EVENT | 2020/09/18

星野リゾート「マイクロツーリズム戦略」が好調。稼働がほぼ昨年水準まで回復する中、秋冬の見通しを星野代表に訊く

コロナ禍で最も大きな打撃を受けた産業の1つである宿泊・観光業界。
星野リゾートはかなり早い段階から生き残り戦略として「...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

「休日前の平日」テレワークが認められればより大きな需要喚起になる

「星のや軽井沢」にある棚田テラスでのワーケーション風景

―― 星野リゾートでは、5月頃から全国の施設でマイクロツーリズムの考えを実践する宿泊プラン・アクティビティを多数販売開始しました。そうした中で「これはすごく好評だった」、あるいは「ニーズがあると思ったものの大ヒットではなかったな」というプランもあったかと思うのですが、その辺りはいかがでしょうか?

星野:細かな差異はあったかもしれませんが、私のところに集まってくる全体の経営データとしては全体的に好調で「あまり上手く行かなかったプラン」はありませんでした。

ただ、地域ごとの差はもちろんあります。北海道・沖縄・東京の戻りはやはり遅いです。そこには対策を考えていかなければいけない。

―― いくつか拝見する中で、例えばOMO5東京大塚の「お部屋ではしご酒!?夜通し居酒屋プラン」は使ってみたいなと思いました。ホテルを取って夜遅くまで飲みたいと思っても、今は多くのお店が22時までに閉店してしまいますし、時間を気にせずしかもホテルで楽しめるなら最高だなと。

星野:あのプランは東京在住の人にかなり好評で、金・土は完売が続いています。私はあまり飲まないタイプなので、なぜウケるかわかりませんでしたが(笑)、スタッフは「飲んだ後に帰宅する必要がないというのは価値なんです!」と言います。

―― また、「リゾナーレ八ヶ岳」などでのワーケーションプランも気になりました。

星野:これも結構反響がありました。ただ実践する中で課題も見つかってきていて、「ウェブ会議はラウンジスペースではできないから個室がほしい」「壁・背景が素敵すぎると会社の人から文句を言われた」という要望が結構寄せられていて。

―― 「こいつだけ遊んでいるのが気に食わない」と(笑)。

星野:「自宅っぽく見える背景」なんかも選ばせてほしいと(笑)。それらの声を受けてテレワークボックスを10月1日から導入しようと動いています。リゾナーレ八ヶ岳からスタートして、もし反応が良ければ他に展開していきたいと思っています。

――テレワークプランはどんな層が使っているんでしょうか?

星野:リゾナーレの場合は元々の客層もあり、子ども連れが多いです。アクティビティも色々あるので子どもはそちらで遊んでもらいつつ、昼間は1人だけでちょっと仕事をしようというスタイルです。今は自宅以外でもテレワーク出勤を認める企業もありますから、家族サービスと仕事が両立できる。

テレワークのすごさは、今まで「休日か、仕事日か」を白黒はっきり決めてきた中で、これからは休日なんだけど出勤できる、仕事日だけど観光地に滞在しているということが可能になるということです。それはアフターコロナの大きな変化だと思います。

―― 今後、「場所に囚われない働き方・暮らし方」のようなものがより広がっていくために必要なことは何だと考えますか。

星野:今、星野リゾートが運営している温泉旅館、リゾートの現状と「場所に囚われない働き方、ワーケーション」はまだ差があると感じています。まずはショートステイが根付くところから始める必要があります。

そして社会的には「土日・祝日前後の平日にテレワークが認められる」ようになるとより大きな需要が喚起できると思います。木曜日にポツンと祝日があるようなことが年に何回かありますが、間の平日にテレワークが認められれば延泊日数が伸びる可能性もある。これが最初の取っ掛かりとしては一番大きいと思っています。

「隣接県への移動」はマイクロツーリズムに不可欠

―― 星野リゾートが提唱するマイクロツーリズムを後押しするようなかたちで、各自治体でも「県民限定割引」のような施策がスタートしています。実際にはどんな層の人が旅行をしているのでしょうか。

星野:1~2時間圏内ぐらいの場所に住むカップル・夫婦が多いです。そしてエリアとしては近隣の県をまたいでいることが多いです。

―― それは同じ県内から訪れる人よりも多いということでしょうか?

星野:はい。「同じ県内だけ」という一律の考え方は商圏を大きく分断してしまいます。

例えば長野県で考えますと、志賀高原や白馬あたりは新潟に近いです。だからそこと連携した方がいい。一方、南の伊那、駒ヶ根あたりは中京圏で名古屋の人が来ます。伊那市は長野県内ですが、半分ぐらいの人が読んでいる新聞は中日新聞です。軽井沢は群馬県と長野県の県境近くにあって、県境を超えた反対側に高崎市や前橋市があります。ここを分断して「長野県民は長野県内の旅行を」と言われても十分なマーケットにはなりません。

県をまたぐ移動の自粛が緊急事態宣言の時に発信されましたが、もう少しきめ細かい、商圏単位で自粛をかけてもらいたいです。岩手県の人に青森県内への旅行を自粛させる必要はないと考えています。岩手は長らく感染者がゼロでしたし青森も少なかった。青森・秋田・岩手もまた1つのマイクロツーリズム商圏です。鳥取・島根もそうです。米子市は鳥取にありますが、玉造温泉は鳥取寄りの東にあるので米子からのお客様も多いです。

次ページ:世間の3割は、旅行に行ってもいいのかどうか迷っている