第3回/デザインの手法―1(全7回)
販促空間の「壁面グラフィック」の手法。第3回となる今回は、より具体的にデザインの考え方について説明を行っていこう。これまでの連載の中で、壁面グラフィックは2次元の「チラシ」とは考え方が異なるという点。そして、そのデザイン手法には、3つの方針があることを説明してきた。本連載のテーマは空間系グラフィックの特徴を解説することなので、一般的な「グラフィックデザイン」の領域で語られる、「タイポグラフィ」や「レイアウトの極意」と言った細かなノウハウを説明することは割愛する。このような項目はもちろん空間のグラフィックにおいても必要な手法となるので、ご興味のある方は、書店に様々に出ている「グラフィックデザイン」の書籍を参考にしてもらいたい。本連載では、それら一般的なグラフィックデザインの考え方と、「販促空間における壁面グラフィック」がどのように違うかを解説することが大きな目的となる。そしてこれらの項目は、グラフィックデザインの専門家に向けてではなく、むしろ専門としていない人に、空間系グラフィックの特徴を理解してもらうために説明をしている。グラフィックデザインの専門の方には、このような観点から一般論的な表現も多くなることをご容赦いただきたい。
壁面グラフィック検討時にまず知っておいてほしいこと。
さて、壁面グラフィックを検討する際に、まず知っておいてほしいのは「文字組み」だ。これは、2次元のデザインだけでなく、壁面デザインにおいても当然大事な要素となる。「文字間」と「行間」をどのように設定するか。これにより、グラフィック全体の印象は大きく変わる。ただ文章を書き込むだけでなく、文字と文字の間はどのくらい空いていれば読みやすいのか、そして行間はどのくらい空いていれば印象がいいのか、などを様々に試してもらいたい。この「文字組み」にこだわって丁寧に整えるだけで、まずは格段に印象のよいデザインにすることができる。これだけではないが、「文字の組み方がデザインの印象を左右する」ということを最初に覚えておいてもらいたい。その上で、今回の本題となる、壁面グラフィックをどのようにデザインするかについてお伝えをしていこう。
デザイン要素を抽出する
具体的な壁面グラフィックを検討するためには、まず準備段階として記載する内容の選定が大切になる。ほとんどの場合、記載する面積には限りがあるため、何を書けば「伝わる」のか、その優先順位を考えなければならない。前回の記事において、壁面デザインには3つのデザイン方針があることを述べた。その中で、来場者に「読んでもらう」TYPE-A、そして「説明をするための壁面」TYPE-Bについては、詳細を第5回の記事にて解説を行いたい。ここで、少々強調してお伝えしたいのが、デザイン手法のTYPE-C、「デザイン要素を入れる壁面」だ。この「デザイン要素」として何を入れ込むかを、デザイン検討を始める段階で抽出しておくといい。これらはブースの印象をつくるための「デザイン要素」であるため、内容に関しては、さほど深く考える必要はない。私の場合、何らかの英文・英単語を入れることが多いため、出展社のHPなどを参考にしながら、関係しそうな単語を拾い出すようにしている。具体的な例として、HPアドレスや会社名・住所の英語表記がある。その他、重要な文を英語化したもの、経営者の言葉や会社の理念を訳した英文などもデザイン要素として掲示できる。このような、デザイン要素を事前に抽出しておくと後々デザインを作り上げる際に楽になる。是非試してもらいたい。
「高さ」と「距離」によってデザインを分けて考える
デザイン要素の抽出が終わったところで、具体的なデザインの作業に入っていこう。空間系グラフィックにおいて最も重要なポイントが、「高さ」と「距離」によってデザインを使い分ける、という点だ。空間においては、人は移動するが、空間そのものは動くことはない。つまり、人と壁面グラフィックの距離は「常に変化をする」ため、どの位置から見るのかによって文字のサイズなどを変えなければいけない。さらに、展示会の場合、来場者の立ち位置によって、伝えるべき内容は異なる。このブースからの距離と壁面の高さ、そして来場者に伝えるべき内容の関係性を知っておくことが、展示会等「販促空間」において結果を出すために重要なポイントとなる。
