EVENT | 2021/07/09

「テレワークは出社時より生産性が落ちる」説は本当か?約800名テレワーク企業のCROが語る「仕事の本質」【特集】進まない・続かないテレワーク 2021年の課題

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テレワークのメリットとは突き詰めれば「経営戦略上の優位性」である

Photo By Shutterstock

―― 石倉さんは「リモート環境に移行することのメリット」を何だと思いますか?

石倉:それは人それぞれだと思います。満員電車に乗りたくないというのも立派なメリットですし、お子さんが小さくて保育園に預けていますという人は、送り迎えを考えると時短勤務になりますよね。時短勤務が悪いというわけではないですが、現実問題としてキャリアが制限されちゃう会社も結構あるわけじゃないですか。そうした人が何も諦めずに仕事に挑戦できるというのも大きなメリットです。

また逆質問になっちゃうんですけど、「テレワークのメリットは何なの?」とよく聞かれますが、「じゃあオフィスに集まるメリットって何ですか?」と聞かれて明確に答えられる人がどれだけいるのか、とも思っちゃうんですよ。

―― あえて挙げるとすれば、オフィスには仕事を快適にする設備や機器が揃っている、特に意識しなくても同僚や上司の様子が目に耳に入ってきて社内の状況が把握しやすい、などでしょうか。

石倉:よく「みんなが集まると一体感が出ます」みたいに言うじゃないですか。でも、みんなが集まるだけで一体感が出ているんだったら、なんで日本はOECD諸国の中で社員のエンゲージメントが一番低いんですかとも思うわけですよ。

―― あとテレワーク反対派からよく挙がる意見としては「世界中の一流ワーカーが集うGoogleやIBMなどのテック企業はテレワークを止めてオフィス勤務重視に戻したし、コロナ禍を経てもなお、今年に入ってからオフィス復帰プログラムを進めようとしているじゃないか」というものがあります。

石倉:それもよく耳にしますが、ちょっと極論すぎる気がしますね。国も業界も企業規模もそれぞれ異なるのに、一律に考えようとするのは議論の前提が雑すぎるのではないかと。

その上で「Googleにもできないテレワークができているから俺たちはすごい」というのは違うと思いますし、「Googleにもできないんだから俺たちにできるわけがない」というのも同様に違うと思うんです。

―― では、石倉さんから見て「この部分をこういう風に運用するようにすればこんなに簡単に解決できるのに、なぜか皆やっていない」というところはありますか?

石倉:僕も全部見たわけではないので断言はできないですけど、一番はツールにしろ働き方にしろ「慣れていないだけ」なんじゃないかと思っているんです。Zoomで同僚や部下と話すのは対面とやっぱり違うといっても、友達や家族とはLINEで話すでしょうと思いますし、今は仕事上の連絡も結構SlackやFacebookメッセンジャーなどでやっているところもあったりするじゃないですか。プライベートでやれていることが、なんで仕事になるとやりづらいと言うんだろうということは改めて考え直しても良いと思います。

あとは去年の一時期、ある種のテレワークハイというか、ブームに乗ってちょっと試してみて「テレワークってこんな感じだよね」と話している人が結構いたじゃないですか。

―― 緊急事態宣言の非日常もあいまって、「オンライン飲み会をやってみたんだけど、あんまり面白くなかったね」みたいな話が結構ありましたよね。

石倉:ちょっとブームになったからやってみたというレベルではなく、IT企業とかスタートアップとか、僕の周りはもうそれが普通の日常になっているんですよ。そしてそれはそんなに簡単に崩れないだろうなとも思うんです。

そして僕はこれをコロナ禍前から言っているんですけど、これからの日本企業はどう考えても人手不足が慢性化します。中小企業にとっても重要な課題です。日本はこの約20年間で、会社数が130万社ぐらい減っているんですよ。一方で、女性、高齢者などの労働参加率の向上もあって就業者数自体は2013年からずっと右肩上がりで増えていました。つまり、マクロで見ると業績が伸びず、採用ができない会社がどんどん廃業・倒産し、競争力のある会社に人がどんどん流れているということは言えると思います。

事業を成長させるためには優秀な人が必要で、会社に通勤できるエリアの人だけを採用してやっていくのか、エリアに関係なく採用できた方がいいよねというスタイルでやった方がいいのかで言うと、後者のほうが圧倒的に有利なわけじゃないですか。そう考えると「どうやって場所を問わずに仕事ができるようにするか」ということが経営戦略上すごく大事なはずなんです。

―― そうですね。ただ一方で「そういった傾向が顕在化してくるのはもうちょっと先の話じゃない?」という雰囲気も感じます。

石倉:僕自身、長いこと人材業界にいるので言いますけど、例えば人材業界は求人広告だけで1兆円ぐらいの市場規模、人材業界全体で8〜9兆円くらいの市場規模があるんですよ。それくらい「採用」に対して、多くの企業が安くないコストを支払っているわけです。

それがただ「オフィス以外でも勤務できるようにする」というだけで、採用費をぐっと圧縮できる、採用スピードが早まる、良い人が採りやすくなるというゲームチェンジが起きるので、大きなメリットのはずなんですよね。

生産性が落ちたと感じていてもそれはオフィス勤務と比べて本当にそうだったのかはなんとも言えない、一方でテレワーク推進には明確なメリットがある。どちらの方が得か、僕は結果は明らかだと思っています。


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