EVENT | 2018/11/13

「朝は寝床でグーグーグー」を実現した妖怪文化研究家、木下昌美氏|幸せに生きるためのおカネと働き方のリアル

(c) 2018 Masami Kinoshita
会社員という肩書を捨て、フリーランス、個人事業主、自営業、起業家と...

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会社員という肩書を捨て、フリーランス、個人事業主、自営業、起業家という生き方を選択した人たちが毎日どんな生活を過ごし、どのようにしてどれぐらい稼ぎ、「幸せ」になっているのか。現在進行系で道を切り拓き生きている人たちの生の声をお届けするシリーズ第2弾は、妖怪文化研究家という一風変わった肩書きを持つ木下昌美氏に話を伺った。

取材・文:6APC

木下昌美

妖怪文化研究家

奈良女子大学大学院卒業後、2012年に奈良日日新聞社に記者として入社。15年に退社し、フリーの身となる。ウェブニュースサイト「ロケットニュース24」でライターの活動を開始。16年には「奈良妖怪新聞」の発行開始。妖怪文化研究家として執筆だけでなく、講演や妖怪ツアーなども行う。

新聞記者を経て、妖怪文化研究家の活動をスタート

妖怪に興味を持ったきっかけは「子どもの頃から本を読むのがとにかく大好きでした。特に日本昔ばなしが好きで、その中に登場するオバケの類に興味を持っていました。もちろん水木しげるさんの作品も好きで、中でも『のんのんばあとオレ』が愛読書です」という木下昌美氏。九州の高校卒業後、京都の同志社女子大学に進学した理由も、大学で妖怪の研究ができることを知ったからだという。さらに奈良女子大学大学院でも「説話文学における鬼」にテーマを絞り研究を続けたそうだ。

大学院での修士課程後修了後、地元の奈良日日新聞社で記者として3年ほど勤務した後に退職。理由は「休みもなければ給料も少ないという状況だったので、辞めるしかないと思ったんです」と語る。

同氏は新聞記者時代から「大和妖怪めぐり」というブログを書いていた。ブログ読者からの依頼を受けて講演なども行っていたそうだ。そうしたことがきっかけで新聞社退職後、奈良県の妖怪の伝承を紹介する電子新聞「奈良妖怪新聞」を発行するなど、妖怪文化研究家として本格的に活動を始めた。

奈良妖怪新聞の販売サイト。毎月発行で1冊540円、クレジットカード払いだけでなく銀行振込・コンビニ払いにも対応。

妖怪関連に加えて、ウェブライターとしても活動

妖怪文化研究家としては先述の新聞発行のみならず、主に関西方面での講演や妖怪ツアーなどの仕事もこなす。東京や大阪ではなく、奈良で活動している理由については、「大学院と会社が奈良だったのでそのまま居ついてしまった感じです。奈良は知れば知るほど、妖怪だけでなくそのほかの文化や風趣が面白く、意外とまだ知られていないところが多かったことが魅力で、居ついてしまう理由の一つになっていると思います」と説明してくれた。

奈良県桜井市にある本長谷寺での妖怪ツアーの様子
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朝日新聞の取材を受けたことも

妖怪文化研究家として活動する一方で、ニュースサイト「ロケットニュース24」や、学研が運営するアニメ情報サイト「超!アニメディア」、「奈良の本」などの情報誌でもライターとして活動している。本業ってどれですか?と聞いてみると、「特に肩書や本業はこれにしよう!と気にしたことがなく、与えていただける仕事をこなしているだけなので自分でもよくわかりません。とはいえ、なにをするにしても軸はモノを書いて売ることです」と答えてくれた。

気になるおカネの話だが、「毎月の発行物(奈良妖怪新聞)と、それを本にまとめた総集編を販売しているので、毎月ある一定額は決まった収入があります。ありがたいことに、講演も月に何本か入りますし。足りない分は、ウェブメディアに記事を売ったりして稼いでいます」と収入源について語ってくれた。「会社員をしていた頃よりは稼いでいます。ほんの数万円のプラスですが、ひとりで暮らしていくには十分です」とも話す。

