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EVENT | 2023/03/29

大学研究者らが「産学連携のホンネ」を語ったシンポジウム「最先端研究×産学融合で日本を変える!Jイノベの挑戦~産学融合から社会実装へ~」レポート

左上から江龍修氏(名古屋工業大学)、遠藤哲郎氏(東北大学)、大石知広氏(経済産業省)、左下から松山秀人氏(神戸大学)、黒...

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左上から江龍修氏(名古屋工業大学)、遠藤哲郎氏(東北大学)、大石知広氏(経済産業省)、左下から松山秀人氏(神戸大学)、黒木伸一郎氏(広島大学)、中田泰子氏(北陸先端科学技術大学院大学)

文:神保勇揮(FINDERS編集部)

全5拠点が「現場の生の声」を語り合う

経済産業省が展開する「地域オープンイノベーション拠点選抜制度(J-Innovation HUB:Jイノベ)」事業に関する公開シンポジウム「最先端研究×産学融合で日本を変える!Jイノベの挑戦~産学融合から社会実装へ~」が3月2日にオンラインで開催された。

FINDERSでは現在、Jイノベの取り組みおよび、選抜された全国27拠点の取材記事を特集として掲載している。

Jイノベは2020年度(令和2年度)からスタートし、大学等を中心とした地域イノベーション拠点の中で、企業ネットワークのハブとして活躍している産学連携拠点を評価・選抜し、経済産業省が拠点の信用力を高め支援を集中させることでトップ層の引き上げを促す取り組みだ。また、拠点間の交流・連携や広報などの支援も行っている。

Jイノベがどのような意図をもって運用されているかについては、同事業を担当する経済産業省の大石知広氏(大学連携推進室 室長)の取材記事も掲載しているので、ぜひこちらをお読みいただきたい。

今回のシンポジウムでは、Jイノベに選抜された拠点のうち以下の5拠点が登壇し、日本の「産学融合」の最前線では何が行われているのか、どのような課題にチャレンジしているのかといった生の意見を交換する会となった。

各拠点の取材記事も公開されているので、各拠点の取り組み内容や強みについてはぜひそちらをご覧いただきたい。

世界から注目を集めるスピントロニクス技術!東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)

毎年1000人を超える規模の「北陸発の産学官金マッチングイベント」を開催し産学連携のハブに 北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部

「ゴミを出さない新素材・結合交換性ポリマー」が持続的な経済サイクルを生む!名古屋工業大学 産学官金連携機構

生活に不可欠な「膜」の最先端研究とビジネスを結びつける実践の場 神戸大学 先端膜工学研究センター

半導体分野の最新研究成果と人材を日本から世界に届ける 広島大学 ナノデバイス研究所

本記事では、主にパネルディスカッションの模様をお届けする。なおモデレーターとして先述の経産省大石氏が司会を務めた。

大変な取り組みだからこそ「事務コスト」はできるだけ減らしたい

最初のテーマは「現在抱えている課題」。もちろん“本業”である研究ではそれぞれの課題があるだろうが、多くの登壇者が組織マネジメントに関する課題を挙げた。

遠藤(東北大学)「文部科学省の所掌の話になってしまいますが、研究者育成の観点からも、学部生から修士・博士課程までの最長9年間、なるべく教育制度を安定させていただきたいという要望があります。もちろん社会が激変する中で大学も変わらねばなりませんし、実際に改革も進めていますが、特に学生が関わる領域の制度があまりに変わりすぎると、どうしても混乱をきたしてしまう部分があります」

中田(JAIST)「研究者と民間企業とのシーズ・ニーズをマッチングさせ、実用化に至るまでには長い年月と大きなエネルギーが必要です。どうしても担当スタッフであるリサーチアドミニストレーター(URA)たちのマンパワーの限界を感じてしまうところがあります。人数増員についてはさまざまな意見もあるかと思いますが、若手も足りていません。また地域企業とのマッチングが多い関係上、共同研究の規模や資金が比較的小さなものになってしまいがちな部分がどうしても出てしまうところがあります」

江龍(名古屋工業大学)「我々は職員・教員併せて349名という組織で、現在約350の共同研究を行っていますが、はっきり言ってバックヤードが大変な混乱に見舞われています。毎年2月から5月ごろが共同研究の年度越え期間ですが、この時期は誰もが事務作業に忙殺されてしまう。私のような理事クラスが改革しようと言っても暖簾に腕押しで、会計検査院のチェックが入る際に紙の資料が必要だということもあり業務のIT化、DXに抵抗されてしまうのです。この分野におけるある種の外圧・黒船的に国からの指導をいただきたいです」

黒木(広島大学)「我々も組織のマネジメントが課題と言えそうです。2022年には中国経済産業局が半導体関連業界の成長に向けた、産学官の協議会を設立し、また我々も同様の『せとうち半導体共創コンソーシアム』を2023年4月に立ち上げる予定です。かなり良い体制ができそうですが、今までのメンバーで活動していたところに組織が急拡大することになりますので、人員増も必要ですがこれまで以上に事務プロセスの簡略化を進める必要があると思っています」

