顕在化しなかった社内の課題が「テレワークのせい」にされる
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石倉:テレワークに関するアンケート結果を色々と見ていると、7割ぐらいの従業員は賛成だし継続したいと答えている一方、管理職の人からするとやりづらい、戻したいという声が少なくないように感じます。それは恐らく今までのマネジメントスタイルが通用しないからなんじゃないかと思っています。例えば対面コミュニケーションなら雰囲気で察してくれていたのに、ちゃんと言語化しなきゃいけないから難しい、といったような。
僕は「コミュニケーションコストがかかる」という言い方をする人は苦手で、この人とは一緒に仕事ができないなと思ってしまいます。価値観も考え方も違う人に対して、しっかり話をしてコミュニケーションを取らなきゃ通じるわけがないんです。それをすることがマネジメント層の仕事です。今までは通じていた気がしていただけで、たぶん通じていないことはいっぱいある。
同じオフィスで過ごさなくなったことによって「一緒にいるから生じている、何となく仕事をしている雰囲気」もなくなり、ちゃんと部下が成果を出せるようにする、仕事が前に進むようなサポートをすることをできているかどうかがよりダイレクトに問われているということです。「激変が続くビジネス環境では自ら変化することが大事だ」と言いながら、自分の働き方を変化させられていない人は多いと思います。
―― 「テレワークなんかダメだ出社しろ!」というような保守的な人は置いておくとしても、「実際やってみたけれど何かしっくりこない、でも何をどうすれば良いのかも思い浮かばない」とモヤモヤしている人も少なくないような気がしているんです。
石倉:そうですね。でも、それはさっき言った通り、うまくいっていない要因を「テレワーク(場所がオフィスかそうでないか)」にしてしまうと絶対に解決しないと思います。
例えば「テレワークになったことで同僚間、上司・部下間のコミュニケーションが取りにくくなった」という話がよく上がりますが、そのチームが本当にこれまでコミュニケーションが取りやすかったのかはわからないわけじゃないですか。「テレワークで◯◯が上手くできなくなった」のほとんどは元からできていたのかというと疑わしいと思っています。
でも「それが上手くできているというのは具体的にどういう状態なのか、何をどうすれば達成できるのか」を考え実行に移すのは大変なので「テレワークするからダメなんだ」という結論にしてしまった方が楽だという。
―― 確かに「テレワークじゃないと絶対に働けない」ぐらいの状況になれば皆本気で考えるでしょうし、実際に最初の緊急事態宣言の時はそうなったと思うのですが、どちらでも選べるとなるとどうしても慣れた方法への揺り戻しが起こってしまいますよね。
石倉:テレワーク環境の中で試行錯誤して、どんどん成功例が出てきたり、慣れてきてより良い働き方に進化できたりするようになるのが一番良いあり方だと思うんですが、その良さを発見する前に止めてしまっているところが多いんじゃないかという気がしています。人が何か変化をしたい、それをそのまま続けていきたいと本気で思うためにはメリットが必要ですし。
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