EVENT | 2019/02/19

バーチャルオフィスに出社して、旅をしながら働く会社【連載】遊ぶように働く〜管理職のいない組織の作り方(19)

「納品のない受託開発」を提供するソニックガーデンは、全社員リモートワークで本社オフィスがない。さらには、全社員がセルフマ...

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「納品のない受託開発」を提供するソニックガーデンは、全社員リモートワークで本社オフィスがない。さらには、全社員がセルフマネジメントで管理職もいない。管理をなくして遊ぶように働きながらも、ビジネスは順調に成長することができている。その自由と成果の両立を実現する経営に隠された謎を紐解く。

倉貫義人

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大手SIerにてプログラマやマネージャとして経験を積んだのち、2011年に自ら立ち上げた社内ベンチャーのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。ソフトウェア受託開発で、月額定額&成果契約の顧問サービス提供する新しいビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開。会社経営においても、全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営など様々な先進的な取り組みを実践。著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』など。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。

島流し型のリモートワークが人を孤独にさせる

前回は、バーチャルオフィスに出社して働くのは、まるでオンラインゲームで遊んでいるように見えるという話をしました。仕事を工夫して遊びやアクティビティにすることで、これまで以上に仕事を楽しむことができるし、それで楽しく成果が出せるなら良いことしかありません。

バーチャルオフィスについては、この連載の中で何度か登場しましたが、聞き慣れない言葉だと思われたかもしれません。今回は、バーチャルオフィスを中心に私たちの職場環境について紹介します。

連載の第1回で紹介した通り、私たちソニックガーデンには物理的な本社オフィスがなく、全社員がリモートワークをしています。全部で36人しかいないのに16都道府県にまたがって働いており、半数以上が地方に在住しています。

地方にいる社員は、支社ではなく在宅勤務で働いています。在宅勤務でリモートワークしていると話をすると、よく多くの方が「寂しくないのか?」「働き過ぎてしまうのでは?」と心配されますが、そうした問題は起きていません。

おそらく一般的なリモートワークやテレワークと言えば、皆の働くオフィスから離れた自宅やコワーキングスペースで、一人静かに働いているイメージなのですね。だからやってみると「リモートワークすると集中できて良い」なんて感想を言う人もいますが、最終的には「やはりオフィスじゃないと寂しい」という話になるのです。

オフィスがあって、そこから数人だけが離れた場所で働くのを「島流し型リモートワーク」と呼んでいます。やはり本島となるオフィスがあるかぎりは、リモートワーク側がマイノリティになってしまうから疎外感を抱いてしまうのです。

実は、私たちのリモートワークはそれとはまったく違います。そもそもオフィスがなく集まることがないので、全員フェアにリモートワークをしているため疎外感はありません。しかも毎日のようにテレビ会議で顔を合わせてワイワイとコミュニケーション取りながら仕事をしています。もちろん仕事以外の雑談だってするから寂しくはありません。

もはや私たちにとってリモートワークというのは特別なものでなく、日常の風景になっているのです。それを支えているのがバーチャルオフィスなのです。

全社員リモートワークにチャットでは足りない

そんな全社員リモートワークの私たちも、2016年までは渋谷にそれなりに大きなオフィスを構えていました。社員にとって働きやすい環境にするためにコミュニケーションが取りやすい仕組みを導入し、一緒にご飯を食べたりできるようにしたり活用していたのです。

しかし、そこから徐々に地方からリモートワークで働く社員が増えていき、いつしか社員の半数以上がリモートワークということになりました。そうなると、オフィス側の社員の方がマイノリティになってしまったのです。

そこで、リモートワーク側を基準に考えて会社の制度や設備などを整えていくために、それまでオフィスに通っていたし、通うことのできる通勤距離でもあるけれども、あえて社長である私自身が率先してリモートワークをするようにしました。

実際に自分自身でリモートワークをするようになると、いくつか不便な点が見つかるもので、それらを一つ一つ解消していきました。そのうちの大きかった改善がバーチャルオフィスの導入でした。

それまで社内のコミュニケーションで使っていたのはチャットでしたが、リモートワークにおいては以下のような困る点があると判明しました。

(1)相手の存在が見えなくて、声をかけていいかわからない

オフィスのように相手の姿が見えていれば、声をかけてもいいと思えますが、相手が今パソコンの前にいて返事をくれる状態かどうかわからないと、声をかけることをためらってしまいます。もし皆の前で「いますか?」なんて聞いて返事がなかったら恥ずかしいと思ってしまうと書き込みにくくなります。

(2)人数が多いチャンネルでは、しょうもないことが書けない

気心の知れた数人だけのチャンネルだったら「食事にいってくる」とか「休憩でお茶」とか書くこともためらうことはありませんし、そういった状態の情報共有には価値があります。しかし、人数が多くなったチャンネルで同じことができるかというと、全員に通知がいくと思うと書けなくなってしまいます。

(3)かといってDMばかり使うと、存在感が感じられない

それを解決するには少人数チャンネルやDM(ダイレクトメッセージ)を使うことですが、そうなると社内で誰が働いているのか、コミュニケーションが見えなくなってしまいます。業務上の連絡はできるとしても、それ以外のコミュニケーションをとることが、とてもハードルの高いものになってしまうのです。