では、具体的に考えてみよう。会場において自社のブースの位置を確認したら、会場内のどの位置からなら自社ブースが見えるのかを確認するといい。そして、来場者に「はじめに伝えるべきこと」を遠くからでも読めるように記載する必要がある。来場者にはじめに伝えるべきことはほとんどの場合、「何を扱っているか」という表記だ。知名度のある企業なら、もちろんそこには会社名も入れることになる。では、ブースに近づいてきた場合はどうなるだろうか。ブースの目の前に来ると、壁面は来場者の目前になる。そのような位置ではブースの上部に記載した文字は基本的に見ることはない、と考えていい。わざわざ上を見上げることもあるだろうが、距離にもよるがブースの最上部はなかなか見えにくい場所となる。
このような距離と高さの関係を表したのが図1となる。基本的な考えとして、ブースから離れるほど、上部を見るようになり、そこにはその企業の大きな括りの情報を入れることとなる。また近づいてくるにしたがって、来場者は自分の目線に近い範囲の壁面を見るようになる。壁面の目の前、50センチ程度の場所だと、ほとんど目前の一部だけを見ることになるだろう。当社の場合、基本的な分け方として、ブースから離れた場所からのキャッチの言葉。ブース前の通路からブースを覗いたときに見える「壁面毎に書かれているタイトル(要旨)の言葉」、壁面の目の前に立った時に読む詳細説明、といった段階に分けて考えるようにしている。壁面グラフィックを考える際には、この高さと距離と記載内容の関係性について、細かく考えることが大切だ。
デザイン作業上の注意点
では、このように具体的なデザインを考えていく中で、陥りやすい失敗をいくつか挙げてみよう。これらは、展示会場には驚くほど多い光景となる。まずありがちなものが、壁面の前に商品が置かれた際に、壁面に書かれた文字と被ってしまう場合だ。壁面グラフィックのデザインを考える際には、目の前にどんなものが置かれるのか、そのサイズ、形状を正確に把握していなければいけない。来場者にとって、壁面は、前に置かれている商品と一体的に見えるものだ。当たり前のことだが、壁面デザインの作業中は意外にこのことを失念してしまう。前に何が置かれるかが決まっていない場合にはある程度の余白を事前に設けておくといい。同様に、壁面上部に照明器具が取付けらえる場合にも注意が必要だ。照明の取り付け幅を考慮せずにデザイン作業を行うと、大切な言葉が照明器具で隠れてしまったり、余白が無くなって窮屈な印象になってしまうなどして、ブースの印象を下げてしまうことがある。
さらに、イラストレーター(以下、イラレ)などで作業をしている方向けに一歩踏み込んだ注意点をお伝えしておこう。空間におけるグラフィックの特徴の1つは、作業時のスケールが異なる、という点だ。紙媒体の場合は、出力されるものと画面の中のデータには大きさの違いがそれほどはない。せいぜい1/2のスケール程度だろう。しかし、空間の場合、1/20、1/30、デザインによっては、1/100のスケールで検討することになる。つまり、実際には20倍、30倍に拡大されてブースに施工されることとなる。この「拡大」がかなり厄介なポイントとなる。よくあるものが、文字のサイズが実際に壁面に出力してみたら「想像以上に大きかった」という場合だ。PCの画面ではちょうどいいように見えたのに、出力してみると大きすぎたということがよくある。また、同じように図形や写真などを、端を合わせて丁寧に並べたつもりだったが、実際に出力されると、想像以上にずれていた、という場合もある。また、線の太さも想像以上に太かった、ということもある。空間系グラフィックを検討する際には、デザイン作業の途中で、頻繁に「原寸」で出力し、近くの壁面に貼り付けて見え方を確認することをお勧めする。
空間系の壁面グラフィックはこのように細かな事柄まで考え合わせながら検討を進めていくことで、印象のよいデザインが出来上がる。単に「デザイン要素を並べておしまい」ではなく、むしろデザイン要素を並べ終わってから、細部を調整することに時間を掛けなければ、印象のよい壁面デザインは生まれない。壁面グラフィックは是非「原寸」で細部まで確認をしてほしい。
以上、今回は実際に壁面グラフィックのデザインを進める上でのポイントについて解説を行った。次回は、もう少し踏み込んで、これらの壁面グラフィックに記載する文字について、特に「キャッチコピー」について解説を行いたい。
※本記事は月刊 「Signs&Displays」 で2025年2月号から8月号までに掲載された記事から転載しております。
連載:展示会デザイナーが伝える販促空間の「壁面グラフィック」の手法https://finders.me/series/kqJTU8QIxo5Tr4Qqiu0/
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