EVENT | 2021/07/12

ブロックチェーンに既存ビジネスは参入できるのか【連載】ブロックチェーンと暗号資産が切り拓く未来の世界(2)

Photo by Shutterstock
現在の暗号通貨は投資をするアセットクラスの一つだという認識が一般的ではない...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

既存ビジネスは参入できるのか?

これほど画期的なインフラを築いているブロックチェーンに既存ビジネスは参入できるのでしょうか。インターネットのモデルと対比して考えてみたいと思います。インターネットの初期の頃の環境と現在のブロックチェーンの状況は似ています。既存ビジネスが十分に収益化を計るには時間が掛かります。インターネットも最初のころはオタクや物好きな人しか利用していませんでした。その後、さまざまなビジネスモデルが誕生しては消えて、現在の形に至りました。インターネットはメディア業界全体に革新をもたらしましたが、当時の既存メディアであるテレビや新聞などはインターネット上で収益化するまでに15年以上かかりました。その間、ブログやSNSなどインターネットを通じて新しいメディアが台頭してきました。インターネットならではの誰でも何処でも発信できる新サービスが先行し、その後既存ビジネスがその環境に適応する形で参入してきました。DeFiの分野でも同じ現象が起きています。既存の金融サービスがブロックチェーンに適応する間に分散型の新しい金融サービスが台頭してきています。個人がいつでも何処でもメディア機関になれる技術がインターネットならば、個人がいつでも何処でも金融機関になれる技術こそブロックチェーンなのです。

既存ビジネスも数年後には、ブロックチェーンを利用したサービスを展開し収益化を実現するでしょう。フォロワーの多いインフルエンサーが今では多くの企業のメディア戦略の中核を担っているように、ブロックチェーン上の個人投資家たちが今後多くの企業の資本形成の中核を担っていくことになっていくと私は考えています。そして重要なのはインフルエンサーでありながら個人投資家でもある人たちが誕生することです。今まで以上に影響力を持つ宣伝効果と資本を併せ持つスーパーインフルエンサーを中心にビジネスを行うことがとても重要になっていきます。新しく台頭してきたブロックチェーンサービスを担っている有望な個人と既存ビジネスが手を組むことで飛躍的にビジネスを成長できるようになります。また新スーパーインフルエンサーと積極的に関わることで、ブロックチェーンサービスのノウハウを提供してもらえる可能性があります。そのノウハウを活かして既存ビジネスがYouTubeやSNSを使っているようにブロックチェーンの新サービスを有効利用できると考えています。

では、既存ビジネスが実際にブロックチェーン上で新しいサービスを作れるのか、事業者側の視点で考えてみたいと思います。

はじめに、DeFiの金融サービスはたった一人のエンジニアでも作ることが出来るほどコストが安いということ。誰でも作れる環境により大量に似たようなプロジェクトが立ち上がりサービス間の価格競争やユーザーの囲い込みがとても激しいことが挙げられます。

次に、現在の大半のDeFiユーザーは中央集権よりも分散型のサービスを好む傾向があります。これは多くのDeFiプロジェクトがDAOという完全に自立した無人のプログラムだけで動く組織構造を採用しているからです。Decentralized Autonomous Organization(自立分散型組織、通称DAO) とはサービスを提供している事業者が完全にプログラムのみで動いていて社長や社員などが居ない組織です。株主に相当するトークン保持者たちの投票により組織の方針を決めて運用しますが、組織の中に社長や社員など居らず事前に投票で決まったプログラムが日々の業務を行う組織です。

これによりステークホルダーたちによって完全に維持されるサービスが可能になりました。内部の人事や人間関係で業務のパフォーマンスが決まる既存ビジネスはDAOと比べてコスト面、運用面でも劣ってしまいます。もちろんDAOはハッキングリスクやまだ精査されていない問題点が沢山あります。しかしDAOは現在のマーケットトレンドです。DAOではない組織のサービスが今後ブロックチェーン上で安定して収益をあげるには厳しい逆風となっています。

最後に地図に載っていないブロックチェーン上の無人組織と、国という制約のもと事業を行う既存ビジネスでは法律という大きな足枷があります。現在ブロックチェーン事業を行うのに最も法整備が進んでいる国としてスイスやシンガポールなどが挙げられます。日本はもとよりアメリカですら暗号通貨やブロックチェーンに関する法整備が遅れているのが現状です。

「郷に入っては郷に従え」の通り、ブロックチェーンという国でビジネスを始めるにはブロックチェーンのやり方をまずしっかり理解することが重要です。現状ブロックチェーンでできることは少ないですが、革新的なビジネスのヒントは常に既存ビジネスの中に眠っていると私は思っています。日々の買い物をインターネットと融合させたAmazonは世界的企業に成長しました。情報を共有するインターネットとショッピングが融合することは今では当たり前のように思われています。金融を共有するブロックチェーンは何と融合するのか、まだ我々は模索しています。しかし近い将来私たちはそのサービスを当たり前のように使っているでしょう。既存ビジネスとブロックチェーンが結びつくとき、それは人々の常識が打ち砕かれ新しい生活を送る時代の始まりなのです。

ブロックチェーンはまだ私たちの普段の生活に馴染みがない単語ですが、インターネットと同じように毎日使うテクノロジーになります。ITリテラシーが高い国民がいる国からGAFAが生まれたように、ブロックチェーンリテラシーの高い国民が一人でも増えることで将来の日本のためにもなると私は信じています。多くの方がこのブロックチェーンを理解して生活に役立てることができるようにこの連載を通して世界一わかりやすくブロックチェーンの技術、思想について説明していければと思います。次回は、金融とアートの融合、DeFi x NFTについてお話します。


prev