「ライバルはフォートナイト」
今、ビデオゲームは映画と同じように、年齢も、国籍も問わず、あらゆる人間に親しまれるメインカルチャーになっている。ゲームをテーマに映画を作るのは、ごく自然なことだ。特に映画という領域で、ストリーミングという形式で文化そのものを変革しようとするNetflixが、このコラボレーションを試みないはずがなかった。
『ドラゴンズドグマ』 、『ウィッチャー』 、『マインクラフト: ストーリーモード』 、『悪魔城ドラキュラ -キャッスルヴァニア-』 、『カルメン・サンディエゴ』。
いずれも世界的に人気のあるゲームだが、実はこれらすべて既にNetflixで映画化されている。それに加え、『ハイスコア ゲーム黄金時代』や『リーグ・オブ・レジェンドの原点』といったNetflix名物のドキュメンタリーシリーズでもゲームを取り上げており、今後は有名ホラーゲームの『バイオハザード』、 独立スタジオの注目株『返校』 、2020年最大の注目作『サイバーパンク2077』 、フランスの人気暗殺者ゲーム『アサシンクリード』の映像化が予定されている。今Netflixは、怒涛の勢いでゲーム原作映画の製作に取り掛かっており、しかも好評を得ているのだ。
なぜNetflixはここまでゲーム原作の映像化にこだわるのか? そのヒントは2018年の株主総会にある。NetflixのCEO、リード・ヘイスティングスは株主を前にしてこう話す。「我々が戦っているのは(DisneyでもHBOでもなく)『フォートナイト』だ(そして既に負けている)」と。
『フォートナイト』はEpic Gamesの人気ゲームタイトルで、2020年には3億5000万人のユーザーを突破したとされる。またこれらのゲームはGaaS(Game as a Service)といって飽きない限りずっと続けて遊べるよう設計されている。さらにゲームを実況・配信する文化がYouTubeやTwitchで生まれると、実際にプレイせずとも広い意味での「ゲームを楽しんでいる層」が広がっていった。
FORTNITE公式サイトより
こうした「サービス化されるゲーム」は『フォートナイト』だけではない。3人のチームで最後まで生き残りをかけて戦う『Apex Legends』はそのスピーディな戦いが評価され2019年10月に7000万人のプレイヤーが接続するなど、ゲームそれ自体も大きな人気を博したが、何よりも動画・配信が大いに強いタイトルでもある。配信技研によれば、2020年10月で最も視聴されたゲームとして、『Apex Legends』は『あつ森』や『Minecraft』を抜いて堂々1位を獲得した。今やゲームは「遊ぶ」だけでない、「観る」時代でもある。
コンテンツ帝国たるNetflixにとって、最大の競合はどんな映像プラットフォームでもなくゲームという他業種なのだ。こうしたゲーマー層を映像の魅力の虜にしてしまえ、という実にストレートな戦略がNetflixにあると考えられる。
中でも、2019年12月から配信され始めた『ウィッチャー』は、Netflix作品において最もシーズン1が視聴されたドラマになるなど、極めて評価が高い。元々、ポーランドの作家、アンドレイ・サプコフスキの小説を原作に、同じくポーランドのゲーム・ディベロッパーであるCD Projektが『ウィッチャー』としてゲーム化したところ、ポーランドのみならず全世界で高い評価を得た。その経緯もあり、ドラマ版『ウィッチャー』は小説版の短編集を元にしながら、細かな世界観、デザイン、アクションなどはゲーム版を踏襲してオリジナルの映像を目指すという、贅沢な座組で作られている。例えるなら、小説版という親に対して、ゲーム版の兄、そしてドラマ版の弟といった具合だ。
Netflix公式サイトより
紛争の絶えないヨーロッパに似た風景を舞台に(言うまでもなく、各国に分断され続けたポーランドの歴史を少なからず反映した痛烈な世界観だ)、モンスター退治のみを請け負う「ウィッチャー」という存在の孤独が浮かび上がる本作。原作で表現されたダークファンタジーが十全に再現されている。一方で恐ろしいモンスターや敵の剣士たちとの殺陣、そしてヘンリー・カヴィル演じる主人公・ゲラルトのシブいながらもユーモアを感じさせる伊達男ぶりは、ゲーム版の魅力がしっかりと引き継がれている。総じて、ドラマとして極めて完成度が高く、来年2021年に公開が予定されるシーズン2に関しても期待の声が大きい。
次ページ:これからは「インタラクティブ・ドラマ」にも注目