オフィスが好きだからバーチャルオフィスに出社する

こうしたリモートワークにおけるチャットの問題を解決するために、さまざまなツールを調査して試してみたものの、全社員リモートワークを前提としたツールがなかったために、最終的には自分たちで使うツールを作ることにしました。

そのコンセプトが「バーチャルオフィス」です。全社員リモートワークの私たちにとって必要だったのは、ホウレンソウをするためのチャットではなく、仮想的にでも1箇所に集まってワイワイとザッソウ(雑談・相談)しながら仕事するための場所だったのです。

私たちが「Remotty」と名付けたバーチャルオフィスには3つの特徴があります。

(1)仕事中はカメラで互いの顔が見えて、在席かすぐにわかる

オフィスで働いている時に声をかけやすいのと同じように、普段の仕事中の様子をノートパソコンのカメラで撮影して互いに共有することで、まるでオフィスにいるような感覚を再現しています。大きなメリットは能動的に在席のオン・オフをしなくても、パッと見で在席が確認できることです。

(2)個人ごとのチャットがあって、人を気にせずに書き込める

気軽に書き込みつつ他人に内容を知ってもらうためのSlack運用のノウハウで「分報チャンネル」というものがあります。自分専用のチャンネルをつくり、そこに状況や考えを書き込んでいくというものです。これと同じことを標準の機能として用意しているので、通知を気にせず書き込めます。

(3)オープンな空間とタイムラインで、社内の会話が見える

分報のデメリットは、他の人からすると、わざわざチャンネルに訪れないと見ることができないという点です。そこで、それぞれの個人で流れている情報を一列にして見ることのできるタイムラインを用意しました。気軽に書き込んだ内容や、誰かとの会話の様子などを誰でも手間なく見ることができるため、オープンだけど煩くない空間となっています。

こうしてバーチャルオフィスでは、一緒に働いている仲間の存在感を感じることができて、気兼ねなく書き込めるから、オフィスにいるように雑談までできるようになりました。第10回「ホウレンソウよりもザッソウを大事にして働く会社」で書いた通り、雑談しあえる関係こそ、同じチームである感覚を作ってくれます。

私たちはチームワークを重視し、人と一緒に働くことが好きなメンバーが集まっています。そういう人たちにとってはオフィスは重要な場所です。だから、物理的なオフィスと同じことのできるバーチャルオフィスには、毎日「出社(=ログイン)」して働いているのです。

好きな場所と好きな仕事の両方を諦めない働きかた

いつしか私たちはバーチャルオフィスにさえ出社していれば、物理的なオフィスにいるのと同じだけのコミュニケーションをとることができるようになりました。むしろ、バーチャルオフィスにいることが必須で、物理的なオフィスにいることは任意になったのです。

それが私たちが物理的なオフィスをなくしてしまった理由です。このように、私たちのリモートワークというのは、通勤時間はゼロだけど、出社して会社の仲間と一緒に働くことであり、普段の仕事風景はオフィスにいるのと変わりません。

リモートワークを始めてよく見受けられる失敗は、バーチャルオフィスのような一緒に働く空間を用意しないで、いきなり在宅勤務を始めてしまうことです。そうすると仲間と繋がる場所がなくなってしまうので孤独や疎外感を感じてしまうことになります。

まずは精神的につながれる場所を用意しておくことから始めると良いでしょう。また、当然ながらオフィスにいてもコミュニケーションをとらないようなチームだとしたら、リモートワークになったら、より一層コミュニケーション不全に陥るのは目に見えています。心理的安全性が高く、気軽なコミュニケーションできる関係性を築いておくことも先にやっておくことです。

それさえできれば、コンピュータを使ったデスクワークや、ミーティングなどが業務のほとんどといった方であれば誰でもリモートワークをすることはできます。IT企業だからできるのではなく、バーチャルオフィスがあるからできるのです。

バーチャルオフィスに出社することで、どこにいても働くことができるようになりました。私たちの会社では、スノーボードが好きで東京から長野に夫婦で移住してしまった社員もいれば、新卒から一度も通勤電車を経験せずに海外を定期的に旅しながら働く社員もいます。最近のもっとも遠いところでは、車を運ぶ仕事をしながらオーストラリア一周をし、旅しながら働いている社員もいます。

また事情があって家で働くのが難しかったり、独身なので在宅である必要があまりない人のために、全国に4箇所のワークプレイスを用意しています。もし家から離れて働きたいなら、そこに行って仕事をしても良いのです。バーチャルオフィスが必須なだけで、それ以外は様々な選択肢を用意しています。

生まれた土地に戻って子育てをしたい、親の介護で地元に戻らないといけないなど、移住をする理由は人それぞれあります。そのときに大きな問題になるのが仕事です。地元に帰ると自分の望む仕事はないかもしれない。そうして住む場所か仕事か二者択一を迫られます。

しかも、住む場所と仕事を同時に変えるというのは非常にリスキーです。もし、多くの企業でリモートワークが当たり前になれば、少なくとも住む場所と仕事は切り離して考えることができます。そうなれば、会社にとっても個人にとっても幸せな選択をすることができるのではないでしょうか。


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