EVENT | 2018/11/21

海外人気も高いコスプレイヤーが会社を設立。コスプレはビジネスになるか?有川麗華氏|なにげに世界で有名な日本人

言葉の壁があっても日本という島国を飛び出して活躍できる職業やジャンルといえば何を連想するだろうか?ゲーム、歌、映画などの...

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言葉の壁があっても日本という島国を飛び出して活躍できる職業やジャンルといえば何を連想するだろうか?ゲーム、歌、映画などのコンテンツは英語化しなければ世界中に広まっていかないものだ。しかし、大谷翔平選手のピッチングやかわいい柴犬の動画など、一目見ただけで理解可能なスポーツ、アート作品、動画などは言葉の壁を軽々乗り越え、SNSの普及もあって、一気に世界中に広まっていく。意外かもしれないが、どれだけの再現度で著名キャラクターになりきれるかをアピールするコスプレも一目見ただけで理解できるため、言葉の壁を超越しやすいジャンルだ。

そのコスプレという世界で海外でも抜群の知名度を誇る日本人コスプレイヤーが有川麗華氏(以下、麗華氏)だ。世界中のコスプレイベントからお呼びがかかり、これまでに訪れた国は46カ国にのぼる。個人としての活動にとどまるだけでなく、今年、「コスプレの可能性を広げたい」という思いからコスプレプロダクションの12カンパニー株式会社という法人としての活動も始めた麗華氏に話を伺った。

取材・文:6PAC

有川麗華

12カンパニー株式会社 取締役社長

幼少時よりアニメやゲームが好きでコスプレを始める。西日本を中心に趣味としてのコスプレ活動を行っていたが、7年ほど前から海外での活動が中心になる。ここ数年は年間20~40ほど海外イベントに出演。2018年にコスプレプロダクション、12カンパニー株式会社(12company)を設立。

海外で知られるようになったきっかけは『進撃の巨人』の「立体起動装置」

マンガ『進撃の巨人』に登場する、リヴァイ・アッカーマンのコスプレ。腰にぶら下げているのが「立体機動装置」で、射出したワイヤーを高速で巻き取り、高低差をものともしない素早い動きで敵の巨人と戦う、という設定。

麗華氏がコスプレに興味を持ったのは、子どもの頃にイベント会場で楽しそうにしているコスプレイヤーを見たことがきっかけだそうだ。その後、「下手なりに試行錯誤し衣装を作ってイベントに参加」し続けた結果、コスプレ歴は10年以上になる。その間、何度もやめようと思ったそうだが、「アニメ・マンガ・ゲームが好きな気持ちの表現方法がコスプレしか見当たらず、その度に戻ってきてしまいました」という。衣装を着るだけでなく、製作の楽しさもその一因だそうだ。

コスプレの面白さや楽しさは、「好きなキャラクターたちが着ている衣装を自分の手で作り出せること」だと語る。「好きなキャラクターになりきる感覚は、子供がセーラームーンの衣装を着て楽しんでいるそれとあまり違いが無いように思っています」とのこと。今は、SNSなどでコスプレ写真をネット上に投稿し、同じ趣味の人達との出会いや、評価されることを楽しみにしている人も多いともいう。

ゲーム『三國無双7』に登場する趙雲のコスプレ

「絵でしか実現しない構造の衣装を現実世界に持ってくるのが一番難しい」と言うが、コスプレをする上で大切にしていることは、作品に対するファンとしての気持ち。これが無いとどうしても適当になってしまうそうだ。また、コスプレの準備には「素材一つとっても、その作品の世界観に合うものを探すのでとても時間がかかります」とのことだが、時間が無いことを言い訳にしないようにもしているともいう。コスプレの衣装を作る時間は元になるキャラクターのデザイン次第。一晩で完成するときもあれば、一カ月かけて作る場合もある。メイクそのものは洗顔から完成まで30分ほどだそうで、ウイッグを着用して、完成した衣装を身にまとい、キャラクターに変身するのに要する時間は1時間ほど。

海外で知られるようになったのは、Facebookで自分のコスプレページを作成した後からだ。頻繁に英語でのメッセージをもらうようになり、『進撃の巨人』に登場する立体起動装置の制作過程や作り方をネットにアップロードした時には、国内外からたくさんの「いいね!」をもらうことになった。『進撃の巨人』のコスプレに関しては、海外のイベント主催者たちが口を揃えて「ぜひ、私の国に持ってきて欲しい!」というリクエストが寄せられている。それでも、本人は「今まで納得行くコスプレをできたことが無い」とストイックに言う。

