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インボイス議論紛糾 根底にある「日本の過剰サービス」「賃上げ」問題を解決しないと罵り合いが終わらない
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  • 2022.11.26
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インボイス議論紛糾 根底にある「日本の過剰サービス」「賃上げ」問題を解決しないと罵り合いが終わらない

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【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(36)

倉本圭造

経営コンサルタント・経済思想家

1978年生まれ。京都大学経済学部卒業後、マッキンゼー入社。国内大企業や日本政府、国際的外資企業等のプロジェクトにおいて「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面することで、両者を相乗効果的関係に持ち込む『新しい経済思想』の必要性を痛感。その探求のため、いわゆる「ブラック企業」や肉体労働現場、カルト宗教団体やホストクラブにまで潜入して働く、社会の「上から下まで全部見る」フィールドワークの後、船井総研を経て独立。企業単位のコンサルティングで『10年で150万円平均給与を上げる』などの成果をだす一方、文通を通じた「個人の人生戦略コンサルティング」の中で幅広い「個人の奥底からの変革」を支援。著書に『日本人のための議論と対話の教科書(ワニブックスPLUS新書)』『みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか(アマゾンKDP)』など多数。

あなたはSNSで激論が交わされている「インボイス問題」について聞いたことはありますか?

ある意味で非常にマニアックな税制・実務の課題でありながら、見る人の立場によって全然違う問題に見えていて、賛成派と反対派の間に決して交わらない平行線状態が続いています。

非常に単純に言えば、日本社会の中で多少なりとも経済的に恵まれた立場にいる人からすれば、インボイス制度に反対するなんてものすごくワガママなムチャを押し通そうとしているように見えているんですね。

一方で、日本社会の中で経済的に厳しい状況に今置かれていて、まさにインボイス制度変更の影響を直に受け、反対する立場の人たちからすれば、生活が立ち行かず廃業を決断しなければいけないかどうかの分かれ目となる「切実な理由」がある。

私は今まで仕事の中で、この「両方」の世界と触れてきた経験があり、賛成・反対のどちらの立場も肌感覚で理解できる立場にあります。

そういう私から見れば、

この問題に対する立場の違いは、日本社会が今陥っている分断そのものであり、しかしだからこそ、それを乗り越える相互理解が立ち上がってくれば、他の物事でも急激に「意味のある対話」が生まれてくるはず

…と考えています。

というわけで、今回の記事では、まずはざっくりとこの問題の経緯といくつかの代表的な立場について概説したあと、どうやって解きほぐしていけばいいのかについての提案をします。

前半部分は、この問題に詳しい方には今更な内容もあるかと思いますので、そういう方は後半だけを読んでいただければと思います。

1:まずはインボイス制度とは何かをざっくり解説します。

インボイスは、日本政府が2023年10月から導入する予定の制度です。

事業者が収める消費税額を計算するときに「仕入税額控除」を行うためには、決まった様式の「適格請求書(インボイス)」を取引先に発行してもらうことが必要になります。

…と言われても頭の中に「??」が沸いた人が多いかもしれませんね。

具体的に例を挙げて説明します。

例えばA社がB社からモノを仕入れて、加工して消費者に販売したとします。

A社は消費者に販売するときに本体価格と一緒に「消費税」相当額を受け取りますが、同時にB社から仕入れをするときにも「消費税」相当額をB社に支払っているんですね。

そして、実際にA社が販売した売上から計算される消費税額に対して、既に「B社に消費税分として支払った金額」は(既に払っている分というわけで)差し引いて実際に国に納める税額を計算することができます。

これを「仕入税額控除」と呼びます。

今後インボイス制度が導入されると、その「仕入税額控除」を行うためには、B社にインボイス(適格請求書)を発行してもらう必要がある。そしてこの「インボイス」を発行できるのは「課税事業者」のみなのです。

「課税事業者」とは何かというと、顧客から消費税分の金額を受け取り、それを納税する義務がある事業者のことです。

「え?当たり前の話じゃないの?」と思うかもしれませんが、実際には「課税事業者」以外に「免税事業者」という区分もあります。これは法人なら前々年度の売上高が一千万円を超えない場合(個人事業主は前々年)は消費税の納税を免除されるという制度です。

