は各社のサイトないしアーカイブを参考いただくとして、今回は3社が発表を通じて訴えた戦略、またその背景を鑑みながら、将来的にゲームビジネスがどのように変化していくのかを考察したい。

なお予め断っておくが、本稿において特定のゲーム企業に対する優劣の判断を行う意図はない。あくまで各社のプロモーションを整理しつつ、その戦略や背景を推察することが目的である。

【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(25)

Jini

ゲームジャーナリスト

note「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、2020年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。
ゲームゼミ

任天堂分析:手堅くも好調 IPを重視し既存のファンを育てる姿勢

最初に、現状コンソールゲームにおける実質的な「覇者」である任天堂の発表から分析していこう。任天堂は現状、現行ハードのNintendo Switchだけで1億2562万台、そのソフトも10億本以上を売り上げ、コンソールゲーム業界において1社で市場シェアの約半分を取るなど、今もっとも存在感を放っている。

この前提を踏まえ、今回発表されたNintendo Directの中でもっとも興味深かったのが、依然としてNintendo Switchに代わる次世代ハードが発表されなかったことだ。Nintendo Switchは2017年に発売されて以来、6年経過したハード。ハードウェアの進化が著しい2023年現在では限界も見え隠れする。それでも任天堂はNintendo Switchを軸としたビジネスを継続する構えを改めて示した。

これを裏付けるように、任天堂の古川俊太郎社長は2023年3月期決算説明会の中で、「次世代機を発売する必要がない、とは考えていない」「将来に向けて開発を進めている」と新ハードへの意向をはっきり示しながらも、「ただ、現段階では、発売から7年⽬に⼊ったNintendo Switchの稼働をしっかりと維持・拡⼤し、ビジネスの勢いを維持することが最優先事項だと考えます」と、当面のNintendo Switchベースのビジネスプランを続ける意向を示している

一方、任天堂が力を入れてきたのが、「IP戦略の拡大」だ。今年3月の記事でも触れたように、長らく任天堂は「IP戦略」を基本戦略に位置づけ、「ゲーム専用機以外の分野でもお客様と任天堂IPとの接点を広げていきたい」と語っていた。そしてその狙い通り、2023年4月にはilluminationと共同制作した『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が公開され、6月には興行収入12億8800万ドルという、アニメ映画作品としては『アナと雪の女王2』に次ぐ歴代興行収入2位となる記録を達成した。

Nintendo Directではこの『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』と連動するように、リメイク版『スーパーマリオRPG』、リメイク版『ルイージマンション2』、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』、さらにピーチ姫が主人公の新作など、多くのマリオ関連作品も続々と発表。古川社長が「より重要なのはこの映画をきっかけにマリオのゲームにも関⼼を持っていただき、Nintendo Switch のハードウェアやソフトウェアの販売に対して中⻑期的にポジティブな影響が⽣まれること」と語るように、IPとの相乗効果を狙った発表なのは確かだろう。

IP戦略という点に注目すると、任天堂はマリオ以外にもゼルダ、スプラトゥーンのような魅力的なIPブランドをそろえており、ゲーム以外で「二の矢、三の矢」があることは任天堂に大きな自信を与えたと言える。一方、次世代ハードへの期待は年々高まっており、こちらがいつ、どんな形で実現するのかは依然、注目したい。

SIE分析:軌道に戻ったPS5の勢いを維持できるか

次に、SIEのPlayStation Showcaseを分析しよう。PlayStation Showcase全体を通じて印象深かったのが、ティザートレイラー(ゲームプレイの映像ではなく、テーマやストーリーを訴える作品の予告映像)を多用した視覚的な訴求が非常に多かったことだ。無論、任天堂もMSもビジュアルを重視していないわけではないが、SIEとしてはとりわけ映像表現に自信があるということなのだろう。

ティザートレイラーとして印象的だったのは、銀行強盗をテーマにした『Fairgame$』、トップダウンシューターから様変わりした『HELLDIVERS 2』、魔法を使ったFPS『アヴェウムの騎士団』、thatgamecompanyの『SWORD OF THE SEA』、そして日本からはスクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジー16』、コナミの『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』などだ。特に『MGSΔ』は人気作の待望リメイクということもあり、日本のゲームコミュニティでも話題になった。

こうしたプロモーションの背景には、SIEがPlayStation 5のパワフルなスペックを再アピールしたい意図があるはずだ。そもそもSIEとしては2020年にPlayStation 5を発売したものの、半導体不足やコロナ禍の中で供給が追い付かず、しばらくスロースタートになっていた。一方、2023年1月にはSIEのCEOジム・ライアンが「品不足解消」を宣言。2022年には1900万台を出荷しており、23年には2500万台の出荷を見込むなど、本調子を取り戻しつつある。

ハードウェアとしてのアピールはPS5だけではない。PlayStation Showcase内では『Beat Saber』『バイオハザードRE4:VRモード』『アリゾナ サンシャイン2』など、今年2月に発売されたばかりのPlayStation VR2用のタイトルも多数発表された。更に新型コントローラーとなる「Project Q」も併せて発表。従来のDualSenseに8インチのHDディスプレイを搭載し、PS5のWi-Fiで遠隔プレイできるという仕様だ。

