CULTURE | 2020/04/21

大混乱を招いた「一斉休校」から1カ月半、現役中高教員はどう対応しているか|矢野利裕


矢野利裕
批評家/ライター/DJ
1983年、東京都生まれ。批評家、DJ。著書に『SMAPは終わらない』(垣内出...

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既存のセオリーが通用しない環境で何ができるか

ちなみに、人に向かって話すのが好きで、ラジオパーソナリティに憧れて、紆余曲折して、結果的に教員になったような筆者としては、講義形式は望むところではあります。あるいは、音声に特化したラジオ講義形式がいいのか。試行錯誤中です。

現在は、緊急事態宣言が解かれる5月頭の再開を念頭に置いて、すでに学校で発行しているメールアドレス宛に3週間分の課題を出している状態です。他教科ではGoogle Classroomを通じて、簡単な復習問題をテスト形式で問うていたりもします。新しい学習領域に入るというよりは復習メインとなっているという意味では、正直、この1カ月の埋め合わせという意味合いも強いでしょう(もっとも、年度替わりで行事の多い4月は、例年試運転的な位置づけになります)。

このあたりは学校や教員によってもかなり差があり、私自身は論文指導系の受け持ちが多く、今すぐにでも講義系の授業を始めなければならないわけではない、という事情もあります。じっさい、勤務先でもすでにオンライン授業を始めている科目・教員もいます。

それでも正直、5月頭から再開がどれほど実現可能か心もとないところで、5月以降も再開されないとなれば、ほとんどの教員が「新しい学習領域をオンライン授業で行う」ことが求められます。そのようなリアリティの中、各教員が急激に動画編集スキルをアップさせています。口コミレベルの話だと、少し話題になったZoomにおけるセキュリティの問題は早くから指摘されており、使用には慎重になっています。周囲では、すでに教育現場では普及しているGoogle ClassroomやGoogle Meetを使っている例が多いです(いち企業が教育のインフラをほぼ一手に引き受けることの是非はほとんど議論されていません)。

これもよく聞く話ですが、「動画は最大でも15分!」という鉄則があります。人によってさまざまだと思いますが、こと授業という点においては、人(キャラクター)が前面に出るよりは、パワーポイントの画面が前面にあって、授業担当者はワイプ程度の方が集中できるとの噂。先ほども言ったように、ラジオ好きで放送大学の講義も好んで聴くような筆者は、手元に教科書・ノート・資料を置かせて、音声のみの授業を考えています。ICレコーダーで録音して、Classroomに音声ファイルをアップする感じ。気が散るのを防ぐために、むしろ画面を排するという方針もしばしば聞きます。

本当は、ワークシートかレジュメをプリントアウトできればいいのですが、プリンタがない家は多く、ここにはハードルがあります。在宅勤務を良いことにチャイム音をチョップしてオープニングのテーマなど作っている体たらくです。

しかし、教員という存在がこのように属人的でキャラ的になっていくことが、学校制度にとって良いことかどうかはなんとも言えません。また、おもに文系科目が〝語り〟による物語化を追求できる一方、同じようにはできない教科があるとも聞きます。また、実技教科の困難もあるでしょう(「合唱」と「吹奏」を禁じられた音楽の困難さよ!)。このあたりも、近接性を前提にした学校空間が問い直されているようです。