写真左がノーナ・リーヴスの西寺郷太さん、写真右がFINDERS編集長の米田智彦
聞き手:米田智彦 構成:久保田泰平 写真:有高唯之
西寺郷太(にしでらごうた)
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1973年、東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成し、2017年にメジャー・デビュー20周年を迎えたノーナ・リーヴスのシンガーにして、バンドの大半の楽曲を担当。作詞・作曲家、プロデューサーなどとしてSMAP、V6、岡村靖幸、YUKI、鈴木雅之、私立恵比寿中学ほかアイドルの作品にも数多く携わっている。音楽研究家としても知られ、少年期に体験した80年代の洋楽に詳しく、これまで数多くのライナーノーツを手掛けている。文筆家としては「新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「ジャネット・ジャクソンと80’sディーバたち」「伝わるノートマジック」などを上梓。TV、ラジオ、雑誌の連載などでも精力的に活動し、現在、NHK-FM「ディスカバー・マイケル」にレギュラー出演中。小説「90's ナインティーズ 」を文藝春秋digitalにて開始。
2020年代には「U2・ストーンズ・ディランが生き残った理由」がわかる?
米田:前編では1987年にリリースされた『The Joshua Tree』の話まで来たので、次は91年にリリースされた『Achtung Baby』の話をしたいと思います。91年って、プライマル・スクリーム『Screamadelica』、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『Loveless』、ニルヴァーナ『Never Mind』が出た年で。
西寺:マイケルの『Dangerous』もそうですね。
米田:すごい年なんですよ。
西寺:僕らもね、『Achtung Baby』みたいなことやりたいなあって思ったりするんですよ。NONA REEVESのギタリストの奥田健介はいわゆる「マッドチェスター」の影響をめちゃくちゃ受けてますから。加えてこれからの時代はやっぱ「ギター」だなって思っていて。もちろんリズムの感覚は、より解像度を上げて、ということなんですけど。
米田:2010年代はEDM、R&B~ヒップホップと打ち込みメインの音楽が流行ったディケイドでしたし、確かにその反動が出てくるかもしれないですね。
西寺:「2020年代はどうなると思いますか?」って今年の年末から来年にかけて聞かれることもあるし、最適な答えは「よくわからない」だとは思うんですけど(笑)、ただこれまで生き残ってきたバンドの歴史って、多少の行ったり来たりはありながら、やっぱりシンセ・サウンドに染まりきったバンドより、結局どこかでギター・サウンド、もしくは生のベーシストを守り続けていたバンドの方が生き残ってるんじゃないかな、って思ったりするんですよ。
米田:ほう。
西寺:あと“ゼロ年代”っていう言い方には結構無理があったというか、ちょっとかっこつけてる気もするし、いいづらい。それって実はすごく重要なファクターな気がして。この10年、10年代とかテン年代も、結局、80年代とか90年代という言い方ほどには定着してないと思うんですよ。
米田:80年代にしても90年代にしても、終わる時点で色が見えてましたもんね。
西寺:でも、世紀が変わって20年ともなると、ちゃんと“20年代”って認識されそうで。楽しみではありますね。そういう中で。80年代から生き残ってきたU2とか、あとは60年代からのストーンズとボブ・ディラン。どうすれば時代とともにサヴァイヴしていけるのかっていう答えが、その3組から見えてくるような気がして。いかに時代の変わり目でいきなり、ダサくならずに、微調整や賛否両論の波をくぐり抜けて『最新の存在』ではないにせよ同時代性を帯びながら適度にかっこよくやっていくか。当たり前ですけど、みんな齢を取ってる、でも、ディランのことを「わからない」のはともかく、「ダサい」って言う人はいないはず。ディランがいてストーンズがいて、一度もメンバーチェンジしてないU2がいてっていう、2020年代の音楽シーンの予想っていうのは、これまでの年代を切り抜けてきた先輩たちを「この現象はなんやねん?」って考えるところに、実は答えがあるのかなって。
40年以上メンバー交代がないU2の結束力
米田:ストーンズはビル・ワイマンが抜けましたけど、それも25年以上前の話で、それ以来変わってないじゃないですか。U2はデビュー以来、ずっと変わってない。やっぱり変わらないメンバーでやっていくことの結束力っていうのはバンドにとってすごく大きいなあと思うんですよ。安心感というかね。
西寺:U2は、メンバーを誰か辞めさせようみたいな動きは今までなかったんですか? 誰かひとりアル中になったとか(笑)。
米田:ベースのアダムは一度大麻所持で捕まってますよね。あと、「ZOO TV」ツアーの確かシドニー公演で、アダムが二日酔いでステージに立てなくて、ローディーの人がアダムの振りをして弾いたっていう逸話はあります。
西寺:ああ、ローディー弾けるんだ!(笑)。
米田:それが最後までバレなかったという。
西寺:えーっ!(笑)。
米田:まあ、メガネかけてたから。
西寺:いや、そんな問題じゃないでしょ(笑)。
米田:メンバー同士はね、今でも誕生日会に全員集まるぐらい仲が良いんですよ。それってすごくないですか。
西寺:家族旅行とかも共同で行くんですよね?(笑)確か。珍しいですね。世界を飛び回るバンドともなると、ステージではさすが!っていうチームワークを見せるけど、プライベートではほとんど絡まないなんていうのもザラですもんね。ちなみに、メンバーの中での上下関係みたいなのはないんですか?
