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世界唯一!?デジタルクリエイティブの「技術者のみ」を集めたBASSDRUMが目指す未来|鍛治屋敷圭昭
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  • 2018.12.12
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世界唯一!?デジタルクリエイティブの「技術者のみ」を集めたBASSDRUMが目指す未来|鍛治屋敷圭昭

ウェブサービスやアプリ制作、デジタル技術を用いたインスタレーションなど、企業の広告活動においてもデジタル技術の活用が不可欠となった昨今だが、必要となる技術の幅は非常に広く、また日進月歩で進化していくため、広告代理店や制作会社ではカバーしきれない領域が常に生じてしまうことが悩みの種となっていた。

クリエイティブとテクノロジーを横断的に理解し、設計から開発、時には自らも手を動かして制作を行う人材を「テクニカルディレクター」と呼ぶが、その数は非常に少なく、現場で重要な存在を占めているとはまだまだ言いがたい状況だ。

そうした状況を変えるべく、「テクニカルディレクターのみ」で構成されたテクニカルディレクター・コレクティブがBASSDRUM(ベースドラム)である。発起人はPARTY NYのテクニカルディレクター清水幹太氏、大広、AID-DCC Inc.を経て広告クリエイティブとテクノロジーの両方を理解する鍛治屋敷圭昭氏、株式会社 〼々(ますます)代表の村上悠馬氏の3人だ。

はたして、BASSDRUMが掲げる「テクニカルディレクターの目指す未来像」とは?

その理念と構想について鍛治屋敷氏に話を伺った。

聞き手:米田智彦 文・構成:成田幸久 写真:神保勇揮

鍛治屋敷圭昭(かじやしき・よしあき)

テクニカルディレクター

広告代理店 大広にてストラテジックプランナー、制作ディレクター、プロデューサーなどに従事したのち、自分で手を動かしてものをつくりたいという欲求とともに、2014年2月にプログラマーとしてAID-DCC Inc.に入社。フロントエンド領域を中心にしつつ、バックエンドからインスタレーション、体験型アトラクションなどテクノロジーが必要とされる業務全般に関わる。2018年、テクニカルディレクター・コレクティブ「BASSDRUM」を設立。カンヌライオンズ:金賞、One Show:Gold Pencil、Spikes Asia:金賞、CODE Awards:グランプリなど、受賞多数。

テクニカルディレクターの強みは「実現力・実装力」

―― BASSDRUM設立の経緯を教えてください。

鍛治屋敷:清水幹太、村上悠馬と僕の3人を中心に2018年2月にBASSDRUMを立ち上げました。

僕はもともと広告代理店でマーケティング業務をメインに7年ほど働いていました。ただ、制作をやっていく中で案件が進行していくにつれ、具体的な制作物は自分の手から離れていってしまうのが物足りなくなってきたんですね。最終工程を担う人はプログラマーだったり、デザイナーだったりするので。それでプログラマーとしてやってみようと思い、制作会社のAID-DCCに転職しました。そこでは4年半ぐらいプログラマーとして働きました。

でも、プログラマーはプログラマーで、企画が決まってからの、実制作の工程以降でしか関わらないこともあったりして…。エンジニアもテクニカルディレクターとして、もっとプロジェクトの上流から寄与できる人材であっていいのではないかという思いがあったんです。

僕は広告代理店のマーケターだったので、プログラマーになったあとも上流行程から関わることがありましたが、純粋なエンジニアでも上流行程から価値を出せる人がいっぱいいるんです。それをもっと世の中に発信していきたいと思いました。

テクニカルディレクターという職種をちゃんとアサインすることによって、プロジェクトが良くなることをクライアントが認識してくれると、いいプロジェクトが世の中にいっぱい生まれる。そうすればエンジニアの地位も上がるし、クライアントの助けにもなる。そうなることで、よりいいものが生み出せるという思いがあって、BASSDRUMの立ち上げに参加することにしました。 

―― BASSDRUMはテクニカルディレクターのみで構成される集団ということですか。 

鍛治屋敷:そうです。クリエイティブディレクターとかアートディレクターもいる中で、テクニカルディレクターは、具体化する能力を持っているところが一番の強みなんです。実現力、実装力が一番の特徴になってくると思っています。

BASSDRUMがカバーする技術領域

BASSDRUMでは、所属する全員が第一線で納品コードをちゃんとしたレベルで書けることを最低条件にしています。実際には案件の中で書かないとしても、そのコードが書けるか書けないかでディレクション能力が変わってくるので、そこは大事にしています。ディレクションする際に、テクニカルなことは他の分野に比べて進歩が速い。日進月歩で新しい技術がどんどん出てくるので、そこについていけいるかどうか、具体性を持っているかどうかが大事なんです。

―― BASSDRUMのスタッフはみんな専業で勤務しているんですか?

