CULTURE | 2020/03/04

トイレットペーパー品薄デマで再注目「豊川信用金庫事件」。女子高生の雑談がきっかけで倒産寸前に

2006年の豊川信用金庫本店Photo By Wikipedia
文:岩井聡史
「トイレットペーパーが無くなる」
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2006年の豊川信用金庫本店
Photo By Wikipedia

文:岩井聡史

「トイレットペーパーが無くなる」

どこから出たのか分からない情報のために、ドラッグストアではトイレットペーパーが品切れの事態に。新型コロナウイルス流行のパニックにより、不確かな噂話もまことしやかに囁かれる事態になっている。

そんな中、デマの恐ろしさが分かる事件が40年以上前の日本で起きていたと、SNSで注目を集めている。

デマで信用金庫が倒産しかけた「豊川信用金庫事件」

1973年、愛知県豊川市で営業していた豊川信用金庫で、「信用金庫の経営状況は危ない」というデマが広がり、突如として20億円もの預貯金が引き出された。信用金庫はマスコミへ依頼し、事態の沈静化を図ったが混乱は収まらず。この事態を重く見た日本銀行が「信用金庫の経営は問題ない」と記者会見を開く展開になった。

また日銀名古屋支店から現金手当を行い、預金者を安心させるために豊川信用金庫本店にある金庫の前に、日銀から輸送された現金を見えるように置く演出も。さらに、店頭に信用金庫連合会や協会のビラを張り出し、預金者への説得活動も行われ、ようやく事態は沈静化した。

あまりに急な出来事であり、一つの信用金庫が倒産しかけたことを受け、警察がデマの出所を調べるべく捜査に動いた。そこで明らかになったのは、デマの出所が女子高生の「雑談」だったのだ。

事件の始まりは3人の女子高生の“雑談”

信用金庫が倒産しかけるほどのデマは、3人の女子高生の「雑談」から発生した。豊川信用金庫に就職が決まった1人の女子高生に対して、友人2人が「信用金庫は危ない」とからかった。発言にある「危ない」とは経営状態ではなく、「銀行強盗が入ることもある」という意味だ。

しかし、からかわれた女子高生はこの冗談を真に受け、家族に「信用金庫は危ないのか」と相談をした。家族もこの発言を、経営状況のことと判断し、信用金庫の近くに住む親戚に問い合わせた。女子高生の家族から相談を受けた親戚も、周囲の人間に豊川信用金庫の経営状況を聞き始めることに。

ここから噂は口コミにより驚くべき速さで伝わっていく。当初は「豊川信用金庫の経営状況は危ないのか」という疑問が、人から人に伝わるうちに「豊川信用金庫の経営状況は危ない」という断定調に変化。噂を聞いた人の中にアマチュア無線愛好家もおり、無線でこの噂の拡散に拍車をかけた。そして多くの人が「信用金庫の経営状況は危ない」と誤解して、預貯金を引き出す行為に走ったのだ。

この事件の恐ろしさは、誰一人悪意を持って噂を広めたわけではないこと。そして、情報がいつのまにか変化したことにある。現在はSNSという誰もが情報を発信でき、かつ拡散する能力が非常に高いツールがある。

「豊川信用金庫事件」は情報を発信する責任や、情報を鵜呑みにする恐ろしさを伝えてくれる。新型コロナウイルスでさまざまな情報が飛び交う今だからこそ、この事件を改めて認識したい。