勢いを取り戻したハードウェアの強みを全面的に活かしながらも、Bungieなど新たに加わったセカンドパーティの新作によって訴求する、ストレートながらも力強いプロモーションとなっていた。

MS分析:発売目前に迫ったStarfieldへの期待と、クリエイターファーストのアピール

Starfield | Official Website | Bethesda.netより 

今回のMSの目玉は何と言っても2023年9月に発売が迫った『Starfield』だろう。展示会の名前も厳密には「Xbox Games Showcase + Starfield Direct」と、わざわざ『Starfield』の発表だけ独立させているあたり、本作にかけるMSとファン双方の期待は極めて大きい。

『Starfield』はアメリカ、メリーランド州に社を構えるBethesda Game Studioの最新作だ。同スタジオは『The Elder Scrolls V: Skyrim』や『Fallout 4』などオープンワールドを舞台としたRPGを主力としており、これらの人気からアメリカのみならず日本にもファンが多い。そしてそのBethesdaにとって25年ぶりの完全新規作品が、この『Starfield』だ。星々を旅するスペースオペラをBethesda流のビッグスケールで実現するという意欲作で、Xboxの看板タイトルとして2018年の発表から長らく注目されてきた。

中でも印象深いのが、『Starfield』を含めて発売当日からXbox Game Passで遊べるという点だろう。Xbox Game Passとは本連載でも何度か紹介したMSのゲーム版サブスクリプションサービスであり、月額850~1100円(2023年6月時点)で100タイトルを超えるゲームが遊び放題になるというもの。『Starfield』をダウンロード版で購入すると9680円のため、計算上はこのゲーム1本の費用で1年近く『Stafield』を含むXboxのタイトルが遊び放題になる。

長らくMSの責任者、フィル・スペンサーはこのXbox Game Passをゲーム事業の主柱として捉えており、今回のShowcaseの中で紹介されたゲームの多くも、発表直後に「GAME PASSで初日から遊ぼう」と付け加えられるほど。MSの資金力故に実現する価格破壊的なサービスで一気に勢力を伸ばす算段だ。

もう一つ、興味深いのはShowcaseの中で「開発者たちの貢献のおかげ」といった、ゲームクリエイターに対する謝辞を何度も重ねていたことだ。昨今、MSはAcitivison-Blizzard社などの買収を進めてきた(進めている)が、自分たちの傘下に入ってもゲームを作る環境や意思決定は尊重するという配慮が表面的ではないかたちでうかがえる発表であった。なお、この点を詳しく論じた記事は弊noteに掲載している。

総評:狙いがある程度分かれた3社、一方でバズワードには無関心

ここまで3社が明らかにした今後の方針を確認すると、

「IP戦略の拡大を打ち出し、実際にゲームと併せて映画やグッズを展開してきた任天堂」

「ハードウェアのポテンシャルを信じ、視覚的に強く訴求しつつも、更にハードを拡張する機器も訴えたSIE」

「期待の大作を組み込んだサービスの訴求に加え、買収に対する懸念にも配慮したMS」

と、各社は競合するようで、それぞれ「IP」「ハード」「サービス」と独自の狙いもあることが明らかとなった。無論、ゲームビジネスの根幹はハードとソフトの売上に依存しており、その点で依然同じ市場のシェアを奪い合う関係である。しかし、正面からお互いがぶつかるのではなく、ビジネスを多角化することで「奪いあう」のではなく「拡げあう」ことも企図していると考えられる。

こうした背景には、そもそもコンソールゲーム自体がスマートフォンのような他のゲーム市場と競合するだけでなく、YouTubeやTwitterのようなSNS、NetflixやSpotifyのようなエンタメ系サブスクリプションと「可処分時間」を奪いあう中で、その本格的な競合はむしろ同業ではなく彼らであると認識しつつあるからだ。

一方、興味深いのは「XR」「メタバース」「NFT」のような2022年頃から世間を騒がせ、テックジャイアントが注力してきた新テクノロジーに対する言及が、3社ともほとんどなかったことだろう。特にXRは6月にMetaがMeta Quest 3を発表し、同じくAppleもVision Proを発表したタイミングだが、任天堂とMSからXR関連の発表はなく、SIEのPS VR2もあくまでPS5専用の拡張機器である点で、MetaやAppleの姿勢と大きく異なる。あくまで3社はゲームビジネスを念頭に拡張を進めている。

ビデオゲームに限らず、プラットフォーム間での可処分時間を奪い合う競争は激しさを増すばかりだが、そこで漠然と新しい領域の開拓に乗り出すのではなく、まず既存のファンを納得させるラインナップを揃えたうえで、そこから地続きのビジネスを展開していく姿勢は、少なくとも筆者にとって好ましく、また聡明な判断に思う。さて、今後3社がどのようにビジネスを拡げていくのか、今後も引き続き注視したい。


【各プラットフォームのアーカイブはこちらから!】

「PlayStation Showcase」

「Xbox Games Showcase 2023」

「Nintendo Direct 2023.6.21」


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