つまり、実は消費税分を消費者からもらっていても、実際に国に納税する義務を免除されている事業者がいるんですね。

その「免税事業者」の数は、財務省が2015年に発表した推計によると513万者(法人・個人事業主の合算なので「社」「人」ではないです)であり、課税事業者の310万者を上回っています。

財務省「平成28年度 与党税制改正大綱 参考資料②-2(軽減税率制度関係参考資料)(リンク先PDF)」より

この数を見ると「普段私たちがあちこちで払っている消費税はいったいどこに行ってるんだ!?」という気持ちになりますが、とはいえ日本は零細事業者が多いので、数字を聞いて直感的に想像するイメージほど経済規模は大きくないことには注意が必要です。

また、免税されている消費税の規模がどれほどになるのでしょうか。鈴木善充氏(現在は近畿大学教授)が2011年に発表した論文(リンク先PDF)によれば、2005年(消費税5%)時点で約5000億円であり、また「今後消費税10%になった場合の影響額は8000億円程度と推計する先行研究(2001年)もある」とも書かれています。

この「免除されている消費税額分」は「益税」と呼ばれ、意地悪く言えば「零細事業者が自らのポケットに入れている可能性がある」ということで問題視されています。

(ちなみに、インボイス制度反対派の中には、この「益税」という考え方自体がおかしいと主張する人もいます。結構込み入った話なのでここで詳細は触れませんが、ご興味のある方は例えばこの動画などをご覧いただければと思います

さて。

インボイス制度の導入とは、直接的にこの「免税事業者制度」を廃止することではありません。

しかし、「免税事業者」はインボイスを発行できないので、免税事業者と取引をしている事業者はその消費税分の「仕入税額控除」を使えません。つまり消費税をより多く払う必要が出てきます。

先程の例で言うと「A社」は、もし取引先のB社が免税事業者なら、B社の分の消費税も払う必要が出てくるわけで、もし課税事業者のC社が同じ商品を提供しているなら、C社に乗り換えてしまうかもしれません。あるいは、その消費税額分をB社に値引き要求するようになるかもしれません。

それを恐れてB社がインボイスを発行できるように登録すると、B社は免税事業者の規模だったにも関わらず、消費税の納付が必要になります。

そういうわけで、免税事業者の「益税」を“間接的に”廃止していくことになり、かつ業種によっては今までになかった膨大な事務作業が発生する可能性があるというのが、このインボイス制度導入の影響ということになります。

2:「正論」を言えば否定しようがない制度ではあるが

ここまでで、インボイス制度とは何かについてざっくりと解説しました(あくまでざっくりですので、細部の説明に過不足があると感じる人もいるかもしれませんがご容赦ください)。

さて、読者のあなたは、どういう立場の人でしょうか?

実際、所得税にしろ消費税にしろその他の税金にしろほぼすべて強制的に取られている多くの会社員や、十分稼いで消費税も収めている事業経営者や個人事業主からすれば、

いやいや、消費税分として受け取ってんだからちゃんと国に納めろよ!

…と思うのも無理はありません。

特に昔は3%とかでしたが、今や10%にもなっているので、この「益税」問題は徐々に無視できなくなってきてはいるんですね(免税事業者になれる条件も段階的に厳しくなってきています)。

実際、そういう立場から、この問題が揉め続けることについてかなりイライラした口調でインボイス導入反対派を批判している人をSNSでよく見かけます。

しかし一方で、実際にこの「免税事業者」の中の一部の厳しい立場に置かれている人たちからするとかなり死活問題で、必死に抵抗するのも無碍に否定できないと私は感じているんですよね。

言ってみればこの記事は、「インボイスに反対するなんて頭おかしいんじゃないの?」と思っているようなタイプの人に、この問題をもう少し違う視点から見て、この対立に何か発展的な解決策の切り口を見出してもらいたいと思って書いています。

次ページ 3:日本社会の「ギリギリな立場」の人に、日本社会の「主流派」は甘えている。

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