米田:ないんですよ。
西寺:じゃあ、アルバムのコンセプトとかはまず誰が決めるんです?
米田:そこはボノじゃないですかね。歌詞を書いてるのはほとんどボノですから。なので、収入の面では差がありますね。
西寺:作曲は?
米田;U2は結成したときから“ギャラは4等分”っていう決まりなんですよ。印税は別でね。だから、作曲のクレジットも“U2”なんですよ。
西寺:なんでも知ってますね……(笑)。ちなみに、米田さんが好きなアルバム、ベスト3は何ですか?
米田:1位は『Achtung Baby』ですね。
西寺:マジですか! 僕と一緒じゃないですか。じゃあ2位は?
米田:『The Joshua Tree』ですね。
西寺:それも一緒だ(笑)!
米田:3位が難しいところですねえ。
西寺:僕は『Zooropa』ですね。その三枚が特別ですね。一心不乱に聴いてたのは、それだけかも。薄くて申し訳ないですけど。えーと、『The Joshua Tree』の次って、いきなり『Achtung Baby』でしたっけ?
米田:1989年リリースの『Rattle and Hum(魂の叫び)』がありますね。同名のドキュメンタリーのサントラ的なアルバムなんですけど、新曲も入ってて。「Desire」とかこのアルバムに入ってるんですよ。
西寺:「ディザ~イア~♪」ってやつね。久々聴きたくなってきたなあ。なんか最近、ダンサブルな、いわゆるソフィスケートされたシティポップ路線みたいなのを敢えてノーナの自分の曲ではちょっと避けてたところがあって、このあいだ出したアルバム『未来』に入ってるタイトルトラックの「未来」や、アコースティック・ギター全開の「ソーリー・ジョジョ」なんかは、結構普遍的なロック・バンド的要素が強めの曲だったんですよ。90年代回帰みたいなことがいろんなところで言われてきましたけど、2020年代は本当にそうなるんじゃないかなって気がして、その曲はそういう表れでもあるんです。
米田:なるほど。
2020年代の変化は「21年」にわかる?
西寺:2020年にぴったり何かが変わるんじゃなくて、2018年、19年ぐらいの頃からの流れを踏まえて21年になにかが変わる気がしています。1989年に、いよいよ90年代を迎えるぞっていうタイミングでも、レニー・クラヴィッツがデビューしたり、ベルリンの壁が崩壊したり、天安門事件がありました。このままじゃいけない、変わらなきゃっていう意識がいろんなところで働いて、大きな流れができたんだと思うんです。
米田:音楽の世界では、91年にその答えが一気に出た感じですよね。
西寺:2019年から2020年への変化は、2009年から2010年の時より、何か出てきそうな予感はするし、2021年は1991年の時のような成果が表れるかもしれないですね。2001年から2019年までって、いろんなことがあったとはいえ、やっぱり何かウニョウニョしていた感じが続いていて。
そういうのが2020年代に入って、スパッとケリが付くんじゃないかと。たとえば、お笑いの世界で言えば、2000年のスーパースターと2019年のスーパースターってさほど変わってなかったりするじゃないですか。さんまさんやたけしさん、ダウンタウンがいて、っていう。
米田:あまり様変わりしてませんね。
西寺:でも、2020年に入ってから、そういうことじゃない感じになってくるというか、えっ?っていう変化が出てくると思いますね。割とこの連載では一年くらい前から言ってましたけど、実際、今年だけでもかなり変わりましたよね。潮目が。平成から令和になったのも、潜在的な変化願望に影響してるとも思いますが。西暦でも同じで。僕自身は、今、新しい小説『’90s ナインティーズ』を文芸春秋社で刊行すべく連載を始めたんですが。「文藝春秋digital」で。それも含めて、2019年の後半から2020年の中盤ぐらいまで、ヘンにいろいろ試行錯誤して新たなトライをするよりも、2020年後半からの本格的な変化に一手打てるように準備とか勉強って感じですね。で、音楽に関しては、2021年になった時に『Achtung Baby』的なものを完成させたくて。たとえ非難されようが、先に進んでるミュージシャンになっていたいなって、思ったり思わなかったり(笑)。ノーナ・リーヴスも休まずやってきましたけど、やっぱりそれは、ちゃんとそのへんの時代の流れを把握していたからこそここまで続けてこれたと思うんですね。そういう意味では、米田さんに誘われて、2019年の終わりにU2を観に行けるのも、何か用意されたタイミングなのかも知れないです。楽しみですね。
米田:本当に楽しみです! それでは最後に、僕の大好きな曲を集めた「FINDERSベストオブU2プレイリスト」を貼って終わりにさせてもらって来日公演を待ちたいと思います。
この曲順にライブをやってくれたらもう最高です!という選曲をしました。