鍛治屋敷:BASSDRUMは、会社でもあり、コミュニティでもあります。会社としてのBASSDRUMは、清水と僕と村上の3人に加え、フルタイムの社員1名の4名が専業でやっています。コミュニティには、自分の会社をやっている人やフリーランスの人もいます。メンバーとはNDA(秘密保持契約)は結んでいますが、特に雇用契約はありません。

「企画はある、だけどこれ誰がやるの問題」を解決する心強い味方

―― どういった制作案件が多いのですか。

鍛治屋敷:受託制作もありますが、普通の制作会社と違うところは、クライアント企業が社内で新規事業をやる場合や、自社でサービスを始めたいという需要が多いことです。 

こうした案件は、どの会社も大抵は担当者が兼任のかたちでスタートするんです。メイン業務がありつつプロジェクトに何%を割いてくれみたいな話でアサインされる。そうなってくると「本業もあるから」と後回しになってしまいがちになるんですね。

BASSDRUMの制作事例その1「Push Connection」。ライオンのハンドソープ「キレイキレイ」のボトルの残量を検知して詰め替えを補充したり、プッシュを検知して子供の帰宅を教えてくれたりするアタッチメントを博報堂アイ・スタジオと共同制作した。
https://kireikirei.lion.co.jp/nomaps/

BASSDRUMの制作事例その2、ファッションブランドMax Mara(マックスマーラ)の特別企画「I LOVE MAX MARA」。同社の近年の主力商品「テディベアコート」にインタラクティブなプロジェクションマッピング映像を投影する際のコントロールシステム設計と構築、また並行してブランドのテクスチャである「MaxMaraGram」を使って自分の名前を表示してスマートフォン待ち受けを生成できる「Make Your MaxMaraGram」のシステム設計と開発も担当した。
https://jp.maxmara.com/ilovemaxmara

加えて、品質管理という意味ではあまり外部の目にさらされない。また最近の新規事業やサービス開発はだいたいがデジタルやテクノロジーの知識が必須になってくる。そうなってきた時に、社内人材だけではスキルが足りなかったりするんです。でもこうした案件はどの会社の誰に頼めば良いかまだまだわかりづらい面があることもあって、ありがたいことに創業直後から多くの相談をいただいています。

―― 確かに代理店にお願いしづらい案件だと、じゃあどこに頼めばいいのか困ってしまう面はありそうですね。ところで事業案内に「投資事業」とありましたが、これはどんな内容なのでしょうか?

鍛治屋敷:制作の延長線上に投資事業があります。お金を投資するのではなく、技術者による労務投資という格好です。有望なアイデアはあるけれどそれを形にするための技術や資金がない。でも時間が経てば他社が先にリリースしてしまうかもしれない。そんな時に活用してもらえればと思っています。

BASSDRUMの制作事例その3、Twitterアカウントでログインし、サイトに生年月日を登録することで、独自の自律型運勢解析ネットワークアルゴリズムに基づいてその人のためだけの「日めくり」運勢カードが生成される、 本格的な占いサービス「SOLARITA(ソラリタ)」。BASSDRUMによる開発投資案件のひとつでもある。
https://solarita.me/

依頼はスタートアップから直で来ることもありますし、エンジェル投資家が「こんな面白い会社があるんだけど、ちょっと手伝ってくれないかな」と相談をいただくこともあります。

僕らは広告畑出身なのが強みで、スケジュールや予算においても、タイトな条件でやることに慣れているんです。高速に結果を出すことができるので、スタートアップの最初の時期とすごく相性がいいんです。

あとはリリースして、不特定多数の人たちに体験してもらういわゆるアルファリリースのところぐらいまでは僕らが作ります。そこから運用できるような座組みを考えることもありますし、既にあるチームに受け渡していく場合もあります。報酬は資金調達した時や大きな売上があった際に何%かいただくかたちで、投資と同じ考え方でやっています。

―― ベンチャーキャピタルや事業会社による投資は最近すごく増えていますが、「技術を提供します」というスタイルはあまり聞きませんね。

鍛治屋敷:広告代理店も最近はスタートアップに投資し始めています。ただ代理店を含め、事業会社の投資は基本的にお金を投資すること、あとは大手ならではのネットワークが使えることを強みとしていますよね。僕らは「実現力の投資」なので、具体性があり、実際に動くものを作れることが差別化するポイントです

どの会社でも孤独なテクニカルディレクターのコミュニティをつくる

ーー 「コミュニティ事業」は、具体的にどんな活動をされているのですか?