立体機動装置の作り方を解説したブログはこちら

これまでにコスプレイベントで訪問した国は前述のように46カ国。その中でも規模の大きいコスプレイベントが開催されるシンガポールには10回近く訪れている。イベント時には海外メディアからのインタビューもこなすが、「自分の伝えたいことが別の意味で伝わるのを避けるため、必ず通訳者をつけていただくようお願いしています」という。まるで長くメジャーリーグで活躍し、英会話が問題なくてもメディア対応は誤解を避けるため通訳を付けるメジャーリーガーのようだ。自身の英語力に関しては、「とても下手ですので、特に仲良い友人とだけ英語で会話をするようにしています」と語る。

オーストラリアのメルボルンで開催された「Animaga Expo 2017」でのインタビュー映像

多くのコスプレイヤーは「芸能人」になりたいわけじゃない

スイス最大のアニメの祭典「Polymanga(ポリマンガ)」に2017年に出演した際の模様

今年の3月には「大好きなコスプレを今後も続けたい!」がために、12カンパニー株式会社というコスプレプロダクションを設立し、社長となった。「もっと多くの若い人たちにコスプレを始めてもらいたいと思いました。その想いで会社という形にしたという感じです」という。YouTuberが所属するプロダクションとしてUUUM(ウーム)という会社が有名だが、そのコスプレイヤー版のようなものだと言えばわかりやすいかもしれない。

最近では芸能人のようになっていく方が出てきたので、周りはそれがコスプレイヤーの最終目標だと思っている方も多いのですが、ほとんどの人はそう思っていないのではないでしょうか。なので私も芸能人ではなく、コスプレイヤーのまま活躍できる場を増やしていきたいと思っています。コスプレは、本気になればなるほど費用も掛かるため、少しでも仕事として活動できれば皆が安心して続けられるのではと思っています。コスプレをやめた方もこの業界に関わっていけるよう、職を提供出来るようになれたらと思っています」と同社の具体的なビジョンを語ってくれた。

コスプレビジネスというと、イベントにコスプレイヤーを派遣する人材ビジネス、コスプレイベントをプロデュースする企画・コンサルビジネス、衣装製作ビジネス、写真集などの出版ビジネス、小道具などの物販ビジネスなどが思い浮かぶ。同社のビジネス領域はこれらすべてを網羅しているが、現実的にはまだ企業の企画に合致したコスプレイヤーを派遣するキャスティング業務がメインとなっている。今後は徐々に企画・コンサルをメインにシフトしていきたい考えだ。

肝心の売上だが、メインのクライアントが国内のゲーム業界ということで、売上のほとんどは日本国内で上げている。コスプレイヤーを広告で起用するとなると、アニメではテレビ放送のクール(3カ月単位)に合わせて短期間で終了するが、ゲームではソーシャルゲームなど年単位で続くものが多いのが理由だ。一方、海外で知名度が高い同氏と同社所属のコスプレイヤーであるKANAME☆氏の2名はすでに各国で活躍しており、他の所属コスプレイヤーも皆海外に興味があるため、今後は海外案件を少しずつ増やしていく予定だ。

今年10月には、7人の所属コスプレイヤーがブラウザゲームのプラットフォーム『G123.jp』の公式コスプレイヤーとして就任。また東京ゲームショウでも多くの所属コスプレイヤーが活躍している。

同社の強みは「クライアントからの丸投げでも対応できる、というのが強みです。また、多くのコスプレイヤーが在籍していますので、求められた要求に合わせたキャスティングが可能です」ということだ。ビジネス面での課題はマンパワー不足。コスプレ業界の特性を理解していながらも業界に染まりすぎていない人材を求めているそうだが、自社発の企画や営業ができる人間が足りていない。課題解消のためには、「ある程度、社内で育てていくしかないと考えています」という。

コスプレビジネスの「市場」をつくる試み

最後にコスプレビジネスの成長性や将来性について訊ねてみた。

「ビジネスとして考えると、コスプレイヤーがただ衣装を着てポーズを取っているだけでは、おそらく市場は大きくなりません。ゲーム・アニメ以外の企業さんも、オタク層に対するマーケティングには興味を持ち始めているとは思いますが、別にコスプレイヤーを使わなくても広告できますので。自分たちからどんどん動いて仕掛けていかないと、むしろ縮小する可能性が高い業界だと思っています

どんなに人気のコスプレイヤーでも、個々人の売上は、一流芸能人のギャラほどではないのでたかがしれています。もちろん中には凄い方もいるのですが、それが会社や業界という単位となると、まだまだ小さい話です。コスプレイヤーがコスプレイヤーのままで何が出来るのか、既存の枠に囚われずにチャレンジして可能性を広げていきたい、むしろ、そうしないと生き残れないと考えています。そういう意味でも、『芸能人になる!』というスタンスではダメだと思っています。それでは個人の戦いになりますので」

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12カンパニー株式会社