CULTURE | 2020/06/17

コロナと戦うデータサイエンスと“その先”の展望 宮田裕章(慶應義塾大学医学部教授) 【連載】テック×カルチャー 異能なる星々(14)

加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索する新時代の才能たち...

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未知の感染症に直面した、“デジタル化後進国”日本の実態

ーー こうしたデータの利活用において、日本は世界の中でどのような位置を占めているのでしょうか。先日も、医師が保健所へ提出する新型コロナウイルス感染者の「発生届」が、なんと用紙に手書きのFAXで、それを手入力で集計していたことが問題になりました。

宮田:残念ながら、デジタル化に関して日本は圧倒的に後進国と言わざるを得ない状況です。例えば、世界のクラウド市場はアマゾン(AWS/Amazon Web Services)とマイクロソフトがシェアの過半数を占めていますが、彼らいわく、2000年代に日本が本気で力を注いでいれば出る幕はなかった。でも日本企業はものづくりの勝ちパターンにこだわり、スタンドアローンのCPUのパフォーマンスを高めることに研究費を費やし、個別の端末の機能を抑えながら遙かに高効率な運用ができるクラウドの可能性を見過ごす形になりました。既存の過当競争の中で1位を目指すのではなく、より広い視点や発想で新しい枠組みを作り出していく姿勢が、今こそ求められていると思います。

ーー 宮田さんの研究は、まさにそうした分野横断的な姿勢や新たな発想が求められる領域だと思いますが、この道へ進むこと決意されたきっかけについて教えてください。

宮田:十代の頃の話ですが、「社会全体をよりよくするために何をすべきか」という大きな目標からブレイクダウンして、一つの分野にこだわらず、何でもやっていこうと考えたことでしょうか。大学時代もいろいろなゼミに出入りをして、医学だけでなく法学、社会学、情報学、理工学など多分野の知識を取り入れようとしましたね。

ーー 個別の手段ではなく、社会システム全体で物事を見通す視点にもつながるお話ですね。その観点から、2月初旬に横浜へ寄港した「ダイヤモンド・プリンセス号」の船内で感染が拡大しつつあった当初の状況を、どのようにご覧になっていましたか。

宮田:これまで携わってきたのは非感染症分野が中心だったこともあり、最初の頃は動向を見守る心づもりでした。日本の従来の感染症対策は主に水際での封じ込めと、超急性期に重症例患者をどう治療するかという二つの点に絞られており、これはSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)、エボラ出血熱には有効な対応です。ところが、「ダイヤモンド・プリンセス号」や中国での感染実態が判明するにつれ、PCR検査数を絞ってきた日本のやり方では、市中感染のフェーズに入ってしまうと把握している陽性患者の外側の情報が見えなくなり、打てる手が限られることが予想されました。厚生労働省の友人たちが日々発生する新たな問題のカウンターリアクションで手一杯になっていく中で、自分にできることをしたいと思い、別働隊として有志のプロジェクトを立ち上げた次第です。

LINE公式アカウント「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」の分析結果(4月24日公表)

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