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納品なし、ノルマなし、自律性あり。夢物語のようだが実現可能なマネジメント術【ブックレビュー】
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  • 2019.03.04
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納品なし、ノルマなし、自律性あり。夢物語のようだが実現可能なマネジメント術【ブックレビュー】

神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

http://y-jimbo.com/index.html

「そもそも」型思考で、時間対費用を上げる

どこでも仕事が可能な時代となり、オフィスに通勤するということは必ずしも常識ではなくなり、在宅ワークを取り入れ始める企業も増えてきた。働き方が多様になるにしたがって、それを管理する側はより柔軟な体制を求められつつある。倉貫義人『管理ゼロで成果はあがる』(技術評論社)は、ソフトウェア開発企業・株式会社ソニックガーデン代表取締役社長によって書かれた一冊で、同社は「管理しなければいい」という「逆転の発想」の体制をいち早く実現している。

1.生産的に働く
2.自律的に働く
3.独創的に働く

著者はこの三段階で「管理ゼロ」の体制を実現した。それどころか全社員がリモートワークで働いているという(詳しくはFINDERSの連載『遊ぶように働く〜管理職のいない組織の作り方』を参照)。まず、「生産的に働く」ステージでは時間対効果を上げることを重視する。惰性で「仕方ないから」とルーチンワークをこなすのではなく、「どうにかして減らせないか」「なくせないか」と常に可能性を模索すると、短時間で良い結果を生み出せるサイクルが出来上がっていくのだという。

プログラマの世界には「楽をするための苦労は厭わない」という言葉があります。同じことを黙々とするくらいなら、楽をするためのプログラムを書くし、そのプログラムを書くことで苦労してもかまわないという考え方です。(P37)

楽をするための苦労に力を注ぐモチベーションを、著者は「そもそも」型思考から得ている。「そもそもこの仕事にどういう意義があるのか」と常に疑うことで、「やった方がいいこと」をなくし、「やるべきこと」だけが自動的に残っていくのだ。

その結果、同社は「納品のない受託開発」をキャッチコピーに、社内業務の効率化を月額定額制のシステム開発で提供し、さらに毎回の要件定義は不要というサービススタイルに至ったのだ。

「納品」という常識を忘れ、自律性を獲得する

「納品しない」というソニックガーデンのスタイルは、自律的な働き方に大きく関係している。これはもちろん仕事をサボっているという意味ではなく、目標を「納品」に設定しないということである。

では、何を目標とするのだろうか。実は同社では「目標」という意識もない。細かく設定されたタスクを軸に社員が自律的に動くことによって、目標は不要となったのだ。

本当に仕事をするというのは「仕事を終えること」です。仕事は、終わらせるまでは意味がないのです。
ただし、大きなタスクのままだとなかなか終わらなくなってしまいます。仕事が終わらないと、進捗がゼロのままになります。そこでタスクばらしをして、適度に終わらせられる大きさに分解することで、少しずつ仕事を終えていくことができるようになるのです。(P54)

この理念がよく現れているのが同社の料金体系である。案件ごとの料金ではなく、前述の通り月額定額制となっている。つまり、多く頼もうと、少なく頼もうと料金は同じである。

このシステムには多くのメリットがある。まず、見積もりという作業がなくなる。つまり、見積もりに割く時間と人員を削減できるということだ。その結果、作業プロセスを柔軟にする余裕が残る。

作業を進めていく内に、当初考えていたのとは違う目的地に向かいたくなることもあるだろう。「そもそも」と考えていく内にやるべきことが変化し、それを「変更」としていちいち追加代金をとられてしまうのでは困ってしまう。だがそれを「進化」ととらえて、進路変更を気兼ねなく持ちかけることができるのが、月額定額制なのだ。

プログラミングに精通していなくても、同社の柔軟な思考を実感できる例がある。同社では創業当初社員が少ないこともあり誕生会を開催していたが、所在がバラバラになったり社員が増えたりしたことで開催が難しくなっていった。

そこで考えたのが、「そもそも、誕生会は何のためにするのか?」ということです。誕生日ケーキや、みんなからのバースデーソングが本質ではありません。誕生日を祝う本質は、その人が生まれてきたことへの感謝だったはず。だから、みんなで普段だったら言いにくい感謝の言葉を伝えるといいのではないかと考えました。(P205)

こうした場面でも「そもそも」型思考が役に立ち、社員各々がメッセージを入力して、誕生日の人に届くようなプログラムを開発したのだという。

「独創的なこと」は他者の存在によって成り立つ

生産性・自律性を備えた企業に独創性を与えるのは「ホラクラシー」という組織構造であると著者は主張する。ホラクラシーとは、ヒエラルキーに対する言葉として考えられた造語で、役職や肩書のないフラットな組織構造のことをいう。

著者はなぜそうした組織構造が必要かという理由について、VUCA時代と言われている時代背景に言及している。Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑さ)、Ambiguity(曖昧さ)の頭文字をつなげたものだが、上司が考えた「正解」を部下に浸透させてミッションを遂行していく組織構造だと、太刀打ちできない課題が世の中にあふれるようになった。

同社は中途採用の場合、採用までに1年から1年半をかけるという。そして、信頼性を既に得た状態で入社して、その後自律性が備わった社員には、ハードルが高い仕事が与えられ、周囲もそれを積極的に後押しする。独創性が生まれれば、「お客さんに見つけてもらう」ので営業も不要になるのだという。

毎週の打ち合わせで困っていることを確認したら、次の打ち合わせまでに必要な機能を作ってしまうのです。そこにどれだけ時間がかかったかは関係ないようにしています。お客様にも「中身のわからないものに、毎週どれだけ時間がかかったからいくら」と言われるよりも、「かけた時間はわからないけれど、毎週きちんと成果が出ている」ほうが喜ばれます。(P225)

同社はサービスが独創的な以上に、コミュニケーションの中に独創性が宿っているように筆者には思える。筆者は映画という「独創性」が必要とされるフィールドで働いている。「自分は今後も映画を撮れるだろうか…」と思いながら、何とか獲得した仕事の枠内で表現を続けていると、思いもよらぬ所から面白そうな映画・映像のオファーが来て、キャストやスタッフとのコミュニケーションから「面白いこと」が生まれていくということを幾度となく経験した。独創性というのは誰か一人の頭の中に宿るというよりも、誰かと誰かの「なぜ」が組み合わさることによって生まれるのではないだろうか。

私たちは「納品しない」という新しい切り口のビジネスモデルを考えたので、それをそのまま使って「納品のない受託開発」という言葉で知ってもらうことを狙いました。おそらく、聞いたこともない独自の言葉を生み出していたら、そこまで知られることはなかったでしょう。(P239)

何か新しい画期的なサービス・商品を考えつくという斬新さもたしかに独創性といえる。しかし、独創性のもう一面は習慣的に疑い続けること、すなわち、常識や慣習に左右されずに「なぜ」と問い続け、コミュニケーションを行うことによって生まれるのだ。

マネジメントなしで、独創的な組織を成り立たせる。これが決して夢物語ではなく、自律的な組織こそが未来を変えていくのであろうことを、本書からぜひ感じ取ってほしい。


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