因果関係が逆になってしまったゲーム規制条例
三原聡子氏
ーー ゲーム障害の原因はどのようなものが多いのでしょうか?
三原:原因はさまざまありますが、人間関係や親子関係など社会生活に何か問題があり、そこから目を背けるためにゲームに逃避した結果依存状態になってしまった、という方も多くいらっしゃいます他の依存でも同じような傾向がありますね。学校での人間関係がうまくいかないとか、いじめに遭っているなど、学校に居場所がなくなってしまい、家ですることもないのでゲームをしているうちに依存になってしまうというケースも、多いと思います。
ーー 香川県のゲーム条例に関して、大山一郎議長(条例可決時)は北海道新聞の取材に対して「小学生の娘が友人たちと部屋に閉じこもりテレビゲームに没頭するのに驚き『ゲーム脳』を勉強し、問題を提起してきました」と語っています。この「ゲーム脳」は、テレビゲームをやり続けると大脳の前頭前野の活動が低下し、学習障害や発達障害の原因になったり、子供がキレやすく反社会的になったりする、という説です。「ゲームをすること自体」が諸悪の原因なので規制した方がいいというロジックだと思うのですが、先ほど三原先生がおっしゃったお話を聞くと違和感を覚えます。
三原:条例の根拠や、「ゲーム脳」が、ゲームをすること自体が諸悪の根源としている論なのかどうかは私は存じ上げません。ただし、医学的にはゲーム障害が原因で学習障害や発達障害になるということはありえないです。元々生きづらさを抱えていて、例えばADHDの人は興味あるものに過集中してしまうとか、衝動性があって自分をコントロールできないということがゲーム障害に繋がることはあり得ますが、その逆はありません。脳細胞が死滅するとか、神経細胞に悪影響があるという論文はあるものの、ゲーム障害が原因で発達障害になるということはないです。
ーー 因果関係が逆になっているんですね。ゲーム障害の原因・症例に幅がある上で、一般論として一律な時間制限を設けることに効果はあるのでしょうか?
三原:依存行動の一つとして「コントロールできなくなる」ということがありますし、長時間ゲームをすることで快感物質が出続けることで依存が成立するというメカニズムがある以上、予防的な効果はあるのではないかと思います。
ゲームをプレイすることが常態化すると、ゲームを止めるとイヤな気持ちになる離脱症状が出るという問題もあります。
ーー 家庭で話し合って「今日は1時間にしよう」というように決めていければ理想的ですね。
三原:そうだと思いますし、そういったコミュニケーション自体が一番の予防にも治療にもなります。ただ、例えばADHD傾向の子はそういったルールを守ることがとても難しいですし、すべてを家庭内の問題にしてしまうことも、一方で危険だと思います。
現実問題として、ゲーム機を持っていないと学校で友達ができないというような状況もありますし、単純に家庭でゲームを禁止すれば解決するということでもないですよね。ともすると「家庭の問題なので学校が関知しない」、「家庭では決められないから法制度を作ってほしい」など責任の押し付け合いになってしまいがちですが、家庭と学校と行政がうまく協力し合って解決に取り組んでいくことが必要です。
ーー ゲーム障害の兆候はどういったところに出るのでしょうか?
三原:まずお金にしろ時間にしろ、優先順位でゲームが1番になってしまうことですね。家族で外食に行こうと言ってもゲームをやるから行かないだとか、ゲームのせいで約束が守れなくなるだとか。予防であり治療という意味では、ゲーム以外のストレス発散方法をいかに確保するかです。これなら自信を持ってやれるということを持ってるかどうか。依存状態になった人を回復させるためには、ちょっとでも他のことに興味を持ってもらうことから始まります。
ーー しかし、今は公園でも野球・サッカーなどが禁止になっていて、子どもがゲーム以外で遊ぶこともなかなか難しいですよね。
三原:子どもの遊びに関する研究者は、「子どもがちょっとでも騒ぐと親が周りからすごく白い目で見られる、怒鳴られることがあって、大人しくさせるためにスマホやゲームを与えてしまう」という問題を指摘しています。貧困家庭でも、無料のスマホゲームなら子供に与えることができる。こういった社会構造の問題でもあるんです。
自分の子どもがゲーム障害だと思って治療に連れてきてくれるケースは、まだ良い方なのかも知れません。「うちの子はゲームさえさせておけば大人しいから手がかからない」と思っているうちに依存が進行してしまうような、見えない事例も結構あるのではと思っています。
久里浜医療センターのホームページにゲーム障害に対応できる医療機関のリストを載せているので、依存の可能性があればまずそういった医療機関に行ってみるのが良いと思います。
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