鍛治屋敷:コミュニティ事業は、フリーランスの人間も含めて課題に対する相談を気軽にできたり、案件に応じてアサインを打診できるようなゆるやかな繋がりを構築しています。

ただ、これで仲介手数料のような利益を得ているわけではありません。そもそもBASSDRUMは、テクニカルディレクターの存在を世の中に浸透させていくところから始まっています。なので、会社は小さくてもいいのですが、コミュニティは大きい方がいいと考えています。

コミュニティに入ってきてくれている人たちは皆、BASSDRUMの理念に賛同してくれています。そしてコミュニティに入っているからといってBASSDRUMという名前をことさらに名乗る必要もありません。テクニカルディレクターは制作会社だと1人か2人しかいないということも多いので、横のつながりがなかったり、仲間がいなかったりする職業なんです。だからコミュニティを通してどんどんネットワークを広げていきたいんです。

ーー コミュニティに入るとどんなメリットがあるのでしょうか?

鍛治屋敷:テクニカルディレクターといってもいろいろな分野があり、各人がやっていることはまったくの別ものなんです。

大抵は自分の専門分野があって、他のことも薄く広くはわかるという状態ではあります。ただ、未知の課題が来た時に「自分はこの案件に100%対応できるだろうか?」という不安はどのテクニカルディレクターも抱くものです。

BASSDRUMのコミュニティには共有のSlackチャンネルがあり、クライアントの機密事項は喋らない範囲で、技術に関する課題や悩みを投げると、みんな技術の話が好きなのでわっと答えてくれたりするんですね。あとはここを介して人や仕事が紹介されることもあって、コミュニティの参加メンバーにメリットを提供できているかなと思っています。

BASSDRUMによるコミュニティメンバーへのサポート内容

そのうちに「インテル入ってる」じゃないですけど、「BASSDRUMにいるテクニカルディレクターは安心だよね」という、クオリティの担保にもなってくればいいと思っています。

「普通の制作会社と何が違うのか」を実績で示していきたい

―― 今後はどんな展開をしていきたいと考えていますか。

鍛治屋敷:まずは2年くらいで、ある程度世の中にテクニカルディレクターという概念を認知させていきたいですね。今でもお仕事をいただく際に、「制作会社と何が違うの?」と言われることが多いんです。そこをもう少しちゃんと、BASSDRUMのテクニカルディレクターがどういうものかわかるように実績を積み上げていきたいですね。

ーー 具体的にはどんなことをウリにアピールしていきたいですか?

鍛治屋敷:「こんな派手なことができます」「こんなすごいことができます」というのもよいのですが、、「リスクがこれだけ減ります」というような側面もアピールポイントになると思っています

テクニカルディレクターは、「実現すること」を一番念頭に置いているので、リスク低減が得意なんです。実現に向けた具体的な障壁を洗い出し、対策してリスクを減らすことでプロジェクトの成功確率を上げる。普段はプロデューサーがリスク面について見ていることが多いと思いますが、、僕らは技術的観点からそれができるということです。

プロジェクトにコアメンバーとして関わるからこそ、クライアントで相対する人も実際の決済者に近い方になってきます。最終的な決済者の方というのは、プロジェクトが生み出す価値以外にも、どのくらいリスクが潜んでいるのかということにも同じくらい気を配っています。これまでにない新しいものを生み出そうとしているのならば、それはなおさらです。失敗しない、というのは価値があることだと思っています。

―― 実際に立ち上げて、ここまでの反響はどうですか。

鍛治屋敷:需要はすごくあります。業務内容を説明すると、「そういうことをやってくれる会社は今までなかったんだよね!」と喜んでいただけることも結構あって。

そういう意味では、テクニカルディレクターが必要とされているんだという実感はあります。けれど、それがまだまだ世の中で言語化されていなかったり、発注者の頭の中に存在していなかったりする。

ーー テクノロジーの進歩も速いと、若い人の育成も重要になってきますね。

鍛治屋敷:はい。テクニカルディレクターという存在を浸透させるとともに、人も育てていかなければいけない。これから育ってくるエンジニア、テクニカルディレクターの人たちがちゃんとした地位で働けるところができているようにしたいですね。

2年ぐらいしてある程度テクニカルディレクターという職能が浸透してきたら、今度は人を育てるフェーズにいかなければいけないという話をしています。そのためには既に活躍しているエンジニアのキャリアの先をサポートすることはもちろん、例えば子どものための技術教室のような広い視野での活動もあるのではないかと思っています。

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