EVENT | 2018/05/05

管理職をなくしてセルフマネジメントで働く会社 【連載】「遊ぶように働く〜管理職のいない組織の作りかた」(2)

(写真)デジタル化されたタスクばらし

倉貫義人
株式会社ソニックガーデン代表取締役
大手SIerにてプログラマ...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

(写真)デジタル化されたタスクばらし

倉貫義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役

大手SIerにてプログラマやマネージャとして経験を積んだのち、2011年に自ら立ち上げた社内ベンチャーのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。ソフトウェア受託開発で、月額定額&成果契約の顧問サービス提供する新しいビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開。会社経営においても、全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営など様々な先進的な取り組みを実践。著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』など。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。ブログ http://kuranuki.sonicgarden.jp/

自律的に働くことと成果を出すことを両立させる

第1回では、私たちソニックガーデンが大切にしている「遊ぶように働く」というコンセプトについて紹介しました。

指示命令や管理をしなくても、社員の自主性や働きやすさを重視することで、高い生産性を実現できて、結果として会社も成長することができているのです。

社員たちが「遊ぶように働く」ための大事なポイントの一つは、自律的に働くことです。

自分で考えて、自分の意思で働くから、工夫もできるし楽しいと感じられるのであって、誰かに言われて、その通りに働くだけでは楽しくないでしょう。

一方で、仕事というのは顧客や会社にとって価値を生み出すことであり、その価値に見合った成果を出さなければなりません。

仕事として安定した成果を出すためには、ゴールや締め切りを設定して間に合うように、着実に進めていく必要があります。それを実現するのがマネジメントです。

自分で考えて自律的に動くことと、マネジメントして成果を出すことを両立させる鍵が、セルフマネジメントです。自分自身が、自分の上司であり部下でもあるといった感じでしょうか。

自分と周りを活かすことがセルフマネジメント

セルフマネジメントで働くために必要なスキルは、大きなミッションや仕事をタスクに分解すること、それぞれのタスクにかかる時間やコストを見積もること、優先順位を考慮して無駄のない計画を立てること、計画に従いつつも柔軟に対応して進捗させることなどです。

これらは、プロジェクトマネージャや管理職の人間がメンバーや部下に対して行なっていることと同じです。それの対象が自分になったというだけです。プロジェクトのように何人もの人をマネジメントする必要はなく、一人だけをマネジメントすれば良いのです。

とはいえ、セルフマネジメントができる=たった一人で仕事ができれば良いのだと考える人がいますが、それは違います。

どんな仕事にもお客様がいて、協力してくれる人たちがいることで成り立っています。そうした周囲とのコミュニケーションを取りつつ、その中で自分を活かすこともセルフマネジメントのうちです。

誰かに管理されて、決められた作業をこなしていくだけよりも、相当に難易度が高いし、しんどいことです。自分で決められる自由には責任が伴います。決めることは楽なことではありません。

だけど、誰かの仕事を手伝うのではなく、自分で決めた仕事で喜んでくれる人がいることは、働くことで得られる喜びの最上のものだと思います。

指示命令や管理する人のいないフラットな組織

私たちソニックガーデンには、部署がなく管理職もいません。かといって社長が管理しているわけでもありません。誰も管理をしない組織です。

こうしたスタイルは数人規模であれば、さほど珍しくもないかもしれませんが、私たちは今や35人を超えてもフラットな組織のまま、誰かが誰かを管理したりすることのない状態を続けてきました。

そのため、いわゆる普通の会社であればホームページに載っているような組織図がありません。情報伝達がしやすいピラミッド型でなく、有機的につながるネットワーク型の組織です。会社の中には、プロジェクトやチームは多数ありますが、すべて把握はしていません。

私たちは当初からフラットな組織を目指してきたというわけではありません。今も目指してはいません。指示命令や管理などしなくても人は働くのではないか、その信念を突き詰めた結果、セルフマネジメントで動くチームに至ったというだけです。

誰も指示命令をしてこないなんて、自由で良いなと思うかもしれませんが、管理はされないけれど成果を出さなければいけないというのは、実際はとても大変です。それでも言われたことだけをして働くよりも、自分で考える仕事の楽しさが大いにあります。

セルフマネジメントで働くことは、大変さと楽しさが共存しているのです。楽じゃないけど楽しい仕事、それこそ望むところです。

お客様に直接サービスを提供する顧問プログラマの仕事

現実的な話として、誰も上司がいない中でどうやって働いているのでしょう。その仕組みについて説明しましょう。

私たちのお客様の多くは、エンジニアが社内にいない中小企業や、新しいサービスを立ち上げたいスタートアップです。そうした会社において、社内にいるエンジニアのような形で働けるよう、月額定額で顧問契約をしています。

この仕事を私たちは「顧問プログラマ」と呼んでいます。私たちがプログラミングに誇りを持っているため、エンジニアでなく、あえてプログラマと表現しています。

顧問プログラマは、顧問弁護士やコンサルタントの仕事のように自分のクライアントを何社か抱えています。私たちの社内では2〜4人でチームを組んで助け合っていますが、お客様から見れば一人の担当が付いているイメージです。

開発には、お客様へのヒアリング、画面やデータ構造の設計、そしてプログラミング、テストや運用まで、様々な作業や工程がありますが、顧問プログラマはすべての工程を一人で担当します。誰かから指示を受けることも、誰かに指示して管理することもありません。

そして、顧問プログラマには指示を受けたり報告したりする上司がいません。加えて、月額定額なので見積もりをする必要もないため、営業の人間もいないのです。

つまり顧問プログラマは、担当者とお客様との間に誰も入ることのない、直接やり取りしてサービスを提供する仕事なのです。

「上司のため」でなく「お客様のため」に働けるということ

お客様とは毎週・隔週などのタイミングで定期的な打ち合わせがあります。その打ち合わせで決めたことを次の打ち合わせまでにプログラミングして開発をします。自分で話して、自分で作って、それを自分でお客様に見せるのです。

しかも「納品がない」のですから、そのプロセスがずっと続いていきます。このようにして、上司や営業はいないけれど、担当しているお客様がいるため、ちゃんと日々の仕事はあるというわけです。

定例で行われるミーティングの中で、次の定例のミーティングまでにする新たな開発の内容が決まっていくため、日々の中で次に何をしていいかわからないなんてこともありません。お客様と合意して決めた内容を優先順位に従って進めていくだけです。

もちろん、その定例ミーティングから次の定例ミーティングまでの間の時間の使い方、開発の進捗については、自分で時間をやりくりして進めていく必要があります。その部分はセルフマネジメントです。

顧問プログラマで働く良さは、自社の上司のために働くのではなく、直接お客様のために働くという構造になることです。この構造はシンプルで、しかも商売としては本質的であり、そもそも至極まっとうなことです。

そして、社員にとっては直接お客様に価値を提供するので、お褒めの言葉もお叱りも含めて、そのフィードバックをすべて受け取ることができるのです。このことは働く本人にとって大いにモチベーションアップに繋がることになります。

価値を交換するという仕事の中で、中間に入る無駄を見つめ直して徹底的に排除した結果、上司や管理職がいらない組織ができたのでした。


ソニックガーデン

過去の連載はこちら