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気づけばあらゆるジャンルで「優秀な日本人」が海外プラットフォームに囲い込まれている。WWEで活躍する女子プロレスラー、アスカの姿を見てふと思ったこと
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  • 2018.12.21
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気づけばあらゆるジャンルで「優秀な日本人」が海外プラットフォームに囲い込まれている。WWEで活躍する女子プロレスラー、アスカの姿を見てふと思ったこと

文:6PAC

「2018年に世界で活躍した日本人」ランキングに日本人女子プロレスラーの名前がない!

12月10日、「エアトリ」という旅行サイトが、「2018年に世界で活躍した日本人」に関する調査結果を発表したが、「浦井佳奈子」や「宝迫香織」という名前は見当たらなかった。

彼女らの名前を聞いてもピンつくる人は限られているだろう。だが、アスカ(Asuka)やカイリ・セイン(Kairi Sane)と聞けば、大方のプロレスファンは誰のことかわかるのではないだろうか。そう、2人はアメリカのプロレス団体『WWE(World Wrestling Entertainment)』所属の日本人女子プロレスラーだ。WWEと契約する日本人女子プロレスラーは増加傾向にあり、今年は新たに紫雷イオが加わった。

日本の女子プロレスと言えば、1970年代にはマッハ文朱ジャッキー佐藤マキ上田のビューティ・ペア、80年代には長与千種ライオネス飛鳥のクラッシュギャルズ、90年代にはアジャ・コング北斗晶を擁する全日本女子プロレスと、工藤めぐみキューティー鈴木神取忍らが所属する他団体との対抗戦が盛り上がり、計3度のブームを経験した。しかし現在はテレビ中継が打ち切られたり、団体が乱立状態に陥ったり、スター選手不在の状況が続いたりと、市場規模は縮小する一方のようだ。

一方、日本の女子プロレス人気が凋落し始めるのと入れ替わるようにして、WWEは1999年にニューヨーク証券取引所に上場した。そのビジネスモデルは自社で運営する「WWEネットワーク」という月額制のインターネット動画配信サービスの収益と、自社番組の放映権を販売することで世界各国のテレビ局から入る放映権料の収益が屋台骨となっている。その売上規模は2017年度で8億ドル(約907億円)を計上している。直近3期の売上高は右肩上がりの一方だ。

WWEへと流出する日本人女子プロレスラー

長年、WWEは男子プロレスがメインで、ディーヴァと呼ばれる男子レスラーの女性マネージャーや女子レスラーは脇役的存在であった。しかし、2016年にWWE・ロウ女子王座が設立された頃から女子プロレスにも本腰を入れるようになってきた。

前述のアスカがWWEと契約し海を渡ったのは2015年のことだが、この頃から女子プロレスに注力する方針があったのだろう。以降、女子レスラーの呼称もスーパースターへと代わり、今年10月には女子のスーパースターだけによる大会「WWEエボリューション」が開催された。同大会のメイ・ヤング・クラシック優勝決定戦では、前述の紫雷イオが決勝まで勝ち進んだものの、紫雷イオがトニー・ストームに敗れる結果となった。

国内では活躍の場が限られており、文字通りスポットライトが当たる場所を求める日本人女子プロレスラーのニーズと、女子プロレスという一つの事業を成功させるため常に優秀な女子プロレスラーが必要なWWEのニーズは合致しているように見える。おそらく今後も、日本人女子プロレスラーがWWEと契約して海を渡るケースは続くだろう。

出る杭は打たれるという閉塞感に満ち溢れた社会背景も関係しているのか、優秀な日本人が世界規模の巨大プラットフォームに飲み込まれていくケースが最近多いようだ。野球の世界では1995年に野茂英雄がメジャーリーグにおける成功事例を示してから、大谷翔平も含む何十人もの日本人選手が海を渡り、国内では稼げない大金が稼げ、世界中から集う優秀な選手たちと切磋琢磨できるメジャーリーグというグローバルな巨大プラットフォームでプレイしてきた。ビジネスの世界では、日本企業よりはるかに自由で裁量もあり、かつ雇用条件の良いGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のような外資系企業へ転職するというブログ記事が定期的にSNSで話題になっている。

エナジードリンクで有名なレッドブルは、日本ではマイナー扱いされるエクストリームスポーツ、そしてeスポーツも含め数多くの大会をスポンサードしており、世界で通用する日本人選手と契約している。彗星のごとく現れたフィギュアスケート界の新星、紀平梨花を始め、オートバイレーサーの真崎一輝、パイロットの室屋義秀、ソチ五輪の銅メダリストでプロスノーボーダーの平岡卓、ボルダリングの野中生萌といった面々がレッドブルアスリートとして名を連ねる。

レッドブルと契約した日本人アスリート一覧

日本にも任天堂というグローバルな巨大プラットフォーム企業がある。かつて任天堂のファミコンを通じて、日本製のゲームソフトが世界中を席巻した時代があった。今でも世界中のゲーム会社がNintendo Switchにゲームを供給する。しかし、ゲームよりもプロゲーマーという存在がクローズアップされ、海外で盛り上がりを見せるeスポーツの世界では、やや様相が異なってくる。ゲーム先進国の一つである日本にも腕に自信のあるゲーマーは多いが、賞金額の大きい海外の大会で活躍するために海外の企業やチームと契約し、プロゲーマーとなる者も多い。東大出身のプロゲーマーとしてテレビなどのメディアに登場する機会の多いときどはアメリカのEcho Foxというチームに所属している。

WWE、メジャーリーグ、GAFA、eスポーツといった巨大プラットフォームには世界中から優秀な人材が集まるが、日本限定のローカルなプラットフォームには世界中から優秀な人材を惹きつけるだけの魅力があるだろうか。かつてはタイムマシン経営と呼ばれる手法で、アメリカなどの先進的なサービスやビジネスモデルをいち早く日本限定のローカルなプラットフォームに横展開させた企業が、株式市場などで多大な先行者利益を得ていた時代があった。しかしスマートフォンとSNSの浸透によって情報伝達力・速度が爆発的に上がり、日本限定のローカルなプラットフォームがグローバルプラットフォームに太刀打ちできない時代になってきている。女子プロレス然り、プロ野球然り、IT業界然りである。スマホでインターネットに繋がり、SNS・動画・LinkedInのようなサービスを使って、才能ある日本人と直接コンタクトし、スカウトできてしまう時代なのだ。

外国人労働者の受け入れ拡大よりも先にやるべきことがあるのでは?

日本政府は120年ほど前に人口削減が目的と思われるブラジルやアメリカなどへの海外移民政策をとったことがある。それが今や少子高齢化による人手不足を解消するため外国人労働者の受け入れ拡大を唱え、関連法案も成立した。だが今後も人口が減り続けるだけでなく、活躍の場を海外に求める優秀な日本人もますます増えていくであろう。優秀な人は海外へ、単純な労働力は海外からという図式でなく、グローバルな巨大プラットフォームを日本から輩出する必要性の方が高いのではないか。

WWEで縦横無尽に活躍する日本人女子プロレスラーの姿を見て、ふと思った次第である。


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