ITEM | 2023/01/27

代官山 蔦屋書店 コンシェルジュが選ぶ一年の始めに読みたい本。「時代と自分の接点」が見つかる一冊

代官山 蔦屋書店にてコンシェルジュを務める岡田基生が、日々の仕事に「使える」書籍を紹介する連載「READ FOR WOR...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

代官山 蔦屋書店にてコンシェルジュを務める岡田基生が、日々の仕事に「使える」書籍を紹介する連載「READ FOR WORK & STYLE」。第2回となる本稿で紹介するのは、NPO法人ミラツクによる『反集中 行先の見えない時代を拓く、視点と問い』という一冊です。

岡田基生(おかだ・もとき)

代官山 蔦屋書店 人文コンシェルジュ。修士(哲学)

1992年生まれ、神奈川県出身。ドイツ留学を経て、上智大学大学院哲学研究科博士前期課程修了。IT企業、同店デザインフロア担当を経て、現職。哲学、デザイン、ワークスタイルなどの領域を行き来して「リベラルアーツが活きる生活」を提案。寄稿に「物語を作り、物語を生きる」(『共創のためのコラボレーション』東京大学 共生のための国際哲学研究センター)など。
Twitter: @_motoki_okada

他者の視点を通じて、自分を見つめ直す

NPO法人ミラツク編『反集中 行先の見えない時代を拓く、視点と問い』 (ミラツク)

「好きなことを仕事にしたい」と思い、自分のやりたいことをうんうんと考えてみても、何も思いつかなかったり、なんとか導き出した結論にも自信が持てなかったりすることは少なくありません。生き物は、自らを取り巻く環境との関係で生きています。もちろん人間も。環境に目を向けず、心の内側だけを覗いても、何も見つからないかもしれません。

それでは、逆に外に目を向けたらどうでしょうか。今の社会にはさまざまな課題があります。時代が何を求めているのか、その中に自分ができること、やってみたいことがあるか。それを探っていくと、社会の中で自分が求められている役割が見つかります。社会的影響力の大きなものであれ、小さなものであれ、大切なのは自分に“しっくりくること”です。

本書は、建築、投資、宇宙、自然、地域、メディア、教育、デザインなど多様な領域で活躍する、22人の起業家、経営者、研究者たちが、どんな視点で時代を捉え、何を目指しているのかを語るインタビュー集です。

表題の「反集中」とは、一点に集中するのではなく、他の視点から物事を見ることを通して、新たな知が生まれるプロセスを表しています。

他の人たちの模索のプロセスを追体験することで、「自分もこれをやってみたい」「自分もこのやり方に近いことをやっている」「自分だったら別のやり方をする」など、自分自身の関心の輪郭が見えてきます。

自分の問いを探るための22のインタビュー

私も「今の時代の中で自分がやりたいことは何か」を問いながら、本書を読み進めました。

まず「社会課題解決のためのデザイン」の研究・実践に取り組む筧裕介さんのインタビューの中で手がかりを見つけました。筧さんは、その地域で活躍しているプレイヤー同士の分断・対立を乗り越えるための対話と協働を実体験できる、カードゲーム型のワークショッププログラムを実現しました。私は、それを読みながら「遊び」について考え、「自分なら、楽しみながら気づきが生じる仕組みをどんなふうに作るか」という問いを立てました。 

さらに「風土に根差した暮らしと文化」に関する研究と実践に取り組む上田洋平さんのインタビューにも気になるポイントがありました。上田さんは、その土地で暮らしている人に固有の感じ方や身体知を聞き出し、ひとつの絵屏風にまとめています。私は、このアプローチを「特定の場所で特定の人にしかできない豊かな体験を形にし、追体験できるようにする方法」として捉えました。それを読みながら、「ある人の中に、別の人の感じ方や振る舞い方が入ってくるとき、どんな化学反応が起こるのか」という問いが生まれました。

このように考え、問いを立てながら読み進めていると、ギリシャの哲学者・プラトンの『饗宴』という本を思い出しました。詩人、医者、哲学者など、個性的な文化人たちがお酒を飲みながら「愛」について、それぞれの見解を披露する対話篇です。饗宴という「遊び」の場では、さまざまな視点が交換され、新たな洞察が生まれていきます。

ふと、自分が哲学科の学部生の頃たくさんの研究会に所属していたのも、哲学の修士論文に政治、経済、芸術、デザイン、建築、工学など盛り込める限りの別ジャンルの視点を入れようとしたのも、「饗宴」を目指していたのだと気付きました。今、書店で文脈を作りながら本を並べたり選書したりするときも、「本と本との化学反応」を目指しています。私は、そのことを自覚したことで、より楽しく、より課題解決的な「饗宴」の仕組みを考えることにフォーカスし始めました。他者の視点という光に照らされて未来の展望が開かれることで、過去の自分が捉え直され、今何がしたいか、するべきかが定まる。このプロセスが、今回の私の「反集中」だったと言えると思います。

22人の多様な視点は、同じ時代に向き合う中で生まれているため、直接的な影響関係がなくても、相互に響き合っています。本書では、それぞれの視点がどのように関係し合っているのか、4領域、19テーマ、87項目の「キーワードマップ」として一望できるようになっています。表紙にも仕掛けがあります。ぜひ一度カバーを外してみてください。

探索の旅路のなかで、「時代と自分の接点」が浮かび上がってくる一冊です。 


代官山 蔦屋書店では、2月1日(水)から2月28日(火)まで『反集中』の刊行記念選書フェアを開催します。数量限定の購入特典として「キーワードマップ」のポスターと、問いに問いかける栞を配布します。ぜひお立ち寄りください。

代官山 蔦屋書店
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町17−5 代官山T-SITE

Twitter
代官山 蔦屋書店 人文・文学・ビジネス
@DT_humanity