EVENT | 2020/09/18

星野リゾート「マイクロツーリズム戦略」が好調。稼働がほぼ昨年水準まで回復する中、秋冬の見通しを星野代表に訊く

コロナ禍で最も大きな打撃を受けた産業の1つである宿泊・観光業界。
星野リゾートはかなり早い段階から生き残り戦略として「...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

コロナ禍で最も大きな打撃を受けた産業の1つである宿泊・観光業界。

星野リゾートはかなり早い段階から生き残り戦略として「国内の、近隣客の旅行を推奨しよう」というマイクロツーリズムを提唱し、GW頃から全国の施設でそれを体現する、地元の魅力を再発見するようなアクティビティ、食事などを提供している。

夏休み突入と同時にスタートしたGo Toトラベルキャンペーンはプロセスの不透明さもあって非難轟々の開始となり、「この時期に旅行するなんてもってのほかだ」という風潮も根強いが、8月に旅行サイトを検索してみると1泊1万円以上の宿は比較的埋まっているようにも見えた(逆に都市部のビジネスホテルは東京でさえ今まで見たことのないほどの低価格になっていたが)。

星野リゾートはどうかと聞いたところやはり好調で稼働率もかなり回復してきたものの、東京・沖縄・北海道では未だ苦戦する施設もあるという。これから迎える秋冬シーズン、そして延期されたオリンピックもある来年以降の見通しを星野佳路代表にうかがった。

聞き手:神保勇揮・米田智彦 構成・文・写真:神保勇揮

8月には稼働率がかなり回復、しかし東京・沖縄・北海道は相変わらず厳しい

―― まず、7~8月の夏休み期間の稼働率はいかがでしたか?

星野:4、5月は酷かたですが6~7月には少し良くなって、8月には当社が運営する45施設中、4分の3ぐらいは昨年並みにまで戻ってきました。東京・沖縄・北海道はまだ落ち込んでいます。感染拡大と予約・キャンセルのペースはデータで見ると相関度が非常に高く、感染拡大期には予約が減り、緩和期にはまた戻ってきています。

―― Go Toキャンペーンの影響はどうでしたか?

星野:星野リゾートでは施設の予約が2~3カ月前に行われることが多いので、8月までの業績にはあまり影響がありませんでした。ただ9~11月以降の予約ではある程度の比率で入ってきていますね。

―― 年間3000万人以上訪れていた外国人観光客が、実質ゼロになってしまった影響はどの程度ありましたか?

星野:日本の観光産業規模で考えると、インバウンドによる消費額の割合は実は未だにそこまで大きくありません。外国人観光客による消費は年間4.8兆円程度で、今でも全体の17%に過ぎません。

まずすべきことは「日本人の国内消費をどれだけ戻せるか」ということであり、私たちが近隣地域での旅行を推奨する「マイクロツーリズム」を進める理由です。加えて国内には旅行代理店以外にお金があまり落ちなかった「海外旅行する日本人」がこの間は国内旅行に切り替える可能性も十分考えられます。

2019年の訪日観光客(インバウンド)の数が3000万人で消費額が4.8兆円ですが、一方「日本人の出国者」は同じく19年に2000万人を超えています。海外旅行する日本人の旅行消費額はざっくりと計算をすると3兆円ぐらいはあると考えています。インバウンドの4.8兆円は失っても、海外旅行する日本人の3兆円は国内に戻ってくる可能性もある。そうなると純減は1.8兆円、全体に占める割合は7%ぐらいでしかないです。

私たちの施設で言うと、例えば「星のや京都」は全体の半分がインバウンドのお客様でした。4月からマイクロツーリズムを訴え販売チャネルを変え、魅力や商圏をつくって対応してきたところ、7月では前年比75%ぐらいまでの稼働率に戻すことができました。単価を落としてはいないので、赤字にはなっていません。

一方、浜松のそばにある舘山寺(かんざんじ)温泉の「界 遠州」という施設だと、2019年でもインバウンドは4.3%しか来ていませんでした。この状況下で「首都圏からのお客様は減るだろう」と見込んでいましたが、7月の全体の稼働率はそんなに減りませんでした。マイクロツーリズムに注力した結果、むしろ昨年よりも稼働率が高くなりました。

―― そうした状況の中で、星野リゾートの「キャンセル料」に関するお考えをうかがいたいです。特に感染拡大が広がり先行きの不安も大きかった今年前半について、規定通りのキャンセル料を取るか取らないかのスタンスが各企業で分かれました。星野リゾートでは宿泊21日前以降は引き続きキャンセル料を徴収する(早割のみ予約時から100%)という従来からの制度を踏襲してします。

星野:まず、キャンセル料を取ることそのものについての考えをお話しすると、「宿泊日直前まで稼働率が低いと安くなる」という風潮を止めたいと考えているためです。直前に予約をした方が安いと早めに予約してくれた方のメリットがなくなってしまいます。

一方、早割を利用して下さる人がキャンセルしてしまうと値崩れが起こってしまうので、「安くなっている分だけ、キャンセルしないで下さい」という考えのもと、通常価格の予約よりも厳しい設定をしています。これがコロナ禍を経てどうだったかということは、正直まだあまり検証できていません。

―― 7月頃に東京や沖縄などで感染者が再拡大していた時に、星野リゾートさんでもキャンセルが多数あったそうですが、そうした中でキャンセル料もかかってしまうとなると、予定通り行くのかキャンセルするのか、その辺りの傾向はいかがでしょうか。

星野:来てくださる方は多いです。私たちも安心してお越しいただけるように、十分な対策をしてお迎えしています。

次ページ:「休日前の平日」テレワークが認められればより大きな需要喚起になる

next