松山(神戸大学)「神戸大学膜センターでは『先端膜工学研究推進機構』という一般社団法人を立ち上げて民間企業に参加してもらっており、おかげさまで多くの共同研究を行えていますが、産官学連携のゴールは社会実装であり、そのためには多くの時間と費用が必要になるため資金調達は常に課題です。神戸大学では2022年、研究所単位ではなく大学と民間企業との包括連携協定を推進し始め、そうしたプロジェクトでの研究費は1ケタ増えました。こうした一段階上の産官学連携をもっと増やしていきたいです」

Jイノベ選抜のメリットは「目立つ」こと?

ではこうした課題に対して、何も対策ができないままなのかと言えばそうでもないようだ。それは「Jイノベに選抜されるメリット」とも密接に関わっているという。再び各登壇者の発言を紹介する。

黒木(広島大学)「今回のJイノベも含めて外部から『こういう拠点があるよ』とPRしていただけていることもあり大学の中でも目立つので、全体の戦略としてもここを強化しようという流れにできているところもあります」

中田(JAIST)「JAISTでも文部科学省の概算要求で組織改革の費用をいただけました。また、2023年度に設置予定の『超越バイオメディカルDX研究拠点』は、経済産業省の補助金で設置できることになりました。Matching HUBなどの活動の応援もいただいています」

松山(神戸大学)「膜センターは日本で神戸大にしか存在しないこともあり、大学全体で5つあるコア研究のひとつに選んでいただき、また第4期の中期計画にも織り込んでいただき支援をいただいています」

遠藤(東北大学)「東北大学では2022年、国の政策と歩調を合わせて『半導体テクノロジー共創体』を立ち上げ、全学の多くのクリーンルームを用いて設計・試作・評価を一気通貫で行える設備体制を整え、現在更にチップ設計から各種ソフトウエア開発のための施設の建設が進んでいます。他大学にも開放していきますし、これからも企業との連携、国家的プロジェクトへの協力も進めていく姿勢です。他の研究機関とも連携しながら『前例がない』を超えて新しい制度・仕組みを創出していくマインドが研究者には求められると感じています」

海外の研究機関や企業をいかに開拓するか

モデレーターの大石氏はこれらの発言を受け「これまでの指摘は全ておっしゃる通りで、経産省、政府としての取組みがもっと必要だと思っています」と話し、経済産業省としては大学や研究機関が産学連携関連の取り組みできちんと収益を上げ、自立化しより自由な活動ができるための交渉力の部分でサポートできることがあるはずだと語る。

その取り組みのひとつとして、2016年に経産省・文科省が共同作成した「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を紹介した。2020年には産業界向けの処方箋を新たに体系化した「追補版」も公開されている。同ガイドラインは一言で言えば「Jイノベで選抜されるような産学官連携機関の作り方」が書かれており、知財管理やリスクマネジメントの方向性を記載したもので、「追補版」は具体的な企業との共同研究事例や、企業との交渉方法などが記載されている。

また大石氏は「皆さんが地域企業との連携を深めているのはよく知っていますが、海外企業との連携はどのように構築しているのでしょうか?」と質問。

Jイノベに選抜される拠点は「地域貢献型」、「国際展開型」のいずれかに分類されている。「地域貢献型」の拠点だからといって海外との接点が皆無なわけではないが、本シンポジウムに登壇した拠点のうち「国際展開型」として選ばれているのは、以下の3拠点だ。

・神戸大学 先端膜工学研究センター
・広島大学 ナノデバイス研究所
・東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター

大石氏の質問に対して、まず上記3拠点の登壇者が回答する。

松山(神戸大学)「当センターでは海外の研究機関16拠点と連携しています。毎年海外の研究者を神戸大に招く国際ワークショップも展開しており、国際共著論文の執筆や留学生派遣、海外研究者の受け入れなどは顕著に増加しています。そうして構築した関係を通じて海外企業との連携にもトライしていきたいですが、まだ少なくない課題も存在します。実際、共同研究のオファーを出して試みたこともありましたが、知財部門との契約がややこしかったり、その割に研究費が低く話がまとまらなかったりといったことも正直ありました」

黒木(広島大学)「ナノデバイス研究所では14の海外大学と連携しています。また広島大学の隣にはマイクロメモリジャパンというグローバル企業が立地し、また中国地域、備後地域に半導体企業が集積していることもあり、まちづくり的な側面も含めて連携を深めています。中国地域、備後地域の半導体企業は社長を筆頭にトップレベルに勉強熱心な人が多く、日頃から多くの議論を重ねており、そこから結果的にグローバルな動きができていると思っています」