奈良妖怪新聞12号分の内容をまとめて再編集した総集編
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奈良健康ランドで行った地獄についてのトークイベントの模様
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生活する上での損益分岐点はいくらになるのか訊ねてみると、「具体的な数字は避けたいですが、国保などの保険、家賃と光熱費を払うことができれば生活は可能です。今のところあまり下回ることはありませんし、書けばお金を得ることができますので、今後もどうにかなると思います」という答え。

「朝は寝床でグーグーグー」を実現できて幸せ

普段の仕事風景。ほぼPCの前から動かないという。
(c) 2018 Masami Kinoshita

フリーの立場で仕事をするようになって得たものは、「自由な時間」と「自由な仕事」だという。妖怪文化研究家らしく、ゲゲゲの鬼太郎の主題歌の歌詞を引用し、「朝は寝床でグーグーグーを実現できて幸せです」ともいう。逆に失ったものは?と聞くと、「なにぶん会社がブラックだったもので、失ったものはありません」とのこと。自分の仕事を自分でマネジメントする上で気をつけている点については、「特にありませんが、今月は〇〇円稼ぐというぼんやりとした目標は持つようにしています。月によっては達成できないこともありますが」という。

フリーランスという立場で仕事をする上でのメリットを聞くと、

・やりたいことがやれる
・時間に縛られない

と答えてくれた。逆にデメリットを聞くと、

・働かなければ(お金が無くなって)死ぬこと

を挙げる。

フリーランスで仕事をする上で一番大切なことはと訊ねると、「鈍感力…かなと思います。当然、自分なりの働き方を見つけるまでに時間がかかりますし、お金が足りないという月もはじめはあると思います。そこでへこたれずに、どうすれば生きていけるかを考えられる余裕を持てるくらいの鈍感さを持てるかどうかが、フリーで仕事ができる・できないの分かれ目ではないかと思います」という見解。

会社に限らず日本の組織という団体では、どうしても同調圧力がかかる場面が多く、空気を読む能力が必要だったりする。ある意味、周囲の動向に敏感な人間が能力に有無に関わらず出世できてしまうという側面があったりするが、自分だけが頼りとなるフリーの仕事では、逆に鈍感さがあったほうがスムーズに事が進むという場面を経験した人は多いのではないかと思う。

目標は死ぬ時に振り返って“面白い人生だったな”と言えること

『妖怪新聞総集編』の刊行記念イベント
(c) 2018 Masami Kinoshita

最後に、木下氏の人生の設計図について聞いてみた。

「私はとにかくわがままなので、やりたいことをやりたいし、やりたくないことはやりたくありません。やりたいことをやるために苦しい思いをするのはまったく問題ないので、どうせならば自分が思ったように仕事をして、その中で楽しみつつ生きていきたいと思っています。目標は死ぬときに振り返って“面白い人生だったな”と言えることです」

あなたにとっての幸せとは?と聞いてみると、「美味しいものを食べて、美味しいお酒を飲むことができて、本を読むことができて、あたたかい布団で眠ることができればそれで幸せ。幸せに生きていくために必要なものは…睡眠ですかね」とやはり“朝は寝床でグーグーグー”が必須条件のようだ。

会社組織に縛られない生き方を模索している人たちへ木下昌美氏からのメッセージをお願いしたところ、「会社組織が苦手でなければ、そしてその環境に我慢できるのであれば、正直会社員の方が楽ではあるかと思います。フリーランスでも会社勤めでも、いずれにせよ働くという行為は一緒なので、まずは自分が今なにができるのか、したいのかを考えることが大事かと思います」と語ってくれた。

妖怪文化研究家 木下昌美氏の平均的な一日のスケジュール

08:30 起床
09:00~20:00 仕事(アニメをかけながら(真剣に観てはおらずBGM程度に)仕事をすることが多い)。合間に昼ごはん。時間は毎日適当で、弁当を作る時もあれば外に食べに行くことも。休憩時はコーヒーを飲んだり、漫画や本を読む
21:00~22:00 晩ご飯
24:00~ 就寝

ちなみに決まった休日は特になく、休めるときに休むものの、「好きなことを仕事にしていることもあり、仕事と休みの境目がわかりません」と語っている。