遠藤(東北大学)「半導体業界はトップメーカーが海外で多く事業展開していることもあり、連携を考えると必然的に海外との接点が増えていくので、むしろいかに国内企業を巻き込んでいくかを意識しています。また当センターとして重要視しているのは、業界の川上から川下まで一気通貫のパートナーシップを結ぶことです。半導体業界のメーカーだけでなく、製造業やITの国内大手とも組み、トップダウンでバックキャスティングできる企業を巻き込む必要があります。私も企業出身なのでわかりますが、サプライチェーンの上下関係は非常に厳しいため、大きなマーケットを有するパートナーと組んでバイイングパワーを活かさねばなりません。現在では国内外60社以上と連携関係を組んでいます」

またこの話題に関連して、JAISTの中田氏、名古屋工業大学の江龍氏も「企業との連携をいかに増やすか」という観点からコメントした。

中田(JAIST)「本学の基本は大学側からの企業訪問です。地域企業は比較的規模が小さく、大学との連携経験も少ないことが多いです。そういう場合は私たちから直近の研究内容や、共同研究の進め方をしっかり話し、十分理解してもらうようにしています。研究者のシーズから出発するケース、企業ニーズから出発するケースは両方ありますが、企業ニーズからの方が、マッチングがしやすい部分はあります。研究者シーズはまだ基礎段階、あるいは少し応用できるようになったという状態であることも多いため、我々が間に入って社会実装、事業化までのプランをしっかり詰めていけるようにしていきます」

江龍(名古屋工業大学)「当機構では『科学技術相談』という取り組みを行っています。初めて名工大にアプローチする企業は無料です。『こういう分野で何かやれないか』といったような漠然とした段階でも歓迎です。とはいえ先生方には対応の時間を取ってもらうことになるため、対応いただいた方には研究費として謝礼を渡す仕組みも整えています。他にも大学として年度予算を組んで、人件費や活動費、各種装置の運転・修理・更新といった用途に対して機動的にお金を使えるようにしています。こうした地道な活動の積み重ねが重要なのではないでしょうか」

研究機関は民間企業との連携を望んでいる

また、シンポジウムの最後には今後の展望に関するコメントが各登壇者から語られた。

遠藤(東北大学)「我々も含め各拠点に自分なりのスタイルがあるかとは思いますが、そのままでいるだけではいつしかマンネリ化したり、悪いところがわからなくなってしまったりすることもいずれ起きかねないと危惧しています。常に他大学と連携して外の空気を吸う、産業界と連携して外の血を入れるなど常にオープンな存在でありたいと思っています」

中田(JAIST)「今後は大型外部資金の獲得も当本部のリーダーシップで進めていきたいと思っています。Matching HUBや北陸RDXの取り組みも引き続けてまいりますので、皆さんぜひ一度Matching HUBにお越しいただければと思います」

江龍(名古屋工業大学)「私は副学長になった時に起業しましたが、工科系単科大学の野望として、今後各教授ないし研究室が必ず起業している状態に持っていきたいですね」

松山(神戸大学)「膜の最新技術を活用すると社会のさまざまな分野で省エネを進めることができます。まさにカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーといったキーワードに直結したテーマです。従来は水処理、CO2分離などが応用の大きな分野でしたが、今後は化学プロセスの蒸留塔を膜分離で置き換えたいという夢を持っています。蒸留塔のCO2排出量は日本全体の排出量の数%を占めていますが、膜技術を使えば100分の1以下にできます。加えてバイオメディカルの分野にも入っていきたいですね。神戸は医療都市。ポートアイランドに病院が集結していますし、海外製薬企業もどんどん入っているので医療分野との連携が重要です。『バイオメディカルメンブレン』をキーワードに研究を進めています」

黒木(広島大学)「我々が目指すのはラディカルなイノベーションです。今までにない革新的なものを作っていきたい。そのためには大きなビジョンを持ち、世界がどうなるかも考えていきたい。研究所はこじんまりしていますが、その分研究者同士が密なディスカッションを重ねておりその輪を広げていきたいです。研究者は知識をより広く探索し、さらに深化させることに喜びを感じる人たちです。今後ともよろしくお願いいたします」

なお、Jイノベは今年4月(令和5年度)から3つ目の区分として「プラットフォーム型」が始動する。選抜された拠点は企業との共同研究施設、インキュベーション施設やオープンイノベーション施設などの整備に関する支援を受けることができる。初回は全8拠点が選抜されており、そこには今回の登壇拠点の中では広島大学、JAIST(そして別機関であるが東北大学)が名を連ねている。

産学連携の重要性が叫ばれて久しいが、その取り組みはまだまだ道半ばだ。一般的には「大学のしかも研究室に相談に行くなんて敷居が高いな…」と思われている部分もあるかとは思うが、少なくともJイノベで選抜された27拠点は全て訪問を歓迎してくれる。新たなイノベーションの実現や、地域課題の解決を進めるべく、今後も「産学融合」の発展